おまじないは効いた
結晶がより禍々しい魔力を放ち、周囲を喰らい尽くそうとした瞬間、光の柱が降り注ぎ、結晶を粉々に砕いた。
リコは目の前で起きていることに理解が追いつかず、ひたすらにレンを抱き寄せ、守りの体勢を取る。
結晶が在った場所は無数の刃物で斬られたような斬撃の痕が残っていた。
少し遅れて上空から鎧を纏った剣士が降り立ち、カツンと乾いた音を鳴らして着地する。
馬族の剣士は剣を鞘に戻しリコに向かって足を進める。
リコの警戒度が最大になり、牙を剥こうとした瞬間、兜の装飾が狼を模っているものだと気がつく。
「貴女はもしかして……近衛師団の……」
「うん!師団長のカレンだよ!ケガはない?」
リコは頷くと安堵の息を吐く。
しかし、レンが気を失っている所を目撃し、駆け足でレンの容体を確認する。
「うん……。この感じは気絶してるだけだから大丈夫……かな?魔障石のモヤには当たってないでしょ?」
「魔障石……?」
「あの黒い結晶のこと。あれのモヤモヤに当たると生き物や土地も全て腐ってしまうから逃げないとダメだよ?」
「……レン君の故郷も、その影響ですか?」
「うーん。カレの故郷がどうかとは知らないけど、この国は千年くらい前に一度滅びかけているから、同じものだと思っていいかも」
リコはそれ以上口を開かなかった。
それは野狐族も関係している可能性を感じ取り、話すことができなかった。
カレンは手を差し出し、リコに向ける。
「ほら、カレを連れていくにはあたしが護衛した方が安心でしょ?この程度の奴らなら片手で倒せるし。それに、学園が今避難所になっているからキミたちは丁度いいでしょ?」
リコは頷く他なかった。
腕力が殆どないリコにはレンを運ぶことができない。
怪物が現れたこの場所は大変危険である事が分かる。
オマケに自信よりも遥かに強い剣士が護衛についてくれることを反故にするわけにはいかなかった。
「ありがとうございます。足手纏いにならない様にします」
「民間人は戦わなくていいの。あたしはヴォルフ様の命で各地の魔物を倒して、避難させているだけだもん。聖騎士の仕事だからね」
リコは安心して立ちあがろうとした瞬間、緊張の糸が切れたのか気を失ってしまった。
地面に倒れ込む前にカレンによって担がれるリコ。
レンとリコを軽々と担ぎ、学園の方に向かって河原を駆け抜けていく。
――ピキッ
カレンの耳に小さいものが割れたような音が耳元で鳴り、レンの頭から髪飾りがするりと落ちる。
それを難なく手に取り、走りながら確認すると嬉しそうな笑みを浮かべる。
――幸運のおまじないのお守りを持っていたからか……。間に合ってよかったね……!
リコから贈られた髪飾りはその性能を見事に発揮し、レンの命を救った。
リコの理論である【幸運のおまじない】は精霊による恩恵だという証明が成された。
カレンはそのような実証試験を行われていた事を知らないが、少なくともこのお守りのおかげでレンたちは救われたと思うのだった。
§
オクトたちは苦戦を強いられていた。
意思を持たない魔物に対しては三人で対処ができた。
しかし、セブが避難誘導へと回り、それが終わる前に新たな魔物が現れた。
意思を持つ魔物。
複数種の生き物の特徴を持つ人ならざる者は共通しているが、知性がある分非常に厄介だった。
前衛を引き受けるはずのサムを無視し、オクトにめがけて迫ってくる。
無理やり魔物とオクトの間に割って入り、ノックバックさせるほどのボディブローをサムはお見舞いする。
「タンクを無視するなんて中々めんどい奴だなっ!オクト!安心して追撃を与えて大丈夫だぞ!」
「……無理だけはするな、サムさん!」
「おうよ!」
オクトは魔物との距離を取りつつ魔道具を変形させる。
銃身を長いものに変え、一撃に特化したもの、ライフルモードへと切り替える。
手のひらサイズのマガジンを取り出し魔道具に差し込む。
スコープを模したものを覗き、魔物の頭部を視界に入れる。
――……そこだ!
オクトは囮役のサムがいたとしても躊躇わず引き金を引いた。
雷鳴のような炸裂音が響き渡り、弾丸がサムと魔物に迫る。
サムは視界に捉えることなく上半身を逸らせ、弾丸を回避した。
そして、魔力を込めた拳が魔物の腹部に直撃し、その動きを止める。
ダメージは与えられずとも、その衝撃は魔物の動きを止めるのに十分な威力であり、弾丸を避けさせる暇を与えず、無防備な額に弾丸が着弾した。
――ガキッ!
金属にはじかれるような硬質的な音が鳴り響き、弾丸は空高く跳弾した。
「はぁ!?」
「なんて硬さだ……!サムさんの攻撃が通りにくいとは思っていたが……。セブは今、避難誘導にしながら魔物の処理に行ってるから期待ができない……。サムさん!一かバチだがセブのところに引き――」
オクトは背後から衝撃を受け、サムの足元に吹き飛ばされる。
「オクト!?」
――くそ……!なんで別の個体がいるんだ……!?
オクトは右の脇腹を押さえ、痛みにこらえながら立ち上がる。
オクトとサムは二匹の魔物に挟まれる形になる。
「オクト……!お前、やられたのか……!?」
「不味ったね……。オイラの魔力纏いを貫通できる魔物がいるなんて思わなかった……」
サムは流れ出る血液を確認し、手当の手段を考えるが専門的なことを学んでいないため答えが出なかった。
おまけに魔物たちにとっては絶好のチャンス。
二匹の魔物は一斉にオクトに向かってとびかかるのだった。




