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リコ専用魔道具

 レンは出来上がったつるはしの魔道具を手に取り、隅々まで確認する。

 魔力を込めようと握りしめたが、この魔道具に対して魔力を練りだすことができずにいた。


「あれ?魔力が出ない……?魔力切れかな……?」


「それは多分制約のせいだと思います」


 リコは口に手を当ててレンの疑問に答える。

 

「制約や誓いの力はほぼ絶対なものです。この魔道具を私が使うこと前提で作ったのであれば、制約に従って私しか使えない道具となっているはずです」


「……てことはこの魔道具はリコさんだけしか使えないってことでいいの?」


 リコは自信をもって頷く。

 この場にサクラがおらず立証できないことを悔やむが、レンはリコに魔道具を手渡す。

 すると魔道具に内包されていた魔力の奔流がリコを包み込み、二人は驚愕の表情を浮かべる。


「な、なんでしょうか……?魔力があふれてます……?」


「魔道具が……リコさんを認めた……!?ちょっと、振ってみてもらっていい?」

 

 リコは頷き、鉱床に向かって振り下ろす。

 すると一撃で半径五十センチの範囲の鉱床を砕いた。

 一番驚いたのはリコだった。

 この魔道具を使う際、魔力纏いをほとんどしていない。

 そして軽く振っただけで【掘削】の魔法が発動していたからだった。

 リコは決して怪力なわけではない。

 むしろ運動が苦手な部類に属しており、普通に【掘削】を鉱床に当てたところで弾かれるほどだ。

 少なくとも、レンの作った魔道具は硬い鉱床を砕く力を保有していることがわかる。

 リコは目の前の出来事に茫然としていると、レンはリコの手を取る。


「だ、大丈夫?魔力がなくなった……?」


「い、いえ……。あまりのことで驚きました。この魔道具の力、すごいですね……!」


「今までの魔道具と作り方が違うわけではないんだけどね……。これが誓いの力……なのかな?」


「……制約、誓い……。すべてが組み合わさったものだと思います。でなければレン君ですら掘れない鉱床は私にも掘れるはずがないですから」


「そっかぁ……。じゃあ!」


 レンはリコの顔を見ると意思が伝わったのか頷く。


「やっと、リコさんのために魔道具が作れたんだ!」


「そっちでしたか」


「え?」


「ここに材料があるので、魔道具を補給するのかと思いました」

 

 相変わらずの調子であるリコに苦笑しつつ、納得する。

 普段通りのリコを見てレンは自信が失われ、尻尾を垂らす。

 猫族が尻尾を垂らすということをメリルから学んだリコは慌てて取り繕う。


「ど、どうしましたか?私、何か間違えましたか……?」


「そんな事……」


「いえ、レン君が今、落ち込んでいるのがわかります。教えてもらえませんか?」


 ――オレ、そんなにわかりやすく見えてたんだ。いけないな……。

 レンは不貞腐れた態度はまずいと感じ、リコに向き直る。


「リコさんはこの魔道具、気に入らなかった?」


「え?」


 レンが指を差したのは先ほど作った【掘削】の魔道具である。

 リコはレンの質問に対し、口に手を当てて微笑む。

 眉を垂らし、縁祭りで見たあの表情だ。

 レンの心臓が大きく脈打つ。

 

「もちろんうれしいですよ?」


「でも、すぐに魔道具の補給の事考えたりするから、嬉しくないのかと思って……」


「それは、私の性格の問題かと思います。正直言えば、この魔道具を作ってくれたことはとてもうれしいです。ですが、私には一番の魔道具があるのでその時の反応と比べてしまったのかもしれません」


「一番の魔道具?」


「この指輪です」


 リコは嬉しそうに左手の中指に嵌められている指輪を見せる。

 それを大事そうに両手でかかえ、今度は眉だけでなく両耳を垂らし、尻尾を小刻みに揺らす。

 リコはレンの右手を取り、胸に当てる。


「ほぁ……!?」


 レンは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。


「わかりますか?こんなにもドキドキしているんです。貴方が作ってくれた魔道具に不満なんかありません。貴方が与えてくれるすべてがうれしいのです」


 リコは胸から手を外し、口角を上げて微笑む。

 レンは負けた。

 完膚なきまで。

 手に残った『柔らかい感触』を確かめ、完全に陥落した。

 リコの行動は狙ったものではなく、偶然であり、人はそれを天然と呼ぶ。

 レンはリコと出会って初めてリコの体を意識した瞬間である。


「レン君?なんだか熱っぽい気がしますが、大丈夫ですか?」


「う、うん!だ、大丈夫……。オレの魔道具……気に入っててよかった……」


「気に入らないはずがありませんよ?さて、せっかくなので魔道具の準備もしましょう」


 相変わらずマイペースに動くリコを見て、レンは彼女の行動が本心であり、胸に触れてしまったことはまったく気にしていないようだった。

 レンは悔しくなり、リコの隣に座り、尻尾をリコの腰に巻き付ける。


「?」


「……なんの紋章にしよっか?」


「そうですね……。今日の狼型の魔獣が出てくることを想定したら【火】の元素魔法があったほうが良いかもしれません」


 リコの意見にレンは賛成する。

 再び狼型の魔獣に出会って【篝火】の魔道具で応用するのは限度がある。

 レンの魔法は普通の魔法を複数回使用することに対しては非常にコストパフォーマンスが良いが、紋章の重ね合わせや複合魔法生成は非常に魔力を消費する。

 【火】の魔法で事足りるなら、圧倒的にその方がレンもリコも楽になると踏んだからだ。

 ――ま、いざのなったら複合魔法をを使う、くらいの気持ちの方がいいかもね。

 レンとリコは同じ結論にたどり着き、魔道具制作を始めるのだった。

 既に【夜】を迎えていることに気が付かず。

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