これがオレの魔法です
レンが目を覚ますと学園の保健室だった。
ゆっくりと身を起こし、ベッドから降り、カーテンを開けるとメリルと目が合う。
メリルはペンを放り投げ、レンをしっかりと抱きしめる。
「レン!よかった……!」
「せ、先生……!?ぐ、ぐるじい……っ!」
「す、すまない……。だが、本当に心配したんだぞ……?」
メリルが本当に心配していた事がレンに伝わり、心の中で申し訳なさが生まれる。
周囲を見渡すと包帯をつけた生徒が多く、被害が多数出ていることを悟る。
「先生!リコは!?」
「リコならこっちだ。安心しろ、無事だから」
レンはベッドのカーテンを開けると傷一つ付いていないリコが眠っていた。
「極大魔法を撃った反動で魔力を大量消費したんだろう。眠れば回復するから何も心配はない」
「よかったぁ……」
「う……ん……?」
眠っていたリコは目を覚まし、あくびをしながら背伸びをする。
メリルはリコを触診し、問題がないことを確認するとリコの手の中に何かを捩じ込む。
リコはそれを見ると壊れた【幸運のおまじない】の髪飾りだった。
「あ……レン君に贈ったものが……」
「あれ……?本当だ……。どうして?魔法の反動……?リコさんゴメン……」
「い、いえ!レン君が謝ることはないです!私の願いが叶ったという事なので……」
「やはり、お前は意図的にこれを作ったのだな?」
メリルはリコのそばに椅子を置き、座る。
「【幸運のおまじない】は魔法として認められていないが、お前はそれを意図的に作り出し、その効果を発揮させた。未知なものだから少し話を聞かせてくれないか?」
リコは処罰を受けるような事だと思っていたが、そのような事はなく、安心して頷く。
「これは【精霊魔法】の一つだと思います」
「ほう?それはなぜ?」
「私が下級の精霊にお願いしたのです。レン君を守ってもらうように」
メリルは特に変わりがない製作方法に首を傾げる。
祈りと魔力を注いで作ると言われている製作方法がなぜ精霊と関係しているのか不明だった。
――祈りを聞いた精霊が死に直面すると発動する魔法を付与した……?しかし、祈りだけで精霊は応えてくれるのか……?……そうか!
「リコ。お前は【召喚】の使い手だったな。精霊と会話をして作る事ができた……という事か?」
リコは自信を持って頷く。
しかし、その後少しだけ俯く。
「同じ精霊には同じ願いをかけてもらう事はできません。このおまじないは下級の精霊がその命を以って叶えさせるもの。願いに呼応して理解を得られなければ成立しません。なので増産はできないです……」
「そ、そこまでは求めていないから安心しろ。……そうか……【精霊魔法】か……。それも命を賭した……。この事はふく様にお伝えしても良いだろうか?」
ふくの名を聴き、露骨に嫌そうな顔をするが、渋々了承する。
リコはそれ以上魔法のことを話すつもりが無いようで、壊れた髪飾りをじっと眺める。
レンはリコのそばに座り、リコの両手ごと髪飾りを両手で包む。
「レン君……?」
「……元の形になら戻せるさ!失った精霊さんの復活は魔法の範疇を超えてるから出来ないけど……」
レンの言う通り、ヒトを治癒する魔法はあれど、生き返らせる魔法は無い。
というよりも魔法は『壊して組み替える』、『混ぜ合わせて別のものにする』といった力が本来のものである。
身体を元通りに戻すといった出鱈目な魔法は様々な制約を乗り越えてやっと達成できるもの。
【治癒】魔法も本来の力なら傷の治りを速くする程度のもの。
メリルは多くの制約と誓いを立てた上で瞬時に治すといった芸当を見せていた。
【蘇生】魔法は存在させるにはどれほどの制約が必要か想像に難くない。
リコは困ったような笑顔を向け、レンの手に口付けする。
「ありがとうございます。どのようにすれば良いですか?壊れた魔道具を直すのは前人未踏の域だと思ってますが……」
「オレの魔法ならきっと出来るかもしれない……!それに……」
「それに?」
「魔法が入ってなくても、リコさんの想いはたくさん入ってるもん!オレはそれで十分満足だよ!」
レンは口角を上げ、ニカッと笑顔をリコに向けた。
――あぁ……。やっぱり……レン君は私を見てくれていたのですね……。皆さんの言う通りです。
嬉しそうに、照れながらリコは頷く。
「じゃあ、リコさんはオレの魔力に合わせて【結合】の魔法を組んでもらえるかな?オレはリコさんの魔法を自分の魔法で上級魔法に組み替えるから。先生、見ててください。これがオレの魔法です……!」
リコは空中に【結合】の紋章を描き、髪飾りの上に載せる。
レンはそれを確認し、詠唱を開始する。
「『数多の魔法の根源よ、全てを重ね、新たな魔法の産声を上げよ』」
詠唱が終わると【結合】の紋章が七つ現れ、円環状に並ぶ。
全てをゆっくりと中央に集めていく。
ただ集めるのではなく、【結合】の紋章同士が手を取り合うように紋章を組み直していく。
――すごく綺麗です……。こんな純粋な魔法があるとは思いもしませんでした……。
リコは組み上がっていく紋章を見てうっとりとした表情を浮かべる。
一方メリルは、目の前で起こっていることを取りこぼしこないようレンの魔法を書き記していく。
七つの紋章が限界まで近づき、反発が生まれ始めた瞬間、レンは大きく魔力を注ぎ、一つの紋章へと重ね合わせた。
【結合】の魔法はレンによって新たなステージへ登る。
「これは……上級魔法の紋章だ……!【結合】の紋章にもう一つ上の魔法が存在するとは……!」
「凄い魔力を感じます。これを使えば良いのですね?」
「そう……だけど、今回はオレが発動させてみるよ。いいかな?」
「もちろんです」
レンは大きく息を吐いて新たな魔法を起動させる体勢に入ったのだった。




