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不思議な感覚

「なんだか、少し寒くなったのかな……?」


 レンは鼻をひくつかせ、寒気が鼻腔に入り、顔をしかめる。

 一方リコは特に問題がなさそうに歩く。


「私はまだ大丈夫ですが、用心のために冬服を着た方がいいかもしれませんね」


「そうだね。うぅ……寒い寒い……」


 体を震わせながら冬服を着込む。

 普段の服装とは違い、肩の部分から背中にかけて燕尾服を連想できそうなマントがついている。

 冬服はどの種族が来ても違和感が少ないようにゆったりとしたものだった。

 服と地肌の間にあえて空間があるのは体毛を使用するためである。

 自前の断熱を生かすためだ。

 二人はきっちりと羽織り、ベルトを締めて再び歩みを進める。

 雪山のような岩場を歩くとレンはあることに気が付く。


「ここの岩の色、なんか違うかな?」


 レンは赤土のような色をした岩に手を触れる。

 今まで歩いてきた中でこのような色をした岩場は多数存在しており、リコにはよくわからず首を傾げる。


「私には同じように見えるのですが、何か『視える』のですか?」


「うーん……。なんか雰囲気が違う気がするんだよね……」


 レンは周囲を確認し、目の前の岩場を確認すると、首を傾げる。

 立ち止まるレンを見て、リコは片手持ちのつるはしを取り出し、岩に向けて振り下ろす。


「り、リコさん!?」


「なんでしょうか?」


「ど、どうしたの?」


「掘ってみれば私にもわかるかと思いまして」


 リコが一心不乱に岩を掘る姿を見て、レンもつるはしを取り出して岩を掘る。


「?」


「オレも……リコさんに倣って採掘してみようと思ってね。一人で掘るより、二人の方がきっと、進むだろうし」


「そうですね。いいものが出ることを祈って掘り進めましょう」


 リズムよく岩を穿つ金属音が周囲に鳴り響く。

 二人はまだ子供とはいえ、獣人としては既に成獣といっても差し支えない。

 一刻ほど掘り進め、十メートルほどの横穴が出来上がる。

 二人でそれだけ掘り進められたのは魔力のおかげだった。

 魔力をつるはしに纏う。

 道具に対して魔力纏いを行うと道具は頑丈になり、効果を大きく向上させる。

 しかし、道具はあくまで道具。

 魔道具ではないため、魔力を過剰に注ぐと破裂して壊れる。

 肉体的な疲労よりも、壊れないように細心の注意を注ぎ続けることによる精神的な疲労が大きかった。

 掘れども掘れども、レンの違和感を払しょくできずにいた。

 寧ろ視覚から入ってくる情報がレンに掘り続けろと言っているように感じた。

 


 二人は砂まみれになりながら掘り進むと甲高い音を横穴を響かせた。


「――っ!?」


「レン君!?大丈夫ですか!?」


 つるはしが押し返されたことによる手のしびれに耐えながら、それを見る。

 【篝火】の魔法に照らされたそれは燃え盛る炎のような色をした鉱石だった。

 普段から使っているミスリルとは全く違う性質のようだ。

 二人は近くに寄り、じっくりと観察する。


「なんでしょうか……?」


「金属……だよね?ミスリルや鉄とかでもなさそうだし……。掘り出してみようか?」


 レンは周りの岩を取り去って採取しようとつるはしを振り下ろすと、再び金属音を鳴り響かせ、つるはしが粉々に砕ける。


「ってぇ……!?周りの岩も同じくらい硬い……!?」


 手のしびれに悶絶している間、リコは周りの岩を調べていくとあることに気が付く。


「レン君、これは鉱床です。このあたり、すべてがこの金属のようです……!」


「どんだけ大きな金属だよ!?でもそれだとどうやって採取しようか……」


 レンはつるはしが砕ける硬度を持つ金属を眺め、悩んでいるとリコがレンの前に握りこぶし大の石を十個ほどと木の棒を目の前に置く。

 リコのやろうとしていることを首を傾げるとリコは目を輝かせてレンを見つめる。


「レン君、貴方の出番ですよ?私のためにつるはしの魔道具を作ってください。魔法は……そうですね【掘削】がいいと思います。材料はこれを使ってください」


「全然いいけど……?」


 突然魔道具を作れと言われ、レンは不思議に思うが、リコが欲しているということで製作に入る。

 ――これ、ただの石かと思ったら配合率が低いだけでこの金属の鉱石か!

 レンは空中に三つの紋章を描く。

 【結合】、【圧縮】、【加熱】の紋章である。

 材料の硬度からレンは高温・高圧の環境でないと自由に変形できないと判断し、二つの紋章をレンの魔法で重ね合わせる。


「『数多の魔法の根源よ、二つの力を重ね合わせて新たな魔法へと昇華せよ!』」


 二つの魔法が重なり、一つの複合魔法へと生まれ変わる。

 リコの指輪をつくった紋章に比べると難易度が低く、あっさりと完成する。

 新たな紋章が生まれ、リコは嬉しそうに目を輝かせ、尻尾を小刻みに降る。


「これは【鍛融】ですね。確か金属を溶かし、鍛える……そんな魔法だった気がします。よくこの組み合わせに気が付きましたね?」


「リコさんの指輪の魔道具を作るとき、鉱石の魔道具は温度と圧力が肝だったんだ。だからこの石もすごく硬いからきっと必要になるんじゃないかな?と思ったんだ」


「この指輪にそれほどの魔法が……」


 指輪をつけている左手を胸で抱え、愛おしそうにする。

 それを見たレンはにこにこと眺めていると、作業が進まないことに気が付き、慌てて平静を装う。

 リコは空中に紋章を描き、レンの方へ振り向く。


「【掘削】の紋章できました。このまま維持をすればよろしいでしょうか?」


「うん。それじゃあ、組み込んでいくよ……!『神々の恩寵を受けしものたちよ、二つの異なるものを合せ!』、『熱と圧力の律動よ、如何なるのもの硬さを取り除き、鍛え上げ、真なる力を発揮せよ!』」


 【鍛融】の魔法を発動した瞬間鉱石に光と熱が集まり、ジリジリと焼かれるような熱気を浴びる。

 ――複合魔法はこんなに強力なんだ……!それをあの規模で発動できるリコさんはさすがだ……!

 鉱石が溶け、一塊になるとリコに目配せをする。

 リコは頷き、【掘削】の紋章を鉱石に近づけると、レンは【結合】魔法で全体を包み込み、すべてを結着していく。

 一瞬強い光が発すると、光が弱まっていき、魔法が終わったことを確認する。

 そして材料が置かれていたところには一本のつるはしが残っていた。

 それは赤く輝き、魔力を帯びている不思議なものだった。

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