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自習の時間

 翌日。

 襲撃から三日しか経っていないという事もあり、授業は行われず、自由な時間となる。

 自由とはいえ外出は禁じられており、屋内競技場は未だに避難所になっている。

 屋外競技場は避難者のための炊き出しを行なっており、競技系の部活動は無期限休部の状態だった。

 また、部室棟も警備の面で自由に開閉できなくなっており、魔工部も巻き込まれ、休部を余儀なくされる。

 レンは教室で自習を行おうとするも、授業がないことも相まって賑やかである。

 うんざりした様子で窓から炊き出しの様子を見ていると、教室の空気が変わる。

 レンは気配を察知したのか飛び上がり、教室の入り口に向かうとリコが立っていた。


「リコさん!どうしたの?」


「教室にいては邪魔が多くて勉強に身に入らないので、レン君のところを尋ねてみたのです。申し訳ございません。こんなに人が付いてくるなんて思いもせず……」


 リコのいう通り、特級クラスの男子達がリコの背後をついてきていたのだ。

 先日の襲撃で命の危機を感じた者、魔物に対して歯が立たなかった者等が挙ってリコを求めていたのだ。

 リコがレンと親しく話している光景を憎らしげに見る。


「なんで中等級のヤツに話してんだよ……!」


「同じ部活だからって調子に乗るんじゃねぇよ……!」


「リコちゃんは俺が貰うんだ……!」


「はぁっ!?俺のもんだ!」


「ふっざけんなっ!誰がお前らみたいなヤツに靡くかよ!」


 見守っているだけでなく、遂には内輪揉めが始まる。

 一方、中等クラスの面々は一人の女子に対して三十人以上の男子が集まっている衝撃的な光景を見て戦々恐々としていた。

 リコが魔法を扱えない事は周知されている。

 そして、魔力量が学園の歴代で最高クラスを誇っている事も知っていたが、それだけでこれ程の人気があるのかと差を思い知らされていた。


「レンくん、なんの騒ぎ?……て、リコちゃんどうしたの?」


「クラスの男子がずっと付き纏って勉強に集中できないんです。どこか良い所はありませんか?」


「ええ……。それじゃあ、図書室に行こっか。あそこは騒いだらこわ〜い先生いるし、レンくんも良い勉強になるんじゃない?」


「その手があったね!それじゃあ、行こ――」


「待てよ!」


 三人が図書室に行こうとした瞬間、聴き慣れた声に呼び止められる。

 やはりというべきか、ハウルだった。

 謹慎処分はあった筈なのだが、事態が事態で解除されていたようだった。

 相変わらずの喧嘩腰でレンの前に立つ。


「暇なら俺と決闘するか?腰抜け」


「……ハウルと戦う理由がない」


「理由ならある。お前は俺にひれ伏せさせないといけないからな!」


 レンは相手にしてられない、とそっぽ向き、図書室に向かおうとすると背後から蹴り飛ばされる。

 ゴロゴロと転がり、壁にぶつかる。


「レン君!?あなた、何をするんですか!レン君は貴方に興味がないって言っていたのを聞いていないのですか?」


「あぁ?!知るかよ!そうだ!お前、この前の借りを返させてもらおうか!」


 魔力凝縮された右拳をリコに振り上げた瞬間、強大な魔力の波がハウルを襲いかかる。

 拳を下げ、バックステップでリコから距離を取る。

 魔力の発生源はレンだった。

 ゆっくりと埃を叩きながら立ち上がり、ハウルを睨みつける。


「ハウル……」


 中等クラスの魔力を遥かに超える魔力と怒気が込められた言葉にハウルは身を硬くする。


「リコさんに手を出すなら……全力でお前を叩き潰してやる……!」


 今まで魔法を持たず、魔力量も自身より少なく、孤児と見下していたはずだった。

 しかし、今、目の前にいるのは到底見下せるようなレベルではない猫族だった。

 初めは実力は拮抗し、レンに必ず勝つためにパートナーを作り、一度は力の差を見せつけた。

 今回は違う。

 リコを守るため立ちはだかったレンはハウルの魔力を遥かに超えており、焦りと苛立ちを見せる。

 そして、ハウルの中で一つの結論に辿り着く。


「てめぇ……その女とパートナーになりやがったのか……!」


「その女じゃない。彼女はリコっていう名前がある。そして、オレはお前の知っているノーマジの負け犬でもない!」


 二人が睨み合っているとサクラが間に立つ。


「レンくん。こんなやつほっとこ?時間の無駄だよ」


「んだと!?このアマ!」


「うっさいわね!アンタと違ってこの二人はやらないといけないことがいっぱいあんの!レンくんを奴隷扱いしようとしてるけど、じゃあふく様の前で堂々と言ってみなさいよ!できるわけないクセに!」


「っ……!」


 ハウルはそれ以上何も言えなくなり、牙を向けたままうなりを上げることしかできなかった。

 それを見たサクラは鼻で大きくため息を吐き、レンとリコを手招きして移動する。

 レンが振り返ると、怒りで震えているハウルとリコにパートナーがいたことに落胆し、意気消沈した男子たちという混沌とした空間になっており、苦笑いを浮かべてその場を後にした。


 図書室に向かう道中、サクラはレンを横目で見る。

 当然気づかないはずはなく、レンは首を傾げると二コリと笑う。


「二人ともやっとパートナーになったんだね」


「サクラさんのおかげです。ありがとうございます」


 リコが深々と頭を下げると、慌てた様子で頭を上げさせる。


「そんなことはないわよ!……元々アンタたちは両想いだっただけじゃない……。アタシはいつまでもくっつかない二人を見て、ちょっとむかついただけだもん」


「やっぱり怒ってたんだ……」


「当り前じゃない!アタシはレンくんのこと……少しはスキだったもん。でも、レンくんがあそこまで意気地なしだったとは思わなかったわ!」


「ひどいなぁ……。でも、サクラさんが怒ってくれたおかげで一歩踏み出せた。だから俺からもありがとう」


「――っ!?」


 レンがリコと同じく深々と頭を下げると両手を握りしめ、小刻みに震える。

 顔を上げた瞬間、レンは尻を蹴り飛ばされるのだった。


「やんなっちゃうわ!」


 へそを曲げたサクラの後姿を見て二人は疑問符を頭に浮かべながら首を傾げ合う。

 それを見たサクラは少しだけ、笑みを浮かべるのだった。

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