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出国前日

「シクシク……」


 泣いているのはレンたちを圧倒していた聖騎士のカレン。

 女王によって逆さ吊りにされ、しばらく放置されていたことで心に限界が来ていた。

 聖騎士として相対していた時と違い、しおらしく泣いている姿を見て、二人は困惑する。


「まぁ、カレンの事は置いておいて、お前たちは合格だ」


「か、カレン様に勝てなかったけど……いいんですか?」


「当り前だろう。ふく様とヴォルフ様を除けば国内最強は間違いなくカレンだ。普通なら一撃を与えたり、魔法を当てることなんて不可能なんだぞ?」


 メリルがカレンの評価を落とさないようにした上で、二人を褒める。

 カレンは落ち着いたのか、涙をぬぐい、鎧を脱ぐ。

 体のラインがはっきりとわかるインナーの姿を見て、レンは驚く。

 馬族は非常に筋肉量が多い。

 カレンも例外ではなく、女性でありながら非常に筋肉質な肉体を見て目を輝かせる。

 聖騎士という称号が努力と鍛錬を積んだ結果であると証明できる。

 隣で見ていたリコは腕を曲げて力こぶを出そうとしたり、前腕の肉をつまんで口をとがらせる。


「レン。リコが拗ねているぞ」


「拗ねていません」


「その割には筋肉を気にしていたようだが?」


「……ふんっ」


 リコは完全に拗ねてしまった。

 レンがすぐにフォローに入るが、しばらく機嫌が戻ることはなかった。

 メリルは少しだけ面白そうな笑みを浮かべながら、話を進めることにした。


「さて、お前たちは明日、精霊探しに北エリアへと足を運ぶこととなる。このエリアは非常に気温が低い。制服も【冬】用のものを準備しておくとよいだろう。食料は非常食を作ってもらうように食堂には通達済み。また、北エリアは現在、ガブ様とレプレ様、オクトとセブが調査中だ。異常を察したら向かってもらうようには伝えているが、過信はするなあとは……」


「精霊と戦うことも言った方がいいと思うなぁ」


 カレンがそう呟くとメリルはカレンに指を差して手柄だといわんばかりの表情をする。


「カレンが言ったように、精霊に認めてもらうために実力を示してもらうことがほとんどだ。今回の稽古はそれに因んだものだったんだ」


 二人は精霊との契約に戦闘が必須だということと今回の稽古が結びつき、納得の表情をする。

 北にいる精霊がどのような姿をしているのか、見当つかなかったが、国内最強の聖騎士を相手したことで、心に少しだけ余裕が生まれる。


「ただし、油断は禁物だ。カレンと違い、相手は魔法そのものだ。魔法や魔力の使い方を今一度復習しておくように。それと、相部屋の鍵を渡す」


「いや、だい――」


 レンが拒否するよりも早く、レンの手にカギをねじ込んだ。

 メリルの目は茶化すようなものでなく、いたって真面目。

 真剣な眼差しにレンはたじろぐ。


「ゆっくりと話ができるのが今日で最後だと思え。外に出れば、嫌というほど分かるから」


「わ、わかりました……」


「魔道具等の準備はお前たちが準備。一週間分の食料、飲料はこちらで準備しておく。課外授業はすでに始まっているからな?しっかりと準備することだ。では明日明朝正門に集合すること。良いな?」


「「はい!」」


 カレンと別れ、メリルに連れられ、学園へと戻る。

 既に【夜】を告げる時間へと差し掛かっており、部室棟が施錠される時間だった。

 しかし、まだ避難民もいることから部室棟への入棟は許されていない。

 レンは口に手を当てて少し考える。

 ――今日作った【氷結】の魔道具は壊れなかった。使い捨ての魔道具を複数作るより、もう一つ壊れないものを作った方がよさそう。

 レンは材料の種類と数量を紙に書き、メリルに手渡す。


「先生、魔道具を作りたいですが、部室には入れないですよね?この材料が部室にあると思うので、取ってきて欲しいのですが……」


「わかった。材料をお前たちの部屋に持っていくから、お前たちは先に部屋に行っておくように」


「わ、わかりました……!」


 メリルの姿が見えなくなると、リコはレンの手を握る。


「ど、どうしたの?」


「不安な表情をしていたので、少しでも和らげようと……」


「ん……。大丈夫。リコさんがこうやって手をつないでくれるから、安心するよ。それじゃ、行こっか?」


「はい」


 男子寮、女子寮とは違う尖塔へ足を運ぶ。

 ここはパートナー契約を結んだ、パートナーと共に過ごすための塔である。

 ほかの生徒たちはレンとリコの姿を見て、怪訝そうな表情をするが、二人が手をつないでいるところを見てすぐに観察することをやめる。

 二人はそのまま廊下を奥に進み、廻り階段を上っていく。

 すると、レンの持っていた鍵が扉の前で鈍く光り、金属音を鳴り響かせる。


「ここが相部屋……かな?」


 鍵を差し込み、ドアノブの上にある金属板に手を翳す。

 すると、レンの魔力に反応し、扉の鍵を【開錠】した。

 恐る恐る入ると、ベッドと洗面用品しか置いていない殺風景な部屋だった。


「そ、そっか……。何もないのは当然だよね」


「また、時間のある時に集めましょう。これからどうされるのですか?」


「そうだなぁ……」


 レンは少し考え、口を開く。


「オレはこれから【篝火】と【呼び水】の魔道具と戦闘用に【土】と【風】を作ろうかと思ってるよ。リコさんの魔力を少しもらわないといけないんだけどね」


「それには及びません。せっかく一緒にいるのですから、共に作業させてください」


 リコはレンと魔道具を作ることができ、うれしいのか尻尾を大きく膨らませていた。

 それを見たレンはおかしそうに笑う。

 レンがなぜ笑っているのか首を傾げると、レンはリコの頭をそっと撫でる。


「やっぱりオレ達は一緒にいると、魔道具を作ってしまうんだなって」


「……そうですね。レンくんの言う通りです」


 メリルから材料を受け取り、魔道具を製作していく。

 夜が更けてしまわないうちに作り上げ、それぞれ床に就くのだった。

 過酷な試練に不安になりつつも、お互いを信頼し、明日へと備えたのである。

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