037話 浮気の定義
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ワイシャツを締めているネクタイを少し緩める。
彼にとって、ここは家の様に寛げる場所のようだ。
対面にあるソファーに深く腰かけると、同時に葉桜先輩が紅茶をさっと横から差し出す。
ありがとうと軽く感謝を述べてから一口いただく姿を見て、熟年の夫婦のような連携を感じる。
「ディベート部の見学の話だったね」
剣海先輩がティーカップを綺麗に置いてから、本格的に話し始めた。
「見ての通り、私達ディベート部は大した活動はしてなくてね。それでも、こうやって続けられてるのは大会での成績が良いからなんだよ」
「ディベートって大会とかあるんですね」
「意外かい?社会問題とかを議題にしてディベートをするんだよ。私としては、朝食は米かパンかぐらいの軽い議論の方が好きなんだけどね」
何となく分かる気がする。
肩肘の張った話よりは、中身の無い話を真剣に考える方が楽しい。
事実、例題として出されたテーマでさえも気になる自分がいる。
「そうだなー、今日は見学者もいる事だし、誰でも参加しやすいテーマにしてみようか」
唸りながら考える素振りを数秒見せる。
アウェーな場所での沈黙は気まずい。
こちらから案を出す勇気もないので待つしかないのだけど。
「よしっ、決めた!他にパートナーのいる男女で食事に行くのは浮気になるか。是か、非か。これにしようか。恋愛学校らしいテーマだと思うんだけど」
「それはそうですけど、中々ズバッと切り込んだ議題ですね」
「小白はこれが良い。面白いテーマ」
オマケで見学している身としては、小白がこれで良いなら否定する事もない。
「そうだな、いきなり2人でやってみろというのは難しいだろうから、それぞれ補助としてこちらからも1人助っ人を出そう。小白くんには私が、天命くんには紫乃くん、君に頼もう」
名前を聞いただけで背筋が凍る。
俺の事を毛嫌いしている彼女の事だ。
俺と一緒にディベートすると聞いたら苛立ちが抑えられないはず。
「しょうがないですね。部長の頼みなら断れませんよ」
部長と俺が場所を入れ替わり、俺の隣に高飛が座る。
意外にも素直に従う彼女に驚きを隠せない。
もっと抵抗するもんだと思ったんだけどな。
相当ディベートというものが好きなのか?
「何よ、ジロジロ見て。言っておくけど、別にアンタの為じゃないんだからね。部員が増えた方がこの部の為になるから仕方なくよ」
「さいですか。わざわざすみませんね」
高飛はそれだけ言って、前を向く。
「それじゃあ、浮気になる側を私達が、ならない側を天命くん側が。議論は軽く3分間で行おう」
テーブルの上に置かれたどこにでも売っているようなキッチンタイマー。
甲高い電子音を鳴らして、タイマーが進み始めた。
時間が可視化されている状態で、秒数が徐々に減っていくと焦りを感じる。
「じゃあー、まずは、どうして浮気になるのか。小白くんの意見を聞かせてもらおうかな」
剣海先輩が見かねて進行役を買って出る。
「男女2人きりで食事に行く場合、どちらかに好意がある可能性が高いから。そうでない場合は複数人で行けば良い」
最もな意見だ。
大半の人が頭を過ぎる。
恋愛感情があるから、2人きりを選ぶのだと。
ただし、これには穴がある。
「好意があるだけでは浮気になるのか?あくまでも個人的な観点だけど、浮気って、そのー、あのー、密接な身体的接触つーの?があったらなんじゃないの?」
「好意どうこうはおいておいて、食事したからって浮気は飛躍しすぎなんじゃない?」
小白は押し黙った。
浮気をどう定義付けるのか。
最初にすべき話し合いはそこからだ。
小白の意見を取り入れるなら、心が靡けば浮気。
俺達の意見は、身体的な交流があれば浮気。
ここを決めなければ、先へは進めない。
「うんうん、そういう意見か。でも、強ち飛躍し過ぎとも言えないんじゃないかな?私達はまだ未成年だけど、成人した人の食事にはアルコールが付き物。関係性云々をおいておいたとしても過ちが起こる可能性はあるよね」
「過ちを犯す可能性があるのは全て浮気に概念する。犯罪だって未遂でもアウト」
「確かにそうだね。浮ついた気持ちと書いて浮気な訳だから。可能性の時点で浮気に該当するんじゃないかな」
幅広く自分達の論理を展開する。
可能性と言う言葉は何でもありと同意義だ。
揚げ足を取ればいくらでも話を有利に進められる。
「でも、可能性って話をしたらキリがないですよ?」
高飛が待ったを掛けた。
先輩相手でも怯まない姿勢は素直に尊敬出来る。
俺もこの流れに乗らなければ。
「シチュエーションが食事に限定されるのであれば、ただコミュニケーションの1つに過ぎないですよ。お酒だって大人であれば、酔い潰れる飲み方はしないと思いますし」
「そうそう、話は限定されてるから、それ以外の事を出されても」
「でも、食事の後から連想される事は考慮しておくべきだと思う」
もう一押しすればこちらに流れを持っていける。
そう思い言葉を発しようとした時に、電子音がまた鳴り響いた。
何回か耳に入ってからようやくディベートが終わったのだと気付く。
自分でも想像出来ないくらいのめり込んでいたみたいだ。
3分という時間はあっという間に感じた。
「今回は敢えて結論は出さないでおくけど、どうだったかな?楽しんでもらえたかな?」
「はい、気付けば終わってたって感じでした」
「それが狙いだからねー。ちなみに結論を出さないのは、どっちかに優劣付けたら片方は入部する気失せちゃうから」
どこまで計算高い人なんだよこの人は。
人の心理をよく分かってる。
「小白も楽しかった。剣海さんみたいに話すの上手くなりたい」
「おっ、嬉しいこと言ってくれるね!」
「みんなお疲れ様、紅茶淹れ直しておいたよ。それと、クッキーもあるから一緒にどうぞー」
丁度良いタイミングで葉桜先輩がクッキーと紅茶のおかわりを持ってきてくれた。
3分間でも結構喋り、喉が渇いていたので有難い。
引き締まった空気が解け、ゆったりとした空気に戻る。
この何とも言えない温度感が、サウナを彷彿とさせる心地良さを感じさせた。
サウナ行ったことないけど。
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