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大型助っ人参上

 サムは魔力を全開放し、迎撃態勢に入る。

 ――こんなところで死なせていいヒトじゃない……!オレを犠牲にしてでもセブが来るまでの時間を稼ぐ……!


「『魔の力を吸い取る力よ、数多の拳撃を撃ち込ませ、我が力へと変えよ』」


 サムの両腕に青い蒸気のようなものを立ち昇らせ、右ストレートを突き出す。


 ――パチン!


 戦場には似合わない指を弾く音が鳴り響き、サムは急いで攻撃をやめ、オクトに覆いかぶさる。

 すると不可視の衝撃波がサムの上空を走り、突風が吹き荒れた。

 風が吹き止み、サムが顔を上げるとサムよりも体躯の大きい狼の上に乗った狐の女性がいた。


「ふ、ふく様!?」


「随分と苦戦しておったようじゃの?」


「決定打を打てる者がおらず、防戦を強いられておりました……。それよりもオクトを診ていただけますか?」


「む?おくとよ、怪我を負っておるのか?めりるよ、治してやるのじゃ」


「かしこまりました。サム、オクトの傷口を見せるんだ」


 気を失っているオクトを地面に転がし、傷口が見えやすいよう服を脱がせる。

 これは魔法で傷口をふさぐ際、衣服が巻き込まれ、一体化しないようにするための処置である。

 メリルは傷口を確認し、両手を傷口に両手を翳す。


「『癒しの力よ、彼の者の傷の治りの力を早め、新たなものへと治癒せよ』」


 周囲の細胞が寄せ集まり、失った部分を補填していく。

 完全に塞がり、失血による死は免れ、オクトは目を覚ます。


「てて……。あれ?めえさん、いつの間に?それにヴォルフ様とふく様まで」


「お前の傷は治癒魔法で治した。重傷だったから文句は言わせないぞ?」


「そっか……。サンキューな」


 オクトは立ち上がり、よろめきながら離れていく。


「どこへ行くのじゃ?」


「セブさんのところ……」


「セブなら先ほど避難誘導が終わったと報告を受けているぞ」


「そっか……」


 オクトはメリルの報告を聞き、仰向けになって倒れた。

 両手で顔を洗ったあと、右手で地面を殴りつけた。

 オクトの行動に疑問を持ったメリルはオクトのそばに立つ。


「何があった?」


「水色か……――ゴフッ!?」


 何かの色を確認したオクトはメリルによって思い切り蹴り飛ばされる。

 

「次はないと思え」


 王族と一般人なのだが非常に仲の良いやり取りをしていた。

 それでもオクトの表情は曇ったままだった。


「レンとリコちゃん、死んだかもしれない」


「「!?」」

 

「な……!?どういうことだ!?」


 メリルはオクトの胸ぐらをつかみ、無理やり座らせる。

 ふくとサムは初めは驚いていたが、国民が戦死することは日常的に起こってしまうことは仕方がないと割り切っていた。

 一方オクトとメリルはレンとリコそれぞれに深く関わりを持ってしまっているが故の対応だった。


「少し前に、極大魔法があっちの方角に放たれたんだ」


「魔物か……!?お前でも探知できなかったのか!?」


「……放ったのはレンとリコちゃんだろう」


「なら……。あぁ……!……そういうことか」


 メリルはつかんでいた手を放し、力なく項垂れる。

 どす黒い結晶【魔障石】から放たれる魔力が引き起こす事象を理解しているため、それ以上オクトのことを責めることができなかった。

 【魔障石】の魔力に触れれば即死である。

 二人が憔悴しきっていると、狼の姿をしているヴォルフの耳がピコピコと動く。


「何か来るな……」


「ばかもの。お前のところのじゃじゃ馬じゃ。いい加減覚えるのじゃ」


 ふくはヴォルフの頭を軽く平手で叩くとヴォルフの言葉通り、カレンが舞い降りてきた。

 相変わらず重装備であるにもかかわらず、音をほとんど立てずに着地する。

 いつも通りにこやかに接しようとしたが、重々しい空気間に口を紡いでしまう。

 小声で近くにいたサムに話す。

 

「ね、ねえ……。これどういう状況?」


「学園の生徒二人が魔障石の被害で亡くなったことにこうなったんだ。カレンも知ってるだろ?レンっていう猫族の男子と学園一の魔力量を誇るリコっていう女子のこと」


「ほえ?あの子たちならウチが助けたよ?」


 カレンがレンとリコが死亡していることになっているのか分からず素っ頓狂な返事をし、首を傾げる。

 するとオクトとメリルはカレンに勢いよく飛び掛かる。


「どういうことだ!?お前、嘘言ったら罷免するぞ!?」


「あいつらはどこにいるんだ!?」


「わ、わかったから落ち着いて!」


 カレンは鎧に引っ付く二人の首根っこを掴み、そっと地面に降ろす。

 肩などの細かいパーツの位置を調整しながらカレンは口を開く。


「あの子たちは今、避難所の学園にいるよ。サクラちゃんっていう狸族に様子を見てもらってるから安心して?」


「そうか……よかった……」


 メリルは安堵のため息を吐き、溢れ出そうな涙を拭う。


「ウチが間に合ったのは、レン君が身につけていた【幸運のおまじない】が込められた髪飾りだね」


「あれは魔法と認めぬと、わしは言ったがの?」


 ふくは【幸運のおまじない】を魔法ではないと告げると、カレンは否定もせずに頷いた。

 

「あくまでウチの直感だよ?あれは魔法とは違う概念かもしれないし、普通の魔法ではないのかもしれない。現に、ウチが完全に二人を助けた時に彼の髪飾りが壊れたからね。レン君のためにリコちゃんが一生懸命に祈ったものかもしれないね。それがウチをあの場に呼び寄せた。ある意味【召喚魔法】かもしれないね」


「ふむ……。【魔法大全】には載らぬ魔法擬きとは思っていたのじゃが……。りこが何か掴んでおるのかもしれぬの」


「良いよねぇ。あの二人、ついにパートナーになったんだろうねぇ。今度戦うのが楽しみになってきたよ!」


 カレンは嬉しそうな表情でレンとの再戦を楽しみに待つ一方、新たな魔法の発見に楽しみにするふくが腕を組んでニヤリと笑うのだった。

 今回の襲撃は人的被害は負傷者のみであり、死亡したものは居なかった。

 防衛戦の戦果としては良い結果である。

 一方、レンとリコは消費した魔力を回復するため、丸一日眠り続けたのだった。

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