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抜け道を作る

「オクト……。思いつかないからといってデタラメを言うんじゃない」


「え。デタラメじゃないぞ?」


「?」


 オクトの真意がわからず、メリルは首を傾げる。

 メリルの心配している問題は誓いによって新たな縛りを設けると益々魔法が使えなくなるだろうということ。

 それは一般的な考えであり、間違いではない。

 メリルは先入観に囚われそうになり、熟考するが、解決策として思いつかなかった。


「例えばだよ?誓いは何も縛るだけじゃない。開放に向けて縛りを付ける事もできるんだよ。オイラのもう一つの魔法のように……ね?」


 ――もう一つの魔法……?

 頭の上に疑問符を浮かべるレンのそばで、手をポンと叩き、納得するメリル。


「ああっ……!そう言う事か……!あの時もそんな抜け道を考えていたと思い知らされたんだったな……。レン。思っている以上に簡単かもしれないぞ」


「簡単とは言ってないんだけどなぁ」


 解決しそうな光が差し込んだと思いきや、オクトの一言で暗雲が立ち込める。

 レンの表情は忙しいものである。


「レン。オイラが言いたいのは魔法の威力を上げるためだけが縛りではないと言う事。例えばだね……『リコちゃんとチューしたら少しの間は他の人にも魔法が使える』とかさ。少し手順も多いし戦闘中には出来ないだろうから難しい……どうしたの?」


 レンは俯き、恥じらいを見せていた。

 オクトは面白そうな表情を浮かべ、レンの肩に手を置く。


「チューしたことないのかい?」


「し、したことありますっ!あ……」


 レンはリコとの口づけを否定されまいと反論すると、墓穴を掘っていたということに気が付く。

 再び俯き、頬を膨らませて不貞腐れるレンを見てオクトはケタケタと笑う。

 すると、背後に怒りの形相をしているメリルの姿が目に入り、オクトはレンに土下座する。

 

「ヒトの大事なものを踏みにじるのは王族としてどうかと思うのだが?オクト様?」


「え、っと……悪い……。調子に乗ってしまった……」


「……このことはふく様に報告するからな。覚悟しておけ」


「……うす」


 リコはオクトが本当に王族なのか理解できず、眉間にしわを寄せて考える。

 オクトに揶揄われ、不貞腐れているレンのそばに立ち、そっと手を握る。


「レン君は何も悪くないですよ?だから、落ち込まないでください……」


 リコのまっすぐな視線にレンは少し嬉しそうな表情を浮かべ、頷く。

 メリルはオクトの尻を蹴り上げ、レンの方へ振り向く。


「このクソワンコの言ったように、誓いというのは能力の幅を狭くするだけではなく、広くすることも可能なんだ。もちろん、今までのようにするには非常に難易度が高いものかもしれないが、レンなら可能だろう」


「幅を広げるための誓い……か」


 レンはリコの顔を見つめ、考える。

 そしてオクトの言った条件を思い返してみる。

 ――リコさんとキスをしたら少しの間ほかの人にも魔法が使える……。戦闘中は兎も角、日常でも流石に恥ずかしい……かな。オレから、じゃなくてリコさんから魔力的な何かを受け取ったら、とか?

 レンはリコの手を取り、魔力を込める。

 リコはレンの魔力を感じ取り、反射的に同じように魔力を込める。

 二人の魔力は混ぜ合わさり、一つの魔力に変わる。

 それを見たメリルは目を見開き、オクトは楽しそうに口角を上げる。


「レン……それをどこで覚えた……!?」


「え?これは、リコさんとパートナーになって初めて極限魔法を作ったときです。これが何かあったんですか?」


「いや、それはな……」


「【共鳴】だよ」


 メリルが告げる前にオクトが答えを出す。


「オクト……それは言ってもいいのか?」


「いいんじゃない?できるのふく様とオイラだけだし」


「だからだ。貴重な魔法はそう易々と告げてもいいのかと言っているんだ」


「いいでしょ?魔力を共鳴させて一つの魔力にする、そんな魔法はあちらさんに知られたところでデメリットは無いよ。それに今回はふく様やオイラと違って、威力を上げたり、特化させたりしないでしょ?」


 オクトの説明に少しだけ不満そうな表情を浮かべるメリルだが、反論する余地も無いため諦める。


「レン。お前はそれで大丈夫か?」


「……はい!『リコさんと魔力を共鳴させて作った魔力なら他のヒトにも使用できる』という条件で使えるようにします!」


「そうか……。なら、リコと向かい合って、跪くんだ」


 レンはリコと向き合い、片膝を突き、左手を取る。

 ――あれ?これってパートナー契約の時にしたような……。

 知らず知らずのうちにレンはパートナー契約を結ぶ際、誓いを打ち立てる儀式も行っていたことに気がつく。

 リコもそれに気がついており、嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 ――リコさんもあの時のこと、思い出しているのかな……?それなら嬉しいや……!そうだ、誓いを立てなきゃ……!

 レンは目を閉じ、魔力をリコへと送る。


「『我、想いビトとの契約に基づき誓いを打ち立てる。我の魔力と其の魔力を共鳴させし生まれた魔力にて他人への魔法の行使を許すことを願う』」


 レンの魔力が活性化し、圧力を高める。

 それは中等級クラスの魔力を優に超えており、特級クラスと比べても遜色ないものだった。

 メリルは改めてパートナー契約の凄まじさを目の当たりにし、思わず両手に力が込められる。

 レンの魔力を受け取ったリコは同程度の魔力をレンに向けて流し込む。


「『汝の願い、認めよう』」


 許可を得た瞬間、レンの腹部が少し軽くなる。

 不思議な現象に戸惑いつつ、立ち上がり、二人は笑みを溢すのだった。

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