003話 自己紹介は命を賭けて
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そろそろ入学式が始まるというのに俺達は教室に取り残されていた。
クラス分けを確認した後に、校内アナウンスで5等級クラスだけは教室へ向かうようにと指示を出されたのだ。
何で俺達だけ?と思ったが、きっと5等級クラスの差別的な扱いは生徒だけに留まらず、教師にも根付いているのだろう。
邪魔な5等級クラスは入学式にすら参加させてくれないのか?
だったら、最初から入学させなければ良いのに。
恨みを持った落第生クラスの生徒に、ネットへ悪口を拡散されればひとたまりも無いだろ。
まぁ、国が運営していることを考えればネットの悪口くらい握り潰せるんだろうけど。
「よし、全員集まってるな」
少し遅れて1人の教師が入室して来た。
高身長でモデルのような体型、高級そうなスーツに黒いストッキングでハイヒールを履く女教師。
髪を後ろで括っているのが働く女性って感じを助長させる。
「デュフフ……。ワイ、最高のクラスに入った件」
「スッゲー!可愛いッス!何あれ!女のウチでも結婚したいッス!」
「貴方が俺の姫ですか。2人で食事にでも行きませんか?」
男女関係なく騒がしくなる。
これが恋愛を教える学校の教師か。
立っているだけで人を魅了する力がある。
まだ名前を名乗っていない女教師は、席に座る俺達の周りを徘徊し始めた。
先程までうるさかったクラスも、異様な行動に静かさを取り戻す。
適度な緊張感と、何が起こるのかという不安だけがそこにあった。
「あの俺達は入学式とか参加しなくて良いんですか?」
流石に長い沈黙が耐えきれ無くなったので、思わず質問を投げ掛ける。
女教師は待っていたと言わんばかりに、口角を上げてから口を開く。
「入学式なんかに意味はない。形式上の祝いを2時間も3時間もやるくらいなら、その時間を学びに充てる方が賢い選択だと思わないか?」
「まぁ、それは……一理あるかもしれないですけど」
「今から早速授業を始める。最初に君達へ教えるのは"自己紹介"だ。まずは試しに君から自己紹介を始めてみようか」
自己紹介が最初の授業!?
確かに学校とかでは自己紹介とかやらされるけど、授業にするまでのことではないだろ。
それともオリエンテーションみたいな感じの授業なのか?
どちらにせよ、指名されてしまった俺は先陣を切って自己紹介をしなければならない。
「えーっと、天野天命です。こんな身なりですけど、悪い奴じゃないので仲良くしてください。……みたいな感じですか?」
「5点」
「10点満点ですよね?」
「100点満点だ。悪い所をあげたらキリがないな。最早、名前だけの言った方が点数が高いまである。よく今まで生きて来れたものだ。自己紹介とかせずに生きてきたのか?」
低すぎるだろ。
95点分の減点って赤点どころの騒ぎじゃないぞ。
え?俺、自己紹介とかしない方が良いレベルなの?
「ストップ!ストップ!天命が泡吹いて倒れちゃうッスから!一生物のトラウマ抱えちゃうッスから!」
「あり……がとう。狛町、後の事は……頼んだ…ぞ」
「てんめーーーい!」
「そこ、うるさい。席戻れ」
「「うっす」」
とりあえずはすっと席に着く。
自分でも出来の良い自己紹介が出来たとは思っていないから、想定よりも傷付いてはいないしな。
気になるのはここからどうやって指導するのか。
自己紹介って少し学んで劇的に変わるものなのかという疑問がある。
そこはきちんと恋愛を学ぶ学校として、実力を見せていただきたい。
「今の自己紹介、どこが悪かった分かるか?二階堂千隼」
「ワイ、指名されてて草。天野氏の自己紹介、声小さ過ぎてワロタ。もっとハキハキ言わないと年間500タイトルのアニメを見て耳の肥えたワイは、聞く気にすらならなかったんだが」
「そうだな。1つ目は声のトーンだ。入学式での自己紹介で緊張する気持ちも分かるが、声のトーンは第一印象に大きく影響する。統計では身なりの次に影響すると言われているから、自己紹介では内容よりも注意すべきだと言って良いだろう」
他者から冷静に分析されると恥ずかしいな。
だけど、言っている事は納得出来る。
一定のトーンで淡々と話されると聞く側は興味を持ちづらい。
比べて、笑顔でハキハキで話されたら、余程捻くれている相手でなければ、"聞く"という心構えになる。
内容よりも大切というのはそういう所だろう。
いくら話が面白くても自分のフィールドに立たせなければ意味はないからな。
「はいはーい!もしも、声のトーンが良ければ100点にまで上がるッスか?」
「良い質問だ。結論、それは無理だな。良くても70点か80点だろう。何故か分かるか?」
「うーん、分からないッスね?強いていうなら短いとか?」
「それもあるが……」
「……自虐的だったから。ですよね、姫」
ホストみたいな男子生徒が教師の会話に割って入って解説する。
「姫と呼ぶな、先生と呼べ。まぁ、正解だ鳳凰院蓮。ホスト志望の君なら補足説明も可能か?」
「単純にネガティブな言葉よりもポジティブな言葉を好むのが人間の傾向だからというのもありますが、センシティブな話題なので触れ辛いというのが大きいかと。会話はキャッチボールな訳ですから、元々取れないボールを投げられても困りますよ」
身体的特徴を自虐的に弄るのは、相手にとって気まずいのか。
「だとしたら、どんな内容が良いんですか?正直、好きな食べ物とか言っても興味ないと思うんですよね」
自分の自己紹介がいかにダメだったかは分かった。
でも、それは自分でも何となく理解していた話だ。
腕の見せてもらう為には、指摘するだけでなくここからどこまで改善してくれるのかを見せてもらわないと。
「自虐的だという印象で終わってしまうことに問題があるのであって、内容を大きく変える必要はない。顔は筋者みたいだと言われますが、任侠映画よりも子供向けアニメの映画とか見て泣くタイプです。見た目は怖いと思いますが、噛み付いたりはしないので仲良くしてください。とかだと、ユーモアに振り切ってあって相手からも話題にしやすいし、他の情報も混ぜてあるから会話が派生しやすだろう」
「おぉー!すごいッス!確かにそれだとあの般若みたいな顔の天命も親しみやすく感じるッス!」
アイツ、言い過ぎだろ!
そこまで言ってないから……いや、筋者も酷いか。
「良いか?まとめると次の要素に気を付けるんだ」
ようやく、授業らしく白いチョークで耳触りの良い音を立てながら、板書を始めた。
・声のトーンに注意。表情や声のトーンは印象に大きく影響する
・相手に触れ辛い内容は控えよう。もしも、入れる場合はユーモアを交えて相手が触れやすく
・長過ぎず、短過ぎずを意識する
・相手が興味を持ちやすい話題を入れるのがベスト
「さぁ、これを踏まえて私が自己紹介を。丹波菜乃葉だ。趣味は1人で映画を観ること。だけど、最近1人で映画を観るのも寂しく感じて来た。誰か私と一緒に映画を観てくれる人を募集している。興味ある人は是非声を掛けて欲しい」
趣味が映画鑑賞か。
幅広いジャンルの映画がある事を考えると、大勢の人間が参加しやすい内容であると言えるだろう。
それにさりげなく映画へ誘っていることからも、遊びへ行くハードルは低くなる。
ただ、生徒である俺が1つ問題点を挙げるとすると、
「ワイ、美人教師と映画館デートが決まる。おっと、そうと決まればこれはスレ立てしないといけないですな」
「姫……。やっぱり恥ずかしがっていただけで俺とデートしたかったんですね」
「行くッス!映画行くッス!先生ー、今すぐ行こうッス!」
完璧過ぎて、アホ3人が反応してしまっている事だ。
授業だということを忘れて、席を立ち丹波先生に言い寄っている。
自由にも程があるだろ。
その後、流石に憤りを感じた丹波先生から淡々と注意をされて教室の後ろに立たされる3人。
クラスメイトは漏れなく、三馬鹿として認定したことだろう。
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