026話 スイートタイム
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「ご注文お決まりでしたら、お声掛けくださーい!」
俺の心が偏見に包まれているのだろうか。
他の飲食店よりも店員の笑顔が眩しく見える。
でも、店に入ってから気になってしまうことがあった。
ショーケースに入っている涎が垂れる程美味しそうなケーキ。
隣のテーブルに並べられた甘い匂いの香るケーキ。
メニュー表の載せられた飛び出して来そうなケーキの写真。
脳が食欲に支配されて、今までの感情を全て忘れてしまいそうになる。
「どれにしますかと言いたい所ですが、実は最初から頼む物は決まってるんです」
俺に選ぶ権利はないこと知り、肩を落とす。
ただ彩も何か考えがあってのことだ。
ここで無理に主張するのも違う気がする。
それだったら、前もってお前が行く場所全部決めとけって話だし。
「ありました!これです、これ!」
メニュー表をこちらに見えるように差し出し、指でお目当ての物を指し示した。
どれどれと、空かした腹を誤魔化しながら覗き込む。
「……まじ?」
「はい!まじです!」
散りばめられたハートの中に、甘ったるいバブルガムのようなフォントで『カップル限定!チャレンジメニュー!5キロ映え盛りフルーツケーキ!』と書かれていた。
幻覚か?そう思わずにはいられなかった。
目を擦り、再度確認しても文字は変わっていない。
やはり、最初の通りに書いてある。
「百歩譲って、カップル限定なのは良いよ。彩の言う通り、側からは俺達の関係性とか分からないだろうからさ。でもさ、なんで5キロ?流石に多すぎないか?」
「えっ?5キロって5キロですよね?流石にそれくらいじゃ、お腹は膨れないですよ」
「……えっ?」「……ん?」
彼女は色々と規格外らしい。
あの怪力はどこから生まれるのだと不思議で堪らなかったが、ようやく解明された。
全メニューを食べると言った時に驚いていたが、誰が驚いているんだと今になってツッコミたくなって来た。
てか、それだけ食べられるのに、このスラッとしたくびれのある体型はなんでだよ。
無限の胃袋で体型維持できるのは、ピンクのマスコットか彩ぐらいだろ。
他の女子が聞いたら泣いて羨ましがると思うぞ。
「……それにするか」
「はい!そうしましょう!すみませーん!」
この答えを待ってましたと言わんばかりに、食い気味に店員を呼ぶ彩。
俺が了承するのはお見通しって訳か。
男としては情けないが、食べ切れなかったら彩に食べてもらうことにしよう。残してしまうよりはずっと良い。
5キロもあるケーキとそれぞれが飲み物を注文して、完成するのを待つ。
待っている間の会話はどれもたわいもない。
基本的には学校の話だ。
同じ学校へ通っていても、見たもの感じたものは違う。
彩の話を聞いていると、気付かないだけでそんな世界が広がっていたのかと感心する。
そうしていると、本当に食べさせる気があるのか疑わしい大きさのケーキを持って店員が現れた。
「お待たせしましたー!チャレンジメニューのフルーツケーキです!」
「うわー、可愛い!」
「これが4分の1スケールだったら、同じ感想を持てたんだけどな」
「大は小を兼ねると言うじゃないですか。小さくて可愛いなら大きくても可愛いですよ」
小熊は可愛くても、成長した熊が怖いのと同じだ。
董仲舒だって、このケーキを見たら、「小は小、大は大」って意見を変えてたと思う。
「それでは改めてルールを説明させていただきます!そちらのフルーツケーキを30分以内に完食していただければクリアとなります。フルーツの種以外は生クリームであっても残さないようお願いします。制限時間内に完食した場合はお食事代がタダになるのと、景品としてお二人の名前入り缶バッジご用意いたしますので頑張ってください。質問無ければ始めさせていただきます。それではー、レッツスタート!」
何度も説明して来たのか、慣れた口調で流れる様に説明をする。
人によって聞き逃す人もいるかも知れないが、30分ひたすらに食べることだけわかっていれば然程問題はない。
いただきますと彩が手を合わせているのを見て、俺も手を合わせフォークを取る。
「どっから食べ始めれば良いんだか分からねーな。どこにフォーク刺しても崩れ落ちそうだ」
「それなら天命様、あーーん」
「いや、その手には乗らないぞ。入学式の時もそうやって俺に食べさせて来ただろ」
「良いじゃないですかー!1回やったら2回も3回も変わらないですよ!」
変わらないよ?変わらないけど、それは俺達2人だけの場所だったらの話だ。
ここには人がいる。
もっと言えば、チャレンジメニューという目立つものを注文したので、興味津々な客がチラチラとこちらを見ている。
彩がケーキを差し出した辺りから、俺が食べるのかどうかに注目の矛先が変わったみたいだけど。
「早くしないと制限時間終わっちゃいますよー。もったいないですよー。ほーら、天命様ー!」
「ったく、これで終わりだからなー!」
「きゃー!優しい天命様!愛してますよ!」
覚悟を決めてもう1度だけ……。
そう思い口を開けた。
ガシャーンッ!
同時にどこかのテーブルで食器を落とした音が聞こえて来た。
この場にいた全員が何事かと音の出所を探る。
座っていた女性は大きな音を出したのが恥ずかしかったのか、顔が見えないように深く帽子を被り直す。
スタッフもその意思を察して、何事も無かったかの様にスマートに後処理を始めた。
「やべっ!タイマーどんどん進んでるぞ!食べなきゃ!」
数秒で静かさを取り戻すと、チャレンジ中だった事を思い出す。
タイマーはハプニングがあった間も勿論止まってはいない。
このままだとタイムアップになってしまうと思い、急いでフォークを持ってケーキを食べ進める。
「あまっ!」
一口食べた感想は、単語1つしか思い浮かばなかった。
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