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北へ向かう

 レンは【夜】が明ける前に目を覚ます。

 まだ眠りについているリコの顔をのぞき込み、微笑む。

 そして、机の上に置いてある魔道具を眺める。

 ――うん。過負荷で壊れていないからうまくいってる。『リコさんと作った魔道具』ならよほどなことがない限り壊れないんだ……!

 大規模魔法を放った【氷結】の魔道具は亀裂や欠損は無く、まだまだ余力が残っているように感じた。

 レンは再びリコのそばに座り、左手の中指を見る。

 そこにはレンが作った魔道具の指輪が嵌められている。

 ――父さん。本当にこの魔道具でリコさんの役に立てられるかな……?ううん。オレが信じなきゃ、リコさんにも父さんにも悪いや……。

 光源のない【夜】にも関わらず、不思議な光を発する石を見てレンはリコの手をぎゅっと握る。


「ん……レン君……?」


「あ、ごめん起こしちゃった?」


「いえ、そろそろ準備をしないと、ですね」


 いつの間にか【太陽】は朝を告げる時間になっており、レンは窓から外の景色を眺める。


「下手をすると帰られなくなるんですよね……」


「そう……だね。不安……?」


「……少し。でも、レン君がそばにいてくれるので、私は大丈夫です」


「そっか……。オレもリコさんと一緒にいてくれるから、きっと大丈夫な気がする……かな?」


 レンは嬉しそうに笑みをこぼすと、リコも笑って返す。

 二人は身支度を済ませ、個室へと戻り、冬服を携えて正門へと向かう。

 既にリコとメリル、サムが待っており、駆け足で集合する。


「二人とも、これからの旅は本当に過酷なものだと思う。私たちが調査隊に在籍していた時も苦労したことをよく覚えているよ」


「そうだな。レン。お前は特に魔法が使えるようになったばかりが一番危ないから気を付けるんだぞ」


「わかりました……!」


 レンはサムの忠告を胸に刻み込み、頷く。

 メリルは二人に革製のポーチを手渡す。


「これは【収納】の魔道具だ。この中に食料品と非常用の魔道具が入っている。非常用の魔道具はオクト曰く【照明弾】というものらしい。上空に打ち上げると【夜】でも昼間みたいに明るくなるらしい。私が魔道具に疎くてらしいばかりで済まないが、これを打ち上げれば調査隊の誰かが来るということだ。覚えておくように」


 【収納】の魔道具を腰ベルトに装着し、二人は並んで首を垂れる。


「それでは行ってきます!」


「うむ。……必ず、帰ってくるんだぞ。失敗しても、必ず生きて帰ることが課題だ……」


「「はい……!」」


 レンとリコは北に向かって歩みを進める。

 姿が見えなくなるまでメリルは見送り続けるのだった。


 §


 時刻は昼頃。

 レンたちは国内の小高い丘にたどり着いていた。

 座るのにちょうどよい岩があり、二人は一度休憩をはさむ。


「もうあと半年もしたら【豊穣祭】があるんだよねえ」


「春が来るというあの祭りですか?」


「そうそう。春ごろここに来たら日向ぼっこできていいかなぁ、なんてね」


「その時は私もご一緒させてください」


「もちろんだよ。あ、コップ貸してね。『清浄なる水よ、我が想い人の渇きを癒せ』」


 杖の先端から水が注がれ、コップを水で満たす。

 リコのために使う魔法ならば誓いの適用範囲なのでこのぐらいはお茶の子さいさいだった。

 遠くの景色を眺めているリコの横顔を見て、レンはリコに質問を投げる。


「リコさんは、俺に助けてもらった時から好きって言ったよね?」


「あ、はい」


「それだけじゃ、スキって続かないと思うんだけど、ほかにあったりする……?」


「……たくさん、あります。私を野狐族としてではなく一人のヒトとして見てくれたり、私を信頼して魔道具を渡してくれたり、たくさんです。それに、レン君とそばにいると心地よくて、サクラさんに取られてしまうのがとても怖かったです。それぐらい、好きですよ」


 レンは矢継ぎ早に言われてしまい、恥ずかしくなり、丸くなる。


「だ、大丈夫ですか……?」


「う、うん……。オレのスキより多くてびっくりしただけ」


「ご、ごめんなさい……」


「謝らないで!?とても嬉しかったから!オレはリコさんの事たぶん入学式の時から気にしてたかな……?君がいじめられていると聞いて、居ても立ってもいられなくて、ただリコさんを守りたかった。魔法なかったし魔力も少ないのに何言ってんだか……」


 乾いた笑いをすると、左手が握られる。

 リコは真剣な表情を浮かべ、口を開く。

 

「私はとても嬉しかったですよ?これからも、よろしくお願いします」

 

「うん……。こちらこそ、よろしくね」


 二人は水を飲み干すと、再び北へ向かって歩みを進めるのだった。

 国内は定期的に魔獣の駆除が行われており、王族が展開する結界により駆除の難しい大型の魔獣は国内に侵入できない。

 侵入できる小さい魔獣も結界内の清浄な力によって弱体化されているため、成獣であれば難なく駆除できる。

 その時に得られる肉を食べるのが国民の生活だった。


「あ、魔獣です」


「小さいね」


「油断は禁物です。小型とはいえ牙を剥けば大人ですら傷つけますから」


 リコのいう通り小さくても魔獣。

 噛まれれば出血し、蹴られれば骨は折れ、鋭い爪を持つものなら硬い獣人の皮ですら切り落とす。

 リコは杖を構え、先端を魔獣に向ける。


「『怒れる大地よ、彼の者の足元より地龍の顎――』」


「待って待って!」


「どうしたのですか?」


「流石にその魔法は強すぎるかも」


「そう……ですか?」


「ほら、肉採れるから……ね?」


「……わかりました。『雄大なる大地よ、彼の者の足元より千剣を突き立てよ』」


 いきなりカレンの時に放った最大火力の魔法を放とうとしたリコを止め、威力を抑えたものに変えたレン。

 リコの魔法は的確に魔獣の頭だけを貫き、可食部を残す。


「レン君のいう通り、威力を抑えても倒せましたね……。魔力を無駄に消費するところでした。ありがとうございます」


「ううん。こっちこそ普段の魔法をリコさんに負担させて申し訳ないよ」


「いえ、私は別に問題ありません。レン君の役に立てられれば……。また、堂々巡りになりますね。強すぎたらいつでも言ってください」


「うん、わかった。ちょっと待ってね?肉を下処理しておくから」


 リコがあっさりと引いたことに驚きつつ、リコも一歩ずつ進んでいる事を実感した。

 その事で嬉しくなり下処理に気合が入るのだった。

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