027話 視線は常に
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「もう当分甘い物は要らない気がする」
あの後、10分くらいは順調に食べ進めていたが、残りの時間はフォークをまともに動かすことすら出来なかった。
食べた分量は目測で1キロくらいだろう。
それだけ聞くとまだ食べられたのでは無かろうかと思うかも知れない。
しかし、よく考えて欲しい。
生クリームだぞ?あの食べた者にしか分からない重さが今でも口の中に残っている。
「もぉー、大袈裟ですよ天命様!でも、完食出来て良かったですね。この缶バッジも可愛いですし」
残りの4キロがどこへ消えたのかは口にするまでもない。
あれだけ食べて笑顔を保っていられるのは流石とでも言うべきか。
しかも、チャレンジの制限時間30分内で食べ切ったのだ。
大食いファイターの素質がある。
「賞品として貰った缶バッジ。意外とデザイン凝ってるんだよな」
缶バッジにはT・Sと書かれていた。
イニシャルだけだと、ダサいものになってしまいそうだが、そこは賞品として出しているだけある。
缶バッジはハートの型をしていて、付けるのは躊躇うが男の俺でも可愛いと思えるポップなデザインだ。
付けこそしないが、大切な記念品であることには間違いはないので、そっとポケットにしまっておこう。
「腹は膨れたし、次は何するの?」
「次はショッピングをしましょう!近くに大きなショッピングモールがあるみたいなので」
ここも迷うことなく彩は予定を口にする。
「ショッピングモールかー。小さい頃は良く連れてってもらったな。ただでさえ、広いのに子供の頃の視点だと宇宙に見えるんだよ。それでテンション上がっちゃってさ」
「ふーーん、ショッピングモールに、幼い頃……」
今までの楽しそうな雰囲気から一変。
じとっと俺の目を見つめる彩に後退りしながらたじろぐ。
「ど、どうしたんだよ、いきなり」
「いえ、何も。それより、ショッピングモールには何か思い出とかはあるんですか?」
「思い出……?いや、特には。何回か行ったけど、全体的に楽しかったなくらいの印象しか」
「……そうですか。まぁ、行きましょう!」
僅かではあったが、意味ありげに落ち込んだのを俺は見逃さない。
彼女の発言の分からない。
でも、何か意図はあるはずだ。
そして、そのヒントはショッピングモールにある……と思う。
気を取り直して歩き出した彩の後を、今はとりあえず追いかけた。
「そう言えば天命様は、部活とか入られないのですか?」
信号待ちをしている間に、気を遣ってなのか向こうから会話を振ってくれる。
「部活かぁー。あんまりピンと来ないんだよな。彩は何部に入ったんだ?参考までに聞かせてくれよ」
「私は茶道部です。弓道部にするか迷いましたが、色々あった茶道部を選びました。天命様もどうです?お茶菓子も食べられますよ?」
「あのケーキ食べた後にお茶菓子で釣ろうとしてもな。まぁ、縁があったら何か部活にも入るかも」
「その時は是非茶道部も選択肢に入れていただけると嬉しいです。あっ、そうでなくても遊びに来ていただいてくださいよ。歓迎しますよ」
今度、適当に部活の見学にでも行ってみるか?
放課後は暇な訳だし、部活は学生の特権みたいなものだ。
経験しておくのも悪くない。
最悪、合わなかったらやめてしまえば良いし。
「そういえば、小白ちゃんも入る部活を探してましたので、ご一緒に見学されてみてはいかがですか?」
「小白も?意外だな。でも、確かに言われてみれば昨日の放課後は寮にいなかった」
「天命様から挑戦することの大切さを教わったみたいで、まずは友達作りと部活動からって張り切ってましたよ」
「俺から?俺は何もした覚えはないけどな」
「天命様はいつだってそうです。でも、された側はちゃんと覚えているものですよ?」
俺がいつでもそう?
思い返しても思い当たる節はない。
今まで色んな奴に恨み辛みを言われることはあっても、何か大切さを教えたりした覚えはどこにも。
「何を考えているのかお見通しですよ、天命様。偶にネガティブになるのは唯一悪いところです。なので、めっですよ」
鼻にピトッと人差し指が触れる。
優しさのある温かさがふわっと全身を包み込む。
いつも彩には調子を狂わされるが、この時ばかりは有り難く感じる。
「ありがとうな」
「そこは愛してるも付け足していただいて良いんですよ?」
「アホか。軽々しくそんなこと言えるかよ」
「軽々しくじゃなかったら言ってくれるんですか?私としては、そっちの方がウェルカムですよ」
手を広げて抱擁するように促す彩。
彼女には1度人目というものを教える必要があり──!!?
俺は思わず振り向いた。
背後から感じた殺気。
気のせいなどではない。
獲物を狙う狩人のように鋭い。
「……誰もいない」
「どうしたんですか?急に振り向いて」
可愛らしくこてんと首を傾げる彩。
「今、誰かに見られてたような」
「人も沢山いますし、目立ってしまったのかも知れませんね」
「いや、そうじゃなくて。……まぁ、良いか」
俺の気のせいかもな。
考えすぎるのも良くない。
次に行くのは、ショッピングモール。
買い物という目的こそあれど、その種類は様々。
ある程度、何か買いたい物には目星を付けておく事に集中しよう。
携帯を取り出して調べるのは楽だけど、今は隣に彩がいる。
遊んでいる時に携帯を触るのは失礼になると思い、敢えて頭の中だけでシュミレーションを始めた。
勿論、会話も忘れずに。
なので、移動時間は苦にならない。
なんなら、足りないくらいだったとショッピングモールに着いてから思った。
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