キミとパートナーに
「綺麗……」
花火が打ち上がる中、レンはリコの横顔を見て固唾を飲む。
――花火が終わるまでに気持ちを伝えなきゃ……!
レンは酷く緊張し、初めての戦闘訓練や戦闘演習の時よりも緊張していた。
一方リコも同様に緊張する。
他人に気持ちを伝え、その他人が今度は身内になるかもしれない。
そう考えると、段々と自信を失ってしまう。
要因はやはり自身が野狐族であること。
幼少期から心に結びつけられた感情はそう簡単に変わるものではない為、仕方のない事だが、リコにとっては深い傷痕のようなものだった。
お互いが中々言葉を紡ぎ出せず花火を眺める。
終わりの花火が迫り、レンの表情は焦りに変わっていく。
しかし勇気が出ず、その一歩が果てしなく遠く感じる。
青い花火が開いた瞬間、レンは真っ白な空間に移動する。
どういう状況か飲み込めず辺りを見渡すと背後から声がかけられる。
――狼族の血を引いてるんだ。それに、お前はもう無力じゃないだろう?
――大丈夫。私たちだって異種族の番。アナタだってきっと出来るわ!
「父さん……!?母さん……!?どうして……!?」
レンは振り返ると父と母が立っており、二人はレンの背中を同時に押す。
――あの子も、待ってるわ。
――行ってこい。お前を必要としているそこの野狐族の子の助けになってやれ……!
茶色の毛並みをした屈強な狼族の男性。
青い瞳はレンにそっくりで、襟足がいろんな方向に跳ねている所までレンと瓜二つ。
虎柄の猫族の女性はレンの大部分にそっくりであり、優しい顔つきは母親譲りである事が分かる。
姿が段々と薄れていき、もう二度と会えないと本能で感じ取る。
レンは拳をギュッと握り締め、二人に満面の笑みを見せる。
「父さん、お母さん!行ってくるよ!ありがとう……!」
レンは目を開けると広場に戻っており、隣にはリコが立っていた。
どこか不安そうな表情を浮かべる彼女を見て、リコの左手を取って跪く。
「リコさん」
名前を呼ばれたリコは表情を硬くし、ぎこちなく頷く。
レンの鼓動は速く、花火に負けない程うるさかった。
口の中の唾液は消えてしまったのかカラカラであり、喉が非常に不快な詰まりを感じる。
足も震えそうになってしまうが、楔を打ち込んで地面に貼り付けるように力を込める。
腹を括り、顔を上げてリコを見つめる。
整った顔、ポニーテールを下ろした普段とは違う髪、何故かお互いに似てしまった格好。
全てがレンを魅了する。
そういった魔法が込められているのかもしれないとレンは錯覚するが、心の中で首を横に振る。
「今日は……一緒に祭に来てくれてありがとう」
「いえ……私がヒトに慣れていないせいで、楽しめなかったかもしれません……。申し訳ございません」
「そんな事ないよ?オレ、リコさんと一緒にいられてとても楽しかった……!」
「私も……不思議な出来事やこんな綺麗な花火が観られてとても楽しいです……!」
「今日は、リコさんに伝えたい事があって祭に誘ったんだ」
リコの胸が高鳴り、ゴクリと唾を飲み込む。
レンは逃げてしまいたいくらい緊張を高め、口を縫い付けられたような感覚に陥る。
大丈夫。
行ってこい。
その二言がレンを奮い立たせる。
「いつも、オレのそばで支えてくれてありがとう。魔法が無くて自信を持てなくても、リコさんがいてくれたからここまで頑張ってこられた。お互い、孤児でまだまだ分からない事だらけだけど、リコさんが許してくれるなら、これからも一緒に……隣でいてくれますか?」
レンは小箱を取り出し、中から指輪を取り出す。
台座にはキラリと輝く石があり、白く透明度のある無垢な光を放つ。
ゆっくりと、左手の中指に指輪を嵌める。
すると石はリコに呼応するように輝きを放つ。
リコは返事をする前にレンに抱きつく。
「はい……!私で良ければ……。私も……ずっとそばにいたいと思ってました……。ご迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします……!」
レンもリコを抱き締め、顔だけ少し離れて見つめ合う。
そして、ゆっくりと口を重ね合うと一番大きな花火が上がり、続く連続玉で縁祭りのメインイベントである花火が終わった事を告げたのだった。
静寂な広場に二人は口を重ね合ったまま立っていた。
すると、二人の魔力が一度脈打つように大きな反応が現れる。
パートナー契約の成立の証だった。
「リコさん……」
「はい……?」
「大好き……だよ」
「私もです……!」
二人は照れながら愛を確認する。
何かを思い出したのか、リコはポケットの中から髪留めを取り出し、レンの後ろ髪を束ねて留めた。
「これは……?」
「私からレン君に贈る【幸運のおまじない】を込めた魔道具です。魔道具を作る時に、髪の毛が邪魔にならないようにと思って作りました」
レンはリコから少し離れ、くるっと一回転する。
「どうかな?似合ってる?」
「はい。見立て通りです」
「えへへ……ありがとう」
「いえ、レン君の作ってくれた魔道具もとても綺麗です……」
リコは指輪をいろんな角度で眺め、石の輝きにうっとりとする。
レンは自身が製作した魔道具を嬉しそうに眺めるリコを見て、にんまりとした笑顔を向ける。
「この魔道具には何が入っているのでしょうか?」
「これは魔道具の器なんだ。だから何も入っていないんだ」
「好きなものを入れても良いと言う事ですか?」
「うん。これからリコさんが手に入れる精霊たちの魔法もこの中に入れられる容量が有ると思う……!」
リコは指輪を大事そうに抱え、笑顔を向ける。
それはレンの中でランキング一位の笑顔を見せていた。
リコは本当に嬉しい時の笑顔は眉が垂れ下がり、口角が上がる。
普通のことなのかもしれないが、リコの中では人生初の他人に見せる笑顔だった。
レンは再びリコの手を握り、花火が終わった後の会場を眺めるのだった。




