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恋愛学校の落第生共よ、恋を知れ  作者: 風野唄


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21/52

021話 屋上での青春は二次元以外にも存在する

誤字脱字や文章の下手さについてはご了承下さい。投稿予定時間になるべく投稿できるようにします。

面白いと思っていただけたら評価やコメントお待ちしております!

「何があったッスか?なんか知らない人に絡まれてたッスよね?」

「絡まれてたというか、助けられたというか。イマイチよく分からない奴だったな。綾って名前だけ名乗ってどっか消えてったし」

「……綾」


彼女の名前を意味深に口に出して呟く彩。

俯き加減で何かを考えている様子から見るに、彼女と彩は無関係とは思えない。

あの時、いずれ苗字も分かると言っていたのは、彩と知り合いだからという意味があるからなのか。


繋がり掛けている答えのピース。

彩に聞けばすんなりと埋まってしまうだろう。

だけど、聞くに聞けない。

彩にとって触れてはいけない繊細な話だったらどうしようと、つい勘繰ってしまうから。


「……天命様、お食事の後2人でお話しさせていただけませんか」

「ちょいちょい!2人きりとかいやらしいッスよ!」

「こればかりは天命様と2人きりでないといけないのです。我儘だとは思いますが、お願い出来ませんか?」


いつもの軽いノリとばかり思った犬子が止めに入った。

しかし、表情は真剣そのもの。

一歩前に出た身を黙って引く。


「分かった。さっさと食事済ませるわ」


美味しそうなカレーも味わう暇がないくらいに掻き込む。

途中で舌を通過した温泉卵の悲しそうなハーモニー。

こんな勿体無い食べ方をしたら、夢で祟られるのではないだろうか。

今日の夢は卵に襲われる夢で確定だ。



昼食を急いで食べたので、昼休みが終わるまでにはまだ余裕があった。

こういう時、大体は教室へ戻って息を殺し、寝たふりをするというのがお決まりなのだが、今日はちょっと訳が違う。

食堂で言われた通り、彩から話があると言われて、どこへ行くかも分からぬままに廊下を歩いている。

シューズ特有のゴムが床を擦る音、または窓ガラスを叩く風の音。それと、校舎の至る所から聞こえてくる生徒達の笑い声も。

どれも耳によく残るのは、何1つとして会話のない現状のせいだろうか。


数分してから彩が足を止めたのは屋上の扉の前だった。

屋上の扉は開けてある状態ではないものの、鍵は掛かっておらず、いつでも誰でも入れる不用心な状態。

学校を運営する上で、この警備体制であることは問題にならないのだろうか。

悩みの多い年頃が集まる学校。万が一って可能性もあるだろうに。


とはいえ、それで助かったのも事実。

ここで開いていないとなれば、場所を変える事になる。

そうなれば、必然的にまた沈黙の時間に耐えなければならない。

嫌とは言わないが調子が狂う。


屋上へ上がるとそれなりの高さのフェンスが俺たちを迎えた。

逆にそれ以外全く何もない。シンプルさ故に青空が映える。


「この学校で出会ってから、2人きりでお話しするのは始めてですね。なんだか嬉しいです、私は」

「んー、本当に申し訳ないが、俺からしたら今までに話したことがあるかも覚えてないんだけどな」

「ふふっ、はっきりとおっしゃる天命様、嫌いじゃないですよ」

「それで?話がしたいってのは?わざわざ2人きりになるのを選んだんだから大事な話なんだろ?」

「早く結論だけ聞きたいですか?そうする事自体は簡単なのですが、ちょっと勿体無い気もします。こうやって、2人きりでお話ができるのも限りがあるのですから。このひと時を噛み締めたいです」


フェンス越しに外の景色を眺め始めた。

俺も合わせて隣で景色を眺める。

歯に衣着せぬ物言いも出来た。

素直に話せと言えば、きっと彼女は話すしかなくなるはずだ。


でも、出来ない。

彼女は今、言葉選んでいる。

どの言葉を使って、どのように組み立てれば、自分の思いの全てが伝わるのか。

そんなことを考えているに違いない。

それなのに横から突くのは無粋だ。


「良い眺めですね」


風に靡いた髪を押さえながら彩が。


「あぁ、そうだな」


ぼんやりと同じ事を思ったから同調する。


「心地良い気温ですね」

「あぁ、そうだな」


言いたいことはこんな他愛もない話ではないはず。

でも、今は待つしかない。

彼女もちゃんと考えているから。


「ご学友の皆様、元気いっぱいで楽しいですね」

「あぁ、そうだな」

「私と週末にデートへ行ってくれますよね?」

「あぁ、そうだな。……?あぁ、えっ?ん?デート?」


今、デートの誘いを受けたのか?

あの流れで?

もっと深刻な悩みを打ち明けられるものとばかり思っていた。

いや、確かに女子高生にとってデートの誘いは深刻な問題だろう。

だけど、もっと奥深く心に根付く問題を…とばかり思っていたから、いつにも増して間抜けな声が出た。


「本当ですか!!!良かったー!偶には勇気を出してみるのも悪くないですね」


わざとらしく背伸びをして見せた彩。


「本当に言いたいことはそれだけか?」


お節介だとしても聞かずにはいられない。

人は弱い生き物だ。

誰かが手を差し伸べなければ、生きていけないことだってある。

それを俺が1番よく知っている。


「えぇ、それだけです。天命様は察しているかも知れませんが、今はまだそれだけ。大丈夫、まだ1年間もあるんですから、沢山沢山話せますよ」

「彩がそれで良いなら、良いんだけど」

「ふふふっ!彩って呼んでくれました!私がそうしてと言いましたが、やはり嬉しいものですね!」


話題を綺麗にすり替えられた。

本人は楽しそうに笑っている。

それ笑顔の真偽は分からないけど、彼女が笑う事を選んだのだから、俺はその選択を否定出来ない。


「やべーっ、指摘されると恥ずかしくなって来た。そんな事面と向かって言ってると呼んでやらねぇーぞ?」

「あぁーん、それはダメですよ!分かりました、心の中だけに秘めておきますから!」


話も終わったので、屋上を出て教室へ向かう。

一気に気が抜けたのと、昼食を食べた事による血糖値の変化で眠気が襲って来た。

階段を降りている途中なので、踏み外してはなるまいと思いながら睡魔と戦う。

そのせいか、大きく口を開けて欠伸が……。


「天命様、デート楽しみにしてますね!」


階段を先に降り終えた彩が振り返って、可愛いらしく言った。

そして、小走りで教室へと。

彼女に振り回された事について文句の1つでも言ってやろうかと思ったが、黙って見送ってしまった。

それは多分、欠伸をしていたから。きっとそうに違いない。

ご覧いただきありがとうございました。

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