013話 let's party 中編
突如始まった一発芸大会。
個性的なクラスとはいえど、どれだけの負傷者が出るのか。
デスゲームにはお約束がある。
それは最初に意気揚々と口を開いた者が死ぬということだ。
今、この場にいるクラスメイトは本能でそれを察している。
犠牲になるのは誰なのか。
自分ではないように心の中で震えながら、耐え忍ぶ。
「誰もいないなら、私が行かせてもらおうか」
静かに手を上げる満導。
いや、お前が最初に行くんかい!
あれだけ否定しておいて、いざ始まってみればノリノリで一発芸始めようとしてるんだけど。
てか、何が出来るんだ?
結構ハードル高くなっている状況。
下手な一発芸なら恥ずか死するぞ。
「それじゃあー、張り切っていきましょー!満導くんの一発芸まで3・2・1!どぞー!」
「円周率を100桁言います。3.1415926535897932384626433───」
び、微妙なのきたー。
もしも、言えているのだとしたらすごい。
だけど、誰もいちいち円周率なんて覚えていないので、合っているのかどうか。
例え、ミスしていたとしてもへぇーで終わってしまうだろう。
本人は続けているけど、早く終わってくれ。
聞いているこっちが恥ずかしくなってくるから。
「ど、どうかな。小学生の頃に頑張って覚えてみたんだけど」
100桁言い切った満導は、満足そうにこちらを見ている。
何も反応しないのは流石に可哀想なのでとりあえず拍手を送るが、クラス全体のまばらな拍手が結果を物語っていた。
ま、まぁ、全体のハードルはかなり下がったので次の人がやりやすい。
その点に関しては、ファーストペンギンとして果敢にも名乗りを上げた満導を賞賛しよう。
ふんすとドヤ顔で席に戻る満導の横目に、日纏が次の犠牲者を探している。
次は誰が気まずい空気の中一発芸を披露するのか。
まだ重い空気の中で探り合いは続く。
ハードルが下がったとはいえ、火傷するのは免れない。
最終的に全員がやらさせるにしても、もう少し様子見をしておきたいところだ。
「じゃあ、次はかげちゃん!ほら、そんな端っこにいないでこっちへ来て来て!」
指名兼死刑宣告を受けた雨水影丸が、部屋の端っこから腕を引かれて前へ立たされる。
彼は忍者の末裔で、多少の忍術なら使えるらしい。
日纏が指名するまでも、何かしらの忍術を使っていたのか全く存在感を感じなかった。
きっと彼も見つかるはずはないと思っていたはず。
それなのに、こんな地獄の舞台に立たされるとは可哀想で仕方ない。
人前に立つのは得意では無さそうで、目を泳がせながら慌てふためいている姿が余計にそう思わせる。
「無理でござる!拙者には無理でござる!皆んなの前で何か披露するなんて不可能でござ!まだ死にたくないでござるよ!」
「何言ってんのー!かげちゃんとか特技の塊じゃーん!ほら、軽く影分身とかさ、やって見せてよ!」
おっ、それは興味あるな。
影分身を目の前で見られたら、大盛り上がりするのは間違いない。
「影分身はまだ練習中でござる」
「えぇー、ざんねーん。あれって結構ド派手で良いと思ったんだけどなー」
「えっ、あっ、んー。そ、そうだ!空蝉の術なら出来るでござ」
「空蝉?なんか分からないけど、やってみよっか!」
「ふぅーー、行くでござる。忍法・空蝉の術!」
緊張の中で深く息を吸って、両手を独特な形で合わせた。
ドロンッと派手にばら撒かれた白煙が、辺り一面を覆う。
室内でそんなことをしたもんだから、全員一斉にコホコホと咳き込み始めた。
「窓、窓開けろ!換気だ!」
パニック状態になりながらも何とか換気に成功。
よくもこんなことをしてくれたなと雨水の方を見ると、ご丁寧に服を着せられた丸太だけが置いてあった。
あー、これって空蝉の術って名称なのか。
漫画とかでは防御手段としてよく見るよな。
「どうで……ござるか?」
「「「アホか!」」」
「あ、あははー、一旦休憩しようっか」
2人連続でこの有様に、日纏も思わずタイムを掛ける。
そのまま終わってくれた方が俺達としては良かったんだけどな。
1人でも口火を切れば、後に続いて皆が止めようというはず。
それでもやめようと言い出さないのは、彼女が善意100パーセントで動いていると分かるから。
そんな状況で言い出せば、言い出した者は悪者になるのを免れない。
ここでの正解は黙ってピザを食べることだ。
宅配のピザかと思っていたんだけど、良く見ると手作りっぽい。
生地もモッチモチで、チーズやトマトソースも完璧。
食事ってやっぱり癒されるよな。
今の自分達が置かれている状況も全て忘れて楽しめる。
「おい、天野。ちょっと今良いか?」
俺の隣に鳳凰院が座り、誰にも聞こえない声で耳打ちをする。
わざわざこんな所で聞かれたくない話をするくらいなら、席を外せば良いのに。
「んだよ、人が美味しく飯食ってんのに」
「寝坊しているお前を起こしてやった恩を忘れたのか?」
「あー、そんなこともあったな」
「ついさっきの事だろ。忘れるな」
「で?要件は?まさか、仲良くご飯食べようなんて可愛いらしいこと、女にしか興味ないお前が言い出さないよな?」
「馬鹿言え、死んでもそんなことは言わない。何から何まで忘れっぽい奴だな。犬子姫の連絡先、ちゃんと聞いておいたんだろうな?約束は守ってもらわないと困るぞ」
約束って、一方的に押し付けたようなもんだろ。
俺が首を横に振る前に消えて行ったんだから。
ここは今からでも無理だと言って突き返すのが賢明か。
「鳳凰院、悪い───」
「俺も分かってる。お前にとって面倒な事を押してけていることは。それでも……俺は頼れる人間はお前しかいないんだ。頼む、天野」
ズルい男だ。
そんなに真剣な顔して言われたら断れないじゃねーかよ。
「あー、もう分かった分かった。期待すんなよ、断られる可能性だってあんだから」
「ありがとう、頼んだ」
ポケットにしまっていた携帯を取り出して、意味もなく電源ボタンに触れる。
時刻は18時30分丁度。
区切りの良い時間だから仕方ないと、適当に自分へ言い聞かせて立ち上がった。
理由なんて何でも良い。
ただ早く終わらせてしまいたかった。
夜はまだこれからだというのに。
忘れていた相談。
本人から催促されてしまった天命は……