042話 鬼への挑発
誤字脱字や文章の下手さについてはご了承下さい。投稿予定時間になるべく投稿できるようにします。
面白いと思っていただけたら評価やコメントお待ちしております!
嬉しそうな笑顔で仁王立ち。
反撃する素振りも見えない。
どこまで俺をおちょくれば気が済むんだ。
右手の拳に怒りを込めて、全力で振り抜く。
確かに伝わる頬の感触。
触れるという表情よりは殴るだったが、男のブレスレットは、ルール説明の通り黄色に変化していた。
色の変化にタイムロスは見受けられない。
男は殴られたのに、屈託のない笑顔をしている。
直撃したというのに痛そうな素振りすら見せない。
俺が化け物なんて呼ばれていたが、俺からすれば男の方がよっぽど化け物だ。
「懐かしいな天命。昔を思い出す」
天を仰ぎ、過去を懐かしむ男。
「お前との喧嘩が日常茶飯事だったからな」
「ガッハッハッ!楽しかったな、あの時は!……行け。でないと、本当に捕まるぞ」
「お前が呼んだんだろうが」
「フッ、こうでもせんと本格的にぶつかり合うことになっていただろうが。俺は謝罪の1発を受ける為に、顔を出したまでよ」
アイツは悪気があって、秀愛に受かっていたことを隠していたわけではない。
だから、償いのつもりで黙って1発受けた。
男は、そういう漢だ。
「つまり、次会った時は容赦しないってか」
コクリと頷き返事をする男。
コイツとは恋愛祭の中でまた会う気がする。
いや、そうでなかったとしても、学校で話を聞かせてもらう。
だから、今は撤退することにした。
「逃げるぞ、犬子」
戸惑う犬子の手を引いた。
「よ、よく分からないッスけど、お疲れ様」
「変に疲れた気がする」
深い溜息を漏らす。
よりもよってこのタイミングで考え事を増やすなんて。
その場を後にした瞬間、背後から大勢の声が聞こえた。
入れ違いで男とクラスメイトが合流したのだろう。
少しでも遅れていたら蜂の巣にされていたな。
走りながらも顔だけ振り向くと、男は大きくこちらへ手を振っていた。
呆れた。
敵である俺と仲良くしてどうすんだよ。
クラスメイトも訝しんだ様子で男を見ている。
「ちょっと変わった友達がいるんすね」
「あれがちょっとに見えるか?大分変わってるだろ」
「でも、仲良さそうに見えたッス。中々見れない天命の楽しそうな顔も」
「馬鹿だけど、良い奴なんだよ昔から」
「ふーん、羨まし」
男と俺の会話についていけなかった犬子は、不満そうにそう漏らした。
とりあえず、1クラスの視察は完了した。
自陣に情報を持ち帰って始めて、偵察の意味を成す。
時間的にはどこにどのクラスがいてもおかしくはない。
視界の悪い森の中。
奇襲についても気を配らないと。
変わり映えのない景色の中で、来た道を思い出しながら走った。
自陣に戻るまでは早かった。
行きは少し余裕そうに歩いていたのもあるのかもな。
結局、自陣に戻るまでの間に他の生徒と遭遇することは無かった。
喜ぶべきなのかも知れないが、状況が分からず少し気味が悪い。
この気味の悪さを拭う為に、早く情報共有をして、偵察へ戻りたい所だ。
「これ、どうなってんだよ」
「……見張りが1人しかいないッス」
1人声も上げずに座り込み震えている風々。
当初の予定では男女4人が見張りをしているはず。
風々と雷々はセットで行動したかった為、見張りを買って出た。
なのに、今は1人だ。
犬子が風々に駆け寄り、乱れた呼吸を落ち着かせた。
話が聞けるようになるまでは、優しく優しく語り掛ける。
2、3分するといつもの調子を取り戻して来た。
俺だけだったら、こんなに早くは立ち直ってはいなかっただろう。
犬子の明るさがあってこそだ。
「な、名前はわからないけど、だ、男子が2人来て」
男子が2人と聞いて、少しピンと来る。
「そいつらがみんなを一瞬で……。風々もやられるって思ったんだけど、お前は天野天命に伝言を伝えろって言われて」
「なんて言われたんだ?」
「最高に楽しい殴り合いをしようぜって。雷々、大丈夫かな?きっと必要以上に殴られたりとか。ごめんね、雷々。ごめんね、雷々。ごめんね、雷々」
風々がまた取り乱し始めた。
いつも一緒にいるはず雷々がいないことは、彼女にとっては相当不安になるようだ。
ましてや、イかれた男達と遭遇。
トラウマにならないかだけが心配になる。
そのイかれた男達は、獅子倉と音無の2人だと思ってまず間違いない。
俺と直接戦う為、真っ先に5等級クラスの陣営へ乗り込んだのか?
場所も分からないはずなのに。
運が良い奴だ。
まずい事になったな。
本当に殴り合う訳にもいかないが、学校側は多少の荒事は黙認している。
皮肉にもそれは俺の手によって証明されてしまった。
アイツらの事だ、既に何かをキッカケにその事に気付いている可能性は十分ある。
「俺が行く。相手はそれを望んでるんだろ?」
「ダメっすよ!それじゃあ、相手の思う壺ッス!何があるか分からない現状で、1人で行くのは得策とは思えないッスよ」
「だからって、風々を1人には出来ないだろ。死ぬ訳じゃないんだ。ただ売られたもん買いに行くだけ」
行かないといけない。
俺が、俺の過去が招いた事だ。
クラスメイトを不安にさせた。怖がらせた。
自分の事は自分で。
今までそうやって生きて来た。
「……死ぬッスよ、心が。どれだけ痛みに耐えられても、心が死ぬッス」
「尚更、あり得ない話だ。俺は散々喧嘩して来た。1人や2人増えた所で何とも思わない。まぁ、退学にならないくらいには加減するって」
「1人では絶対に行かせないッス」
俺の前に犬子が立ち塞がる。
両手を目一杯広げているが、そんなのは何の意味も成さない。
あまりにも非力で、あまりにも果敢だ。
眩しさは時として毒になる。
今の俺には特に。
あぁ、俺はいつになったら俺に許されるのだろうか。
情け無い事を考えながら、犬子の制止を振り切った。
ご覧いただきありがとうございました。
よければ評価、ブックマーク、いいねお願いいたします。めっちゃモチベーションに繋がりますのでどうか、どうか!!!




