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愛は重たいもの

 学校の談話スペースの一角でレンは悩んでいた。

 それは魔法のことだった。

 制約と自ら重たい誓いを立てた事で自身の魔法や紋章魔法の柔軟性が失われていた事。

 後悔こそしていないが、専守防衛は非常に苦しくなってくると感じる。


「魔法を使って戦うスタイルは出来ないからどうしよう……」


「私を守るための魔法なら発動が出来るという事ですよね?」


「うん」


「そうなると……付与魔法や【治癒】、【守護】といった守りの堅い魔法へシフトする他ないかもしれないですね」


「そうだよねぇ……」


 レンは昨日、図書室で紋章魔法のレパートリーを増やす為に本を読んでいたが、年齢的なものもあり攻撃系の魔法が欲しかった。

 しかし、それは『リコを守る』という制約から外れてしまい、誓いである『リコのために魔法を使う』というものも達成できないため発動ができない。

 唯一できたのはリコが攻撃されそうになって、リコを守る為に反撃することができたレベルだ。

 ――そんな事でしか攻撃魔法が扱えないのはリコさんが危険すぎるし、大きな威力の魔法は放てない。どうしよう……。

 リコもどのようにレンの魔法を扱うべきか考えているとメリルとオクトが二人の元に訪れた。


「先生とケチな魔法技術士さん」


 リコはど直球をオクトに投げつけると困った表情でリコを見て返す。

 

「誰がケチだ」


「んふっ……!?ん゙ん゙っ!リコ、オクトは一応王族なのだぞ?な?」


「そうなんだけどねぇ……」


 本来ならリコの発言は厳重注意では収まらない範囲だが、特段指摘されるようなことはなかった。

 そもそも王族のように振る舞わないオクトの責任でもある。

 オクトが来たことにも気付かぬほど悩んでいるレンを見て、オクトは真正面に座る。


「なにか悩み事かい?」


「……!?あ!オクトさん!こんにちわ」


「こんにちわ」


「……?」


 レンは何も言わないオクトに首を傾げると、腕を組んでうんうんと頷く。


「リコちゃんと同じお部屋になったらレイアウトどうしようかなって悩んでるんだろ?」


「え」


 オクトはレンの隣に座り直し、耳元で囁くようにアドバイスをする。

 しかし、それが的外れだということにオクトは気が付いていない。

 

「まあまあ、こういうのは女の子の方が好みだというお部屋にするのが正解だぜ……!」


「あの……何の話をしてるんですか?」


「何ってパートナーになったら同じ部屋になるんだろう?それで悩んでるのかね?って」


「……同じ部屋にはならないですよ?」


「なんで?!リコちゃんのあんな事やこんな事、今まで知らなかった部分まで知ることができる――」


 最後までいうこと無くメリルの拳骨が振り下ろされ、談話室の机にめり込むオクト。

 

「いい加減にしろ!ふく様に告げて王族を剥奪させるぞ!」


 王族であるはずのオクトをこのような扱いができるメリルに二人は抱き合って震える。

 般若のような形相でオクトを睨みつけるメリル。

 堅い木製の机に顔面を埋められるオクト。

 未成年の二人には異常、且つ恐ろしい光景であった。

 ムクリと起き上がり、メリルを見る。


「もうちょっと手加減してよ……」


「未成年にいきなり何をいうんだ……!まったく……」


「未成年って……来年にはこの二人、一緒に暮らすんだよ?知っておかないといけない事、たくさんあるでしょ?」


 オクトの指摘は尤もなものだった。

 パートナーの契約を結んでしまえば、破棄するのはそう簡単ではない。

 それを思い出したレンは少し恥ずかしくなり、尻尾を自身に巻き付ける。

 壊れた木片を集め、オクトはサラッと【結合】の魔法で机を直していく。

 詠唱を挟まないことから魔道具を使用している事は明白だが、本当に流れるような作業であり、レンは感嘆のため息を吐く。

 手についた埃を落とすようにパンパンと音を立てて手を叩くと、腰に手を当ててレンを見る。


「んで、何を悩んでるんだ?レン」


「あ、えっと……魔法についてです」


「魔法?お前のデタラメなまほ――」


「レン君の魔法はデタラメじゃないです」


「言うねぇ」


 レンの魔法を揶揄われたと感じたリコは少しムスッとした表情で反論する。

 オクトも冗談で言っただけなので笑って返す。

 この中で一番肝を冷やしているのはメリルなのだが、友人と話すようなオクトの対応では仕方がないと諦める。


「オレの魔法……『リコさんを守る為に使う』って誓ったから、他の魔法もその縛りを受けているんです」


「ふむ……なら【治癒】や【守護】を覚えるのも悪くないんじゃないかい?それらなら守る為に使うことができるだろう?」


「そうなんですが……」


「オクト」


 静観していたメリルが腕を組んだままオクトの名前を呼ぶ。


「このままでは魔道具を作る事が難しいのもあるんだ。考えてもみろ。誓いが重いが故、一般生活魔法も扱いにくい。お前なら何か抜け道を作れるんじゃないか?」


「そうだね……」


 オクトは部室の中を何度も往復し、リコの耳でも聴こえにくい言葉で呟く。

 暫くすると口に手を当ててレンの方へ向き直す。


「新たな誓いを立てるってのはどうだい?」


「「「え……?」」」


 オクトの提案はレンの魔法にさらなる縛りを付けるという予想外の提案だった。

 三人は予想外過ぎたのか返す言葉が出なかった。

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