044話 無法地帯
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「面白い奴じゃんか!アイツから味見するか?昇也!」
「……アダージョ」
「ったく、つらねーな。おい、お前ら。まずは様子見に行ってこいよ。でも、あっちは素人だ。怪我させんじゃねーぞ。後々、面倒だ」
取り巻きの1人が活気良く飛び出して来た。
俺は斉藤の前に出る。
斉藤の運動神経をまだ信じてきれていない。
階段を登るだけで息の上がる奴だ。
無理はさせられない。
「ちょっとどいてなよ、天命のアニキ」
後ろから肩を叩いて、首を振る。
そして、俺よりも前に出た。
「いや、でも」
「良いから、良いから」
「舐めんじゃねーぞ!チビ1人で何が出来んだ!」
ガタイの良い男は、獅子倉の忠告など無視。
飛び出した勢いのまま、拳は確実に握られていた。
斉藤との体格差を考えれば、当たれば怪我では済まない。
俺のせいでクラスメイトが、
「おい、お前誰の命令無視しようとしてんだ」
獅子倉の声が森の中を静かに、それでも威圧的に響き渡る。
同時にあれ程勢いのあった動きがピタッと止まる。
微々たる震えを帯びながら。
「聞き分けがないのは結構だが、刃向かう相手間違えんなよ?殺すぞ」
「あ、あぁ、済まない」
「……分かれば良いんだよ!俺もあんま仲の良いクラスメイトを殴りたくはないからな!さぁ、続きを……始めろ」
自然な笑顔に戻る。それがまた怖い。
獅子倉が手を叩いて開始の合図を送ると、睨まれた小動物のようだった男がまた動き始めた。
今度は本人の意思はない。
ただ恐怖に支配された者の動きだ。
今までに何度も見て来た動き。
斉藤は尚も逃げなかった。
どうするつもりなのか。
あの距離ではお得意の催眠術も掛ける暇がない。
相打ちを狙って日纏に回復してもらうのか。
にしても、動きを見せないのが不思議だ。
「猿も大概だね。お山の大将に怯えて恥ずかしくないの?もっと賢くなれないの?人間の形してるけど、所詮は猿か」
火に油を注ぐとはまさにこの事。
ようやく勢いを鎮めていた火は、斉藤の手によって再度轟々と燃え盛る。
「チッ、そういうタイプか、アイツは。おい!バカ!挑発に乗るなよ!」
人には少なからずプライドがある。
例えどれだけ小さくなろうと、ぐつぐつと心の底で燃えるプライドが。
今、斉藤の目の前にいる奴は、獅子倉に対する恐怖よりもそんなプライドを優先したらしい。
「舐めてんのか!!!」
2度目の制止は効かず。
華奢な身体の斉藤が吹き飛ばされる。
「斉藤くん!!!」
日纏がすぐに駆け寄る。
そして、軽蔑した目で殴った男を睨んだ。
「何だよッ!そいつが先に!」
「おい、言ったよな。殺すぞって」
獅子倉は、後ろから頭を鷲掴みにしてそのまま地面に押し倒した。正確には、押し潰したという方が正しい。
地面こそヒビ割れはしなかったが、押し倒された男の体はヒビ割れるのではないかと思うほどに痛々しい音を立てている。
苦しい、助けてと叫ぶ姿が見るに堪えない。
そして、もっと見るに堪えないのは、嬉々として暴力を振るう獅子倉の方だった。
「空を見ろ。監視用のドローンだ。腕に付いたブレスレットは暴力にも反応する。イエローカード1枚で監視対象。2枚目で、教師が飛んで来る。ここへ到着するのは15分。いや、10分強といったところだ」
倒れた男を睨み続けながら、話を続けた。
「お前、俺が天命と遊ぶ時間を減らしたってのが、分かってんのか?監視付いたということは、教師はいつでも動ける準備を始めてるって事だ。あれさえなければ、20分は時間を稼げた」
「そんな……ルールはどこにも」
「誰が喋って良いって言った?チッ。もうこうなれば、おっ始めるか。昇也、準備を始めろ」
「……プレスト」
軽く身体を慣らし始める2人。
何を意味するのかは、この場いる全員が理解していた。
教師が来るまでの間、ここが無法地帯になる。
読んで字の如く、無法地帯に。
斉藤は読み違えた。
獅子倉は退学を恐れて、手を引くと。
そういう算段だったのだろうが、奴は生粋の馬鹿だ。
行動の最優先は快楽、もとい暴力である。
退学などは最初から恐れていない。
「お前らももう好きに暴れて良いぞ。メインディッシュは俺達が頂くがな」
斉藤と日纏を狙って有象無象が動き出す。
斉藤は怪我をしている。
日纏は怯えながらも斉藤の前に立ち、有象無象の行手を遮った。
俺も助ける為に動かなくては、
「おい、無視はないだろ?楽しく暴れようぜ、血が騒ぐまで」
左から鋭いストレート。
避けるのは造作もないが、避けていては斉藤達を助けには行けない。
殴られてでも強引に突破するべきか。
相手もそれを望んでいるんだから。
「おっ、良いねー。こっち側の顔付きになってるじゃんかよ」
「……フォルテッシモ」
音無さえも動き出す。
獅子倉との息の合った連携は、反撃の隙を簡単には与えてくれない。
まだ理性を捨てきれない俺は防戦一方。
「キャーーー!やめて!」
日纏の叫び声。
強引に腕を掴まれている。
斉藤が地面を這いつくばりながら、止めようとするが、無意味だった。
その時、俺の心に繋がれていた鎖は千切れる。
頭に血が昇る感覚を思い出す。
「良いね、その目だよ!その目!」
「黙れよ、カス」
興奮している獅子倉が距離を詰めてくる。
何度目かの攻撃。
喧嘩慣れはしているみたいだが、捉えられない程速い攻撃ではない。
上半身だけを動かし避ける。
反撃に腹部へ1発。
獅子倉は衝撃に耐えられず、胃液を吐き出す。
ただ痛みには耐性があるらしい。
何事も無かったかのように動き出す。
クソッ、邪魔だ。
日纏が、斉藤がピンチだってのに、こんな奴相手にしてる暇はない。
「助けてッ!」
クソッ、どうすることも出来ないのかよ。
切ない日纏の声に、焦りが一層強くなるだけだった。
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