結んで登って
【守護】と【篝火】の魔法によって、石造り浴場施設はまるで当時の再現をしているかのようだった。
レンは浴場施設にあった魔道具を起動し、お湯を浴槽に張っていた。
集落が黒い闇に侵されていても使用できるかわからなかったが、無事に使えたことに安堵する。
北の寒さに対し、この建物だけ湯気による保温効果とお湯の熱で空気も暖かくなる。
干し肉と飲み物を用意し、リコに手渡す。
「とりあえず、ご飯にしよう?」
「はい……」
あれからリコは口数が減ってしまった。
まるで入学したての頃に戻ったような雰囲気だった。
干し肉を頬張りながらリコの三本の尾を眺める。
それぞれが自由に動かせるのかバラバラの動きをする。
難しい顔をし、ゆっくりと食事を進めるリコを見て、レンは心配になる。
――どう、元気付けてあげればいいんだろう……?
悩んでいるとリコはいつの間にか食べ終えており、浴槽の側に立っていた。
次の瞬間、リコは制服を脱ぎ始めたのだ。
突然のことでレンはリコの行動にくぎ付けになる。
胸のリボンを外し、制服のボタンを外し、雑に脱ぎ捨てる。
するすると衣服を脱ぎ捨てていき、やがてはボディラインが露わになる。
髪留めを外しているとレンの視線に気づき、少し照れたような表情を見せて口を開く。
「一緒に……入りませんか?」
「え!?」
「落ち込んだり、煮詰まったり……そんな時は湯に浸かると良いと書物で見かけたので……」
レンにとっては願ったり叶ったりの状況なのだが、一歩踏み出せずにいた。
それはオス特有の生理的現象をリコに見られてしまうのを躊躇っていたからだ。
――落ち着け……!こんなの見せたら幻滅されるんだぞ……!
レンは焦りの表情を浮かべ心を何とか落ち着かせようとするが、上手くいかない。
レンが一人格闘していると、いつの間にかそばに来ていたリコに背後から抱きしめられていた。
制服越しからでも伝わるリコの体温と「それ」の柔らかさ。
レンの興奮はメータなら振り切れ、数値ならカンスト上限突破してしまっていた。
そして、トドメの一撃。
「一緒に……入りましょ……?」
「あわわわわああぁぁぁ……」
レンはリコにどんどん服を脱がされていき、ついに一糸纏わぬ姿となる。
正面を見られる前に、レンは全力のダッシュで湯船に飛び込んだ。
レンは湯船から顔を出すと丁度、湯につかる瞬間であり、見えてしまった。
湯に浸かり、心が休まっていったのか、ため息を吐きながら肩まで浸かる。
レンはリコの近くまで寄り、訊いてみる。
「り、リコさんは……見られて恥ずかしくないの……?」
「……恥ずかしくないわけではありません。ですが、こうして一緒に入られる機会は殆どないと思うので、一緒に入りたくなったのです。嫌でしたか?」
「嫌じゃない!」
レンは立ち上がって反論すると、リコは一瞬驚いた顔をするが、少し恥ずかしそうな表情になり、微笑む。
「これでお互い様ですね」
「あっ――」
レンは恥ずかしさのあまり、湯に潜る。
もちろん息はそう長く続かないので、顔だけ出す。
リコは温かい湯を堪能しており、特別緊張していないように見えた。
レンはリコに終始先手を取られ、段々悔しくなり、リコの真正面に座る。
そして、そのままリコの唇と自身の唇を重ねる。
「……!?」
リコは一瞬体を硬直させたが、レンの行為を受け入れる。
何度も重ね、舌を唇に触れさせる。
受け入れ、絡ませると一度離れる。
「猫族の舌は本当にざらざらしているのですね……」
「毛づくろいや、骨付き肉食べるときに便利だよ……?痛くなかった……?」
「大丈夫です。だから……もっと……レン君をいただけませんか……?」
リコは恍惚そうな表情を浮かべ、レンにおねだりする。
それに応えるようにレンは再び唇を重ね、舌を絡め合う。
お互いの体に手を伸ばし、その存在を知る。
二人は心も身体も許し合い、身を任せる様に自然と一つになっていくのだった。
二人は天井を見上げて湯船に浸かっていた。
水中では二人は戦えない。
陸に上がって戦い、それはかなりの長期戦である。
いくら湯気の保温効果があったとしてもこの地の夜は冷える。
冷めたような火照ったような身体を再び温めなおしていた。
羞恥に溢れていた先ほどまでと違い、少しの疲労感と達成感が混ざったような表情を浮かべている二人。
レンはリコの手を握り、微笑む。
「リコさんは野狐族に生まれて後悔してる?」
「はじめはそうでした」
リコは短く答えると、レンは頷く。
「ですが、レン君と出会えて野狐族であることに負い目を感じなくなりました。レン君は私の事を野狐族ではなく、リコとして見てくれたので……。とても感謝しています」
「感謝だなんて……。そんな大層なことしていないよ。好きになるのに種族なんて関係ないから……。父さんと母さんだって異種族だったしね!」
「……それでもです。私の心の柱になってくれました。……今度は私も支えさせてくださいね?」
「うん……!お互い支え合って、乗り切ろう」
レンがそう告げるとリコは違和感を覚える。
急にそわそわし始めたリコを心配そうに見つめると、リコの頬に赤い文様が浮かび上がり、尾がもう一つ増えた。
「これって……!?」
「四本目の尾が……。これが【王族変異】……でしょうか?」
「リコさんが、妖狐になった……ってこと?」
「恐らく……。理屈は分かりませんが……『四本以上の尾を持つ狐族は【妖狐】に分類される』という事だけ知っています」
二人にはこれ以上の理屈はわからない。
王族のみ、知られている伝承をお伝えしよう。
◆
――妖狐とは神族に分類される種族であり、野狐族から昇華できるとされる。
愛に溢れ、生涯を共にすると誓った者に愛情を受け取ることで昇華することができると……。
◆
これはあくまで伝承。
今までの野狐族からはそのような者は現れておらず、一番近いとされる創始者やリコの祖父ですら妖狐には成れなかったからである。
なぜリコが成れたのか謎ではあるが、レンに対する愛情がきっかけであることは間違いない。
二人は過程はともあれ、リコが妖狐に成った嬉しさを分かち合うのだった。
【守護】の結界の外からリコを狙う視線。
――フフフ……。それでいい……。復讐のためにはそれぐらいしなくてはな……!我が一族から念願の妖狐が生まれた……。待っておれ……ふく……!




