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防戦一方

「……っ!数が多いっ!」


 オクトは迫り来る異形の怪物の群れに防戦一方だった。

 レンとの訓練で使った銃の魔道具とは形が違い、上下二連式の散弾銃を模した魔道具だった。

 威力重視の魔道具だが、怪物の致命傷にはならずにいた。

 ――早く……カレンかセブが来てくれたら……!


「わりぃ!遅れた!」


「サムさんか!少しでもタンクがいてくれると助かるっ!」


「お前、後衛職だもんな!とりあえず民を逃しながらカレンかセブ待ちって感じか?」


「その通り!話が速くて助かるよ!」


 オクトはサムの背後に下がり、魔道具の形状を変えていく。

 連射力重視のサブマシンガン型に形状が変わった。

 サムは魔力纏いの拳を怪物の腹部に打ち込み、衝撃波を纏いながら他の怪物を巻き込みながら侵攻を遅らせる。

 サムが取り逃がした怪物はオクトが脚を狙い侵攻を妨げた。


「しっかし……数が多いな……。サムさん、めえさんはなんか言ってたか?」


「メリルはふく様たちと向かうって言ってたぜ。ヒト手が欲しいがげ――」


「おりゃぁぁっ!」


 突然若い男の声が木霊したかと思いきや、怪物の一体を吹き飛ばす。

 オクトは口を尖らせ、サムは驚きのあまり空いた口が塞がらない。

 二人の前にはハウルが立っていた。


「先生ェ。こんなザコに手こずってんのか?王族も苦戦するなんてな……。どいつもこいつも偉そうな口ばかりだな!ここは俺が全部倒して英雄になってやる!」


「バカ!自惚れるのも大概にしろ!そいつらは魔獣とは違うんだ!オレたちだって倒せないんじゃなくて『倒さない』ようにしているんだっ!」


「一匹でも倒してから言えよな」


 ハウルは魔力を込め、怪物の一匹の首を回し蹴りで刎ねた。

 しかし、怪物はすぐさま再生し、ハウルに目掛けてボロボロに欠けた牙を向けて迫る。

 ハウルは溜息を吐くと、一瞬のうちに懐に潜り込み、腹部に目掛けてアッパーカットを繰り出す。

 怪物の身体がふわりと浮くと右、左と猛ラッシュを叩き込んでいく。

 再生の限界が来たのだろう。

 怪物の脚がドロリと溶けていく。

 ハウルは魔力を昂らせ、右ストレートパンチを怪物に叩き込み、身体を吹き飛ばした。

 ドロドロに溶けた肉体部分は失われ、どす黒い結晶だけが残っている。


「コイツがコアか?トドメを刺してやる」


「バカやろう!それに触るな!」


「な、離せっ!?俺の邪魔をするな!」


 ハウルが暴れ、サムはどす黒い結晶からハウルを近づけまいと羽交い締めにする。


 ――ドクン……。


 大きな脈動が結晶から放たれる。

 急いで退避しようとサムはハウルを担ごうとするが、スルリと抜け出し、結晶に近づく。


「英雄への第一歩だ!しね――」


 ハウルが一撃を入れようとした瞬間、雷鳴のような轟音と共に白い光の尾が結晶を一閃した。

 どす黒い結晶は砕け散り、禍々しい気配は消え去っていく。

 それと同時にハウルは地面に倒れ込む。

 オクトがハウルを撃ったのだ。

 オクトはサムの顔を見ずに訊ねる。


「サムさん。『王族の告げる事は間違いでない限り従う事』というのは教えていないのか……?」


「いや……そんな事はない……」


「オイラたちがなぜ王族と呼ばれるか。コイツは理解していないようだが?」


「すまない……。オレの指導力不足だ……」


 オクトは魔道具の銃からマガジンを取り外し、新しいものと交換する。

 サムはハウルの暴走を止められず、肩を落として反省する。


「まあまあ、結果的に間に合ったからサム君はお咎め無しって事で!ね?オクト?」


 セブはウインクしながらオクトに迫ると、諦めたような表情を浮かべ、両手を挙げてこれ以上の議論をしない事を示す。


「サムさん、この子は気絶してるだけだからめえさんと合流するまではしっかりと守ってやりなよ?」


「お、おうっ!任せとけ!これがオレの役目だ――」


 強大な魔力反応が起こったことを察した三人は一斉に同じ場所に身体を向ける。

 程なくして風の魔法が山を砕いていった。


「あれは……極大魔法……『疾風怒濤』……!?」


「レンたちだ」


「嘘だろ!?レンは魔法を持ってないんじゃ!?」


「サムさん、きちんと生徒のこと見てやりな?レンは魔法を持っていたけど、制約が強すぎて使えなかっただけなんだ」


「そうだったのか……。って不味いだろ!あんな魔法を魔物に使ったら魔障石が!」


「「!?」」


 オクトは飛び出そうとしたが、直ぐに静止した。

 ――あの距離はセブでも間に合わない……。アイツ……せっかく苦労してここまでやってきたのに……。

 オクトは項垂れて自身の力の無さに絶望する。


 §


 レンとリコは極大魔法の反動で休息をとっていた。


「あの魔法、強いけど反動が凄いね……!」


「そうですね……。あまり使わない方がいいのかもしれません。……?あれ、なんでしょうか?」


 リコの指した先を見るとクルクルと回るどす黒い結晶。

 一目見た瞬間、レンの体毛が逆立つ。

 そして、激しい頭痛が襲い、レンは気を失う。

 どす黒い結晶は禍々しい魔力を放出し、活性化した。

 リコはその魔力を感じ取り、死を予感したのだった。

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