048話 新旧対決
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俺が最初に天野天命という男を見た時、その顔を見て何とぶっきらぼうな表情をする男なんだと思った。
男には全く興味ない俺も一瞬で印象に残ってしまう程に。
クラス表の前で5等級クラスを嘲笑する男が言うには、"暴れ鬼の天命"なんて大層な二つ名まであるらしい。
あぁ、こいつはそういう奴かと勝手に納得した。
そうかと思えば、あいつの周りには常に人がいた。
最初は女ばかりで、羨ましいと思うと同時に憎たらしかった。
何であいつが、あいつばかりが。
同じ落ちこぼれのはずなのに何が違うんだよって。
しかも、俺が一目惚れした犬子姫まで。
だから、俺は近付いた。
仲良くする振りをした。
こいつがどんな人間なのか自分の見極めてやろうと思って。
そして、気付けば俺もあいつの周りの1人になっていたことに今になって気付いた。
───
「どうするンゴ?あれは絶対強いでしょー。無理無理、自陣へ即刻帰宅するべき」
なんでか女子生徒ではなく、俺の隣には二階堂がいる。
ただでさえその事実が腹立たしのに、横でワーワー騒がないで欲しい。
相手はただのゴリラっぽい男子生徒。
野生の動物じゃなければ、死ぬ心配もない。
「馬鹿言え。放送を聞いてなかったのか、二階堂。俺達は最下位。敵クラスの戦力を削りながら、ポイント稼がないと俺達は勝てない。俺達が勝てないと彩姫は……」
「いや、天野氏の言い方的には1等級クラス以外どこが勝っても良いって」
「だから、馬鹿なんだよ。そんな不確定な要素に任せるより、俺達が勝てば確実に彩姫を救えるだろうが。ほら、行くぞ」
隠れ蓑にしていた木を手放して、ゴリラ並みに体格の良い男へと近付く。
「おい、ゴリラ。貴様が何等級クラスか知らないけど、大人しく捕まってはくれないか?」
「ちょっ、ストレートすぎる物言いで草。危険球過ぎて、乱闘騒ぎになってもおかしくないレベルなんですけど」
「むむっ?ゴリラってのは俺ことか?」
のっしりとした動きで振り返る。
やはり見立て通り、コイツの動きは速くない。
喧嘩する訳でもあるまいし、二階堂と2人掛かりで相手をすれば簡単にポイントゲットだ。
「ガッハッハッ!面白いジョークだ!ん?冗談じゃないって?そいつはちょっぴり失礼な奴だな。お仕置きが必要だ……なッ!」
腕を一振りしただけで、拳が当たった木が抉れる。
しかも、ゴリラの手は無傷だ。
あれは本当に人間か?
簡単にポイントゲットと思った矢先にこれとは、心が折れるな。
「おい、あれ?人間だと思うか?今、素手で……。ちょっと聞いてこいよ、二階堂」
「いやいやいや!今の見せられて行こうかとなるワイじゃないんだが!三途の川でクロールする方がまだ生還率高いんだが!怒らせたのは鳳凰院氏なんだから、自分で謝りに行くのが無難なんだが!」
「ふざけんな、馬鹿か。あんなのに近付いたら死ぬだろ」
「そんなところにワイを!?本物のど畜生なんだけど!?」
「面白い漫談はその辺で良いか?こっちも勝ちたいんでな。少しでもポイントは欲しいところなんだ。悪いが大人しくやられてもらえないか?」
痺れを切らしたらしく相手の方から向かって来る。
こうなれば覚悟を決めるしかない。
たった2回先に触れたら勝ちだ。
こっちは4回。
どう足掻いてもゴリラの勝ちはない。
「やばいっ!来てる!ゴリゴリのゴリラ来てる!一旦退散して、天野氏に駆除を要請するべきだよ!」
そんな情けない真似が出来るか。
天野が口を滑らせて、姫達にその事が知れ渡ったら一生の恥になる。
誰か助けを乞うくらいならここで死んでやる方がマシだ。
「むっ?今、天野といったか?その天野は天野天命のことか?」
「ひぇっ!そうです!天野天命!暴れ鬼の天命!」
「……ガッハッハッ!それならそうと言ってくれたら良いのに!そうかそうか!5等級クラスの奴らだったか!」
天野の名前を聞いた途端に上機嫌になるゴリラ。
何がどうなっているか分からないが、おおよそ天野の知り合いなのだろう。
この偶然は追い風だ。
油断している内に触れてしまおう。
男に対して見せるのは癪だが、精一杯の作り笑顔を浮かべて近付く。
距離が1歩、2歩と近付く度に増して行く緊張感。
変な疑いなど掛けずに、友好的だと思い込んでいて欲しい。
二階堂も状況を察して、天野についての会話でゴリラの機嫌取り。
本当に仲が良いようだ。
話しをするたび、笑顔が増して行く。
よし、この距離まで来れば射程圏内。
逃げられる心配はない。
「しっかし、意外だな天命も」
口調が落ち着く。
興奮にも近いテンションで話していたのが、急に。
勘付かれたか?
そんな疑問を抱く前にゴリラ男目掛けて飛び掛かった。
「こんな卑怯者と仲良くするなんてなッ!」
二階堂の背後に回られた。
そして、突き飛ばされる。
咄嗟のことでバランスを崩した二階堂は、足が絡まりこちら目掛けて転んだ。
受け止めることも避けることも出来なかった俺は、二階堂諸共倒れ込む。
完璧に気付かれていないと思ったのに何故。
それよりも相手は無傷なのに、こちらは触られてしまった。
アドバンテージはまだあるが、不意打ちも効かないとなると油断は出来ない。
しかも、二階堂がもう1度触れられてしまえば、勝ち目も遠ざかる。
逃げる方が危険は少ない。
無難まである。
二階堂は既に逃げる準備を始めているしな。
「待て、2人で倒すぞ。俺に策がある」
彩姫の為に、鳳凰院蓮は本気を出す。
それが彼のポリシーだから。
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