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師匠を超えて

 レンとリコはお互い手を取り合い魔力を共鳴し合う。

 二つの魔力が混ぜ合わさり、やがて一つの魔力へと変わる。

 リコは【結合】の紋章を展開させ、レンはそれに合わせるように自身の魔法を重ねる。


「『数多の魔法の根源よ、全てを重ね、新たな魔法へと昇華せよ!』」


 リコの紋章を囲うように七つの紋章が現れる。

 レンは意識を集中し、紋章をゆっくりと重ね合わせていく。

 紋章に綻びが生まれないよう、慎重に。

 お互いが反発し合う瞬間、全ての紋章を力ずくで重ね合わせた。

 【結合】の紋章は上級魔法へと生まれ変わり、魔力の奔流を生み出す。

 それを見たオクトは目を輝かせ、緑色の瞳から金色へと変わり、頬に赤い紋様を浮かべる。

 目の前の出来事に興奮した表情を浮かべていた。

 レンはベルトに付いているホルダーから杖を取り出し、机の上に置く。

 紋章を維持しながらリコは水と風の紋章を一つずつ展開させる。

 レンは魔法で風の紋章を六つにし、水の紋章を取り囲むように配置する。

 対抗属性である二つは配置するだけで反発し合うが、バラバラにならないように魔力を多めに使用して保持する。

 レンはリコに顔を向けると、それに応えるように頷く。


「『数多の魔法の根源よ、異なる性質の魔法を重ね合わせ、一つの魔法へと昇華せよ!』」


 反発力に負けないよう、共鳴させた魔力を最大限使用し、一瞬で一つの紋章へと組み替えた。

 紋章が生まれた瞬間、部屋の気温が一気に氷点下へと下がり、飲み物を凍らせ、天井に氷柱を作り上げる。

 紋章だけでそれだけの効果を齎し、オクトとメリルは驚愕の表情を浮かべる。


「おいおい……!これって……【氷結】じゃないか……!?」


「……まさか。お前たちは……」


「先生、オクトさん……。オレ達の、成果を見てください……!」


 レンは痺れる両手に堪えながら杖に二つの紋章を近づける。

 それを見たリコが詠唱に入る。


「『神々の恩寵を受けた素材達よ、我らの魔力に呼応し、あらゆる物を凍結させる道具を作り出せ』」


 【結合】の上級魔法を発動させ、【氷結】の紋章を杖の中に封じ込めていく。

 指揮棒のような小さな杖に紋章が入り込むと同時に杖は冷気を纏いながら凍りつく。

 音を立てる事なく全てを封じ終え、二人は同時にため息をつく。


「リコさんありがとう」


「いえ、私はそれほど手助けはしていませんよ?ほとんどレン君の力です」


「えへへ……。先生、見てください」


 レンはメリルに杖を渡し、感想を待つ。

 じっくりと様々な角度で眺め、魔力を込めて反応を確認するメリル。


「オクト、お前を超したんじゃないか?」


「そうだねぇ。これを見るとオイラなんか優に超えてるね。遂に世代交代か……」


「ま、待ってください!オレ、まだオクトさんの魔道具を超えてるとは思ってないんです!」


「十分成果品として成り立っているよ。……めえさん。あの件については頼んだよ?」


 オクトの言葉にメリルは強く頷く。

 レンはオクトが引退するのではないかと不安になっていると困ったような表情でレンを見る。


「レン。オイラは別に死ぬわけでも魔道具を作らなくなるわけでもないんだぞ?確かに新時代はお前たちに担ってもらわないといけないが、オイラだって調査隊の魔法技術士。戦闘用だけじゃなく、研究所の魔道具もメンテナンスしないとだしねぇ。心配することはないと思うぞ?」


 オクトは「うーん」と唸りながら背伸びをするとレンの作った杖を手に取り、魔力を込める。

 杖の先端をバケツに向けて詠唱を始めた。


「『澄み渡る氷霜よ、器を満たす水に宿れ。我が命ずるは静止の理、瞬く間に凍りつけ』」


 バケツに魔力が集中すると、軋むような音と同時にバケツに霜柱が立ち上がった。

 無事に凍りついたバケツを見てレンとリコは安心するが、オクトの表情は変わらなかった。


「やはりレンの魔法はリコちゃん専用だね」


「ど、どういう事ですか?」


「少し多めに魔力を込めたんだが、やはり紋章の大きさを変えることも、威力を上げることもできなかったんだ。オイラはバケツを凍らせるので精一杯だったんだ。不思議な魔法だねぇ……」


 未だに解明できていない部分が多いレンの魔法を楽しんだオクトは杖をレンに返して扉に手をかける。


「めえさん。二人が精霊と契約しにいく前にカレンに稽古付けてもらうようにした方が良いよ。きっと、レンの欲しい答えが見つかるはずだから」


 それだけ告げ、扉を開けて工房へと帰っていった。

 閉まった扉を少し見つめた後、ポツリと呟く。

 

「……相変わらず、おかしな事ばかり言う奴だな」


 振り返るとレンとリコは出来上がった【氷結】の杖を隅々まで観察していた。

 ――まだ子供だと思っていたが、もう立派な大人へと近づいているものだな……。

 好奇心で観察するのではなく、職人として話し合う二人を見て密かに成長を感じ取っていた。

 メリルは二人の前に立ち、少し屈んで目線を合わせる。


「二人とも、来週からお前たちは精霊と契約しに行く。その前に話さなければならないことがあるから、これから王城に向かうぞ」


 突然の事で二人は目をまん丸にしていると魔法で連れて行かれるのであった。

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