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狐猫の重奏唄  作者: わんころ餅
入学編
9/60

埃まみれの空き部屋

 部室棟の一階の角部屋へと案内されるレン。

 メリルは地図を閉じ、扉のノブに手を翳す。


「『堅固たる守りよ、我が契約に基づき開錠せよ。我が名はメリル』」


 扉の表面に紋様が浮かび上がり、別の形へと移動していく。

 時間にして三秒程で紋様は動きを止めて消えていく。


「開いたぞ。入ってみよう」


 二人は扉を開け、中に入ると埃だらけの部屋が迎えてくる。

 メリルはその中でも突き進み、奥にある扉を開ける。

 どちらの扉も外からは魔法で施錠しているが、内側からは簡単に開くようだった。

 そして、入ってきた扉に戻り、長く青い髪をリボンで結び、空中に何かを描き始める。

 それは今までに見たことのない技術であり、レンの好奇心が疼き始める。

 模様を描き、それを円の中に収めると、白く無機質だった輝きは翡翠色に輝く。


「『大いなる大気よ、不浄な空間をその風をもって清浄化せよ』」


「【風】!?」


 レンが驚いた瞬間、部室の入り口から奥の扉に向かって突風が押し込んだ。

 幸い備え付けのテーブルや椅子などの家具が吹き飛んで壊れるようなことはなく、メリルは見事にホコリだけを外に追い出すことに成功した。

 メリルが使った魔法は元素魔法の一つ【風】だった。

 それは種類問わず元素魔法というカテゴリは使い手が非常に少なく、威力が弱いながらもメリルは使いこなしていた。

 レンが驚いているのはもう一つの要因である、メリルが二種類の魔法を放ったことだ。

 魔法を複数所持しているヒトは非常に珍しい。

 レンからの羨望の眼差しを受け、顔を顰める。


「せ、先生っ!先生って元素魔法だけじゃなくて、魔法の複数持ちだったんですね……!」


「何を言っている?私が使ったのは紋章による魔法の発動だ。私の固有魔法は【治癒】だけだぞ?」


「紋章って……?なんですか?」


「そうか……まだ習っていないのだったな。そもそも使い手も少ないし、しょうがない……。魔法というものには一つ一つ紋章と言うものが備わっており、それらを組み合わせることで強力な魔法も生み出すこともできれば、一つの紋章で自分に素養のない魔法を扱うこともできるんだ。……そうだなここにポチおから貰った本がある。少し一緒に読んでみようか?」


 ホコリが吹き払われた椅子に座り本を広げる。

 レンも椅子に座り、メリルと共に本を眺める。


 §


 魔道具製作のキホン


 魔道具には必ず【魔石】と【魔獣の素材】が必要。

 それは魔力との親和性が高く魔法を使いやすくするためである。

 皮や肉では効果が薄いため、骨や歯などの風化しにくいものを使用すると良い。

 【魔獣の素材】は魔法を封印するための器であり、【魔石】は素材に封じ込めた魔法を【結合】させ続けるものである。

 大きな魔法を封じ込めるには魔法使いとしての技能と魔道具制作の技術が高度に必要となる。

 したがって、本書では初心者でも制作できる魔道具を記す。


『呼び水の魔道具』


 魔石……一つ

 水性獣の歯……一つ

 水鳥獣の尾羽……一つ


 呼び水の魔法を水生獣の歯に押し込みながら魔石と水鳥獣の尾羽を合わせていく。

 できたものにミスリル製の留め具を金属加工してあげるとイヤリングなどにできる。

 

 §


「なんだこのふざけた作り方は?」


「ま、全くと言っていいほど理解できなかったです。どうやって魔法を押し込んでいるのか、魔石と水鳥獣の羽の使い方もわからなかったです……」


 二人は全く理解できずに途方に暮れる。

 ――まずはこの子が魔法に触れるところから始めよう……。

 メリルは肩掛けのカバンから一冊の本を取り出す。

 その本は革でできた表紙であり、非常に分厚い本だった。


「先生、それは……?」


「これは私しか持ち出すことを許されていない【魔法大全】という書物。この中にはこの国で発見された魔法を網羅している重要なものだ」


 なぜそのような物がメリルにだけ許可が降りているのか不思議に思っていたが、この国の魔法が網羅されていると聞き、そおっと覗くが鼻を小突かれてしまう。


「世の中には見ないほうがいい物だってある。この書物はそれに近い物で、私とてこの本の魔法を全ては使えない。できるのは女王様だけだ」


「女王様って凄いんだなぁ……。あ!じゃあさ!【結合】の魔法って載ってますか!?」


「そんな魔法ならすぐに解るぞ?『本よ、我が問いに答えよ。物を結びつける力を示せ』」


 メリルが本にそう訊ねるとページが勝手に捲られていき、ピタリと止まる。

 それはレンが求めていた魔法である【結合】の魔法のページだった。


「紋章を描く為には指先かペン先に魔力を集中させて刻むと良い」


 本に書いてある紋章をメリルの指示通りレンは魔力を指先に集中し、机に描いていく。

 今までにやった事のない技術だが、指導者がいるという事で、安心して集中できた。

 慣れないながらも描き上げ、円で囲み込むと紋章が輝き始めた。


「……よし、何か物を持ってくるから少し待ってくれ」


 メリルは部室の片隅に置いてある古びた木製の短剣を二振り持ってくる。

 それをレンの描いた紋章の上に重ねるように置いていく。


「この二つを【結合】の魔法を使い、一本の剣にしてもらって良いかな?詠唱に使う単語は『結び付ける』や『二つを一つに』といったものだ。……詠唱をした事ないのだったな。詠唱は魔法に意味を与える役割であり、正しく命令できると精度と威力が大きなものになる。意味を履き違えたり、魔法の領分を超えてしまうと上手く威力を発揮しないから気をつけるように」


 レンは詠唱の注意点をしっかりと頭に叩き込み、紋章と短剣をまっすぐ見つめる。

 ふうっと息を吐き、大きく息を吸い込む。


「『二つの異なるものを繋ぎ合わせる力よ、我が手元にある神の賜物を繋ぎ合わせ、一つと物へと生まれ変わらせよ!』」


 詠唱を終えると紋章は輝きを増し、思わず目を瞑る。

 手で光を遮ろうとした瞬間、メリルの手がレンの腕を掴み、動かすことを許さなかった。


「魔法の発動中は何があっても魔法に集中すること。制御が効かなくなって事故になるからな」


「は、はい……!」


 レンは光に耐え、魔法の効力が薄くなる時を待った。

 それはすぐに訪れ、紋章が光の粒になると共に減光する。

 紋章と短剣があった場所には二振りの短剣の柄同士が結合された天秤刀が生まれていた。

 メリルはそれを手に持ち、頷くとレンの頭をクシャクシャと雑に撫で回す。


「よくやった。お前は魔法が使えたのだ。喜ぶと良い」


「や……やったあぁぁぁっ!!」

 

 レンは生まれて初めて自身の力で魔法を発動させたことに感激し、飛び跳ねて喜びを表現するのだった。

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