謁見と稽古
メリルが持っていた魔道具によって王城へと連れてこられたレンとリコ。
それも玄関や訪れたことのある応接間でもなく、大広間だった。
突然の事で周囲を見渡すと大広間の奥にある玉座に座るヒトがいた。
「女王様が……!?」
「レン、リコ。ふく様にご挨拶を」
そう促され、玉座から少し離れた位置で跪き、首を垂れる。
「こ、こんにちは……!」
「こんにちは……」
「うむ、こんにちは。急に呼び出してすまんの。『めりる』よ、『おくと』から『かれんを呼んで二人に稽古を付けよ』と言われたのじゃが、違いはないかの?」
「はい、少しとはいえ国を外してしまうので実力不足が無いか確認した方が良いと結論しました」
「うむ、良いじゃろう」
メリルの意見にふくは肯定し、指をパチンと鳴らす。
すると大広間の空中にカレンが突如現れる。
尻餅も体勢も崩す事なく華麗に着地し、カレンはふくの前に跪く。
慣れているのか非常に滑らかな動きでレンは思わず感嘆の吐息が漏れる。
「ふく様、お呼びでしょうか?」
「うむ。これから『れん』と『りこ』に稽古を付けて欲しいのじゃ」
カレンが振り返ると二人の姿が目に入る。
表情が明るくなり、レンに対してウインクすると真剣な表情に戻り、ふくを見る。
「彼らが精霊と契約する二人組、でしょうか?」
「そうじゃ。お前が戦いの指導をし、二人に足りぬものを口伝で継がせるのじゃ」
「わかりました。場所はここでよろしいですか?」
「うむ。わしも学園の生徒の成長を見たいのじゃ。じゃが、必要以上に加減することはない。魔物が出る事を想定しておるからの」
「御意」
カレンは立ち上がると二人の前に立つ。
「さあ、始めようか!キミたちの成長した力をウチは見てみたいからね!」
レンとリコは顔を見合わせ、頷くと立ち上がって右手を差し出す。
カレンはそれに応えるように握手し、広間の中央に立つ。
レンはリコに杖を三本手渡す。
それぞれ【土】、【風】、【氷結】が込められており、リコは大事そうに抱える。
「レン君、もしかしたら土と風は壊れてしまうかもしれません。よろしいですか?」
「うん、大丈夫。リコさんの思ってる通り、以前作ってたストックだからきっと壊れると思うんだ。だから気にしないで」
「わかりました。きっとあのヒトは強い方ですね……。加減せず全力で迎え撃つので気をつけてください」
「大丈夫。リコさんのやりたい事、全力でやって!オレは邪魔しないように頑張るから!」
レンは棍棒型の魔道具を取り出し、カレンを見つめる。
「今回は……あの時の俺とは違うってことを見せてやる……!」
棍棒の先端を向けられ強い意志を込めた瞳で見つめられたカレンは全身の毛が逆立つような高揚感に見舞われ、口角を上げる。
「いいよ……♡またキミと……いや、キミたちと手合わせができることを待ち望んでいたよ!さあ、お姉さんに全力でぶつかってきなさい!」
カレンは青く輝く聖剣の切っ先をレンに向けた瞬間、戦いの火ぶたが切って落とされた。
レンは先手必勝と言わんばかりにまっすぐカレンの懐まで入り込む、例えそれが罠だとしてもそうする他なかったから。
猫族ゆえに機動力や反応速度が高いレンに対し、魔法や魔力こそ最高峰のものを持っているが運動性能が非常に低いリコ。
レンが戦闘機ならリコは空母といったところだ。
レンの負け筋はリコを失うこと。
それをさせないためにも最強の騎士相手にがむしゃらに突っ込むしかないのだ。
もちろんその狙いはカレンも知っていたが、レンの思いっきりの良さに感心していた。
――今は魔力を共鳴させていないから魔法の制約が重たい……。だけど、試してみたかったんだ……!あの時に無かったものは魔法だけじゃない。リコさんと一緒になってもう一つ、得たものをぶつけてやる!
レンは棍棒で聖剣を弾き、地面に突き立てる。
棍棒を支柱にしてクルっと一回転し、硬い鎧に目掛けて飛び蹴りを入れ込んだ。
鈍い音を響かせ、カレンは五メートルほどノックバックさせられた。
アクロバットな攻撃を繰り出したレンを見てメリルは息が止まっていたことを思い出す。
――なんて子だ……!手加減しているとはいえ、あのカレンに一撃を与えるなんて……。魔法競技祭の時よりもレンは進化している……!
レンに感心していると風に声が乗せられてやってくる。
リコの詠唱だった。
「『怒れる大地よ、彼の者の足元より地龍の顎が開かれん。それは千刃のごとく喰らいつき、鎧を穿て』」
「な……!?」
「ほう……?」
リコの繰り出した魔法は【土】の元素魔法。
レンの作る魔道具により、威力の制約が失われ、その威力を際限なく発揮できる。
【土】でありながら、【岩石】以上の威力を誇っており、カレンに対し岩槍が容赦なく迫りくる。
リコの魔力はカレンよりも大きい。
魔力の壁を容易く突き破り、カレンにその牙を向ける。
しかし、カレンが地面に対し聖剣を横一線。
リコの魔法は突如威力を失い、カレンに襲い掛かることはなかった。
鎧に付いた埃を叩き落とすと、メリルの方へと向く。
その表情はとても晴れやかで、思わずメリルはしかめっ面をする。
「めえ様!今の見ました!?特にレンくんはウチに臆せず蹴ってきましたよ!」
「わかった……!わかったから!少しは稽古に集中してくれ!」
興奮するカレンを落ち着かせ、戻るように促す。
――お前が興奮するのも無理はない……。私だって、こんな成長を見せられて黙るのは難しいのだから……!
メリルは拳を握りしめ、くすぐられる闘争本能を必死に抑えつけた。
二人の前に再び立ちふさがるカレンは聖剣を強く握りしめ、魔力を開放する。
堅牢な石造りの王城がカレンの魔力により震え上がる。
爛々と輝くその瞳を見て二人は戦慄する。
「さあ、これからが本当の闘いだよ!」




