立ち向かう勇気
レンとリコはまだ【夜】ではないのだが横穴に身を潜めていた。
原因は横穴の入り口にいる体高が十メートルほどの魔獣が居座っていたためだ。
特に横穴で休んでいたわけではなく、誤って縄張りに入ってしまったことで追いかけられた結果である。
「まだいるね……」
「どうしましょう……。レンくんの一撃をもってしても、あの硬い皮膚には傷を負わせられませんよね?」
「うん……。この前、みんなで行った時のやつとは違って硬いし、攻撃的なんだよね……」
「「はぁ……」」
結界を出た瞬間に受けた洗礼であり、二人は途方に暮れる。
魔獣は魔力に敏感だ。
二人は魔力を抑え込み、気配を殺すがいつまで持つかわからない。
精霊との戦いを考えると魔道具を使用するのもためらってしまう。
レンは覚悟を決め、リコの手を握る。
「リコさん」
「はい?」
「何とかして、戦おう……!このまま、逃げたとして、この先の魔獣に勝てる保証も逃げられる保証もない……。なら、乗り越えるべき壁は犠牲を払ってでも超えなくちゃ……!」
レンはリコに【水】の魔道具を渡し、レンはこん棒の魔道具を手に取る。
真っすぐと魔獣を見据えるその表情にリコの心が揺さぶられる。
「レン君はすごいです……。私は諦めるしかないと思っていましたが、レン君は解決策を考えていたのですね……」
「とはいっても、とにかく攻撃しかないんだけどね……。ただ、魔道具が壊れることを惜しまない……ていうのが今回の作戦」
「わかりました。では、魔力を【共鳴】させましょう……!」
レンは頷き、リコと手を繋ぎ魔力をすり合わせる。
もちろん、そんなことをすれば魔獣に感付かれ、レンたちが隠れている場所が割れる。
地響きを鳴らし、一歩。
また一歩と、ゆっくり近付く。
魔獣が横穴に顔をのぞき込ませた瞬間、リコは詠唱する。
「『荒れ狂う流れよ、我が敵を押し流せ!』」
魔獣の顔面にめがけて雨上がりの川のような奔流が襲い掛かり、横穴の入り口から追い出す。
仰向けになり、転がる魔獣に対し、レンは一気に距離を詰め、【共鳴】によって得られた莫大な魔力を棍棒に集め、心臓がある(と思われる)胸に目掛けて棍棒を振り下ろした。
肋骨が砕けていく音を鳴り響かせ、棍棒を押し付ける。
「レン君!準備できました!離れてください!」
リコの掛け声を聴き、レンは魔獣を足場にしてリコの元へ跳躍する。
杖の先端を先ほどレンが圧し折った棟部分に向けて詠唱する。
「『全てを穿つ水滴よ、激しき奔流はすべてをまとめ、一点を貫け!』」
紋章が展開され、中央から一筋の水流が魔獣に向かって伸びる。
しかし、一筋とは言いつつも繊細なものではなく、発射される超高圧の水流は触れるものを全て断ち切るような勢いだった。
水流が魔獣に触れ、一度は抵抗を見せるもとどまることを知らないリコの魔法は頑丈な魔獣の皮膚を貫く。
腹部でそれほどの強度を見せた皮膚は背中に行くにつれ、硬度は増していく。
リコの全力であっても背中側の皮膚は突破できなかった。
すると、徐々に魔獣の体が膨れ上がってくる。
「まずい!」
レンはリコを抱えその場から離れる。
できるだけ高い位置に。
リコの水流ですら突破できない水は行き場を失い、魔獣へと蓄積される。
風船のように膨れ上がり、やがて限界を迎える。
それに気づいたリコは魔法を中断するが、時すでに遅く、魔獣は破裂した。
一面を湖にする量を放出し、血液の湖を完成させる。
肉片は四方八方へ飛び散り、血しぶきと共にレンたちにも直撃する。
事態が収まり、二人は魔獣がいたであろう血液の湖へ足を運ぶ。
血液が空気に触れ悪臭を放ち、レンは顔をしかめる。
「な、なんとか倒せたね……」
「ごめんなさい……。威力を加減するべきでした……。意地になって貫通させようとしたのが裏目に出てしまいました……」
「ううん。大丈夫だよ!リコさんの魔法のおかげで魔獣は倒せたんだし、謝ることなんてないよ」
レンはそう言いながらリコの頭を撫でて不安を和らげる。
湖の水が引き、レンはあることに気が付く。
「どうされましたか?」
「魔獣の血の匂いって、すごく臭いね……」
レンがそう告げるとリコも顔をしかめる。
キツネやイヌなどの種族は嗅覚が非常に強い。
普段の生活で強いにおいのものがあった場合、過ごしにくいのではないかと想像するだろう。
彼らは嗅覚を使用するときと使用しない時を使い分けることができるのだ。
それは獣人であっても本能として残っている。
リコが顔をしかめたのはそういうことだった。
「……これでは草食系の魔獣のにおいをばらまく格好の的ですね……」
リコがそう告げた瞬間、リコの感知網に複数の魔力をとらえる。
その姿が見えた瞬間、リコの顔が引きつる。
レンは首を傾げ、リコの視線の先を確認すると六匹の魔獣がこちらを伺っていた。
「【牙を持つもの】……!?」
【牙を持つもの】とは肉食系の魔獣を表す。
獅子型や虎型が分類され、目の前にいるのは非常に狡猾で残忍だといわれている狼型の魔獣だった。
二人は狙いを定められ、逃げる隙も与えられず、戦慄するのだった。
次週より毎週月曜日更新となります。
原稿が貯まり次第、毎日投稿に戻りますので、それまでお付き合いくださいませ。




