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目的の場所へ

 予想以上のヒトの数に揉まれ、思うように進めないレン。

 リコは段々と胸を抑えて苦しそうな表情を浮かべ、レンは焦りの表情を浮かべる。

 ――祭りがこんなにも大変だったのは見立てが甘かった……!何とかこの人混みをリコさんを抱えてひとっ飛びでき……できるかもしれない……!

 レンは腰に装備していた杖を取り出し、リコの手を引きながら人混みの端に出る。


「ひゃ……!?」


 レンはリコをお姫様抱っこの要領で抱え、杖に魔力を集中させる。


「れ、レン君……?」


「ちょっとだけ、掴まっててね……。『数多の魔法の根源よ、重ね合わせてその力を昇華させん。我の魔法に呼応し唸りを上げる烈風よ、我の身体を大気の力で飛翔させよ!』」


 二つの風の紋章がレンの足元に浮かび上がり、互いに重なり合い、一つの紋章になる。

 レンはリコの身体をしっかりと抱え、後方に跳んだ。

 そして、背後に迫った学園の壁に両足をつけて目的地に向かって再び跳んだ。


「んっ……!?」


 あまりの勢いでリコは眼を閉じていたが、恐る恐る眼を開けると十メートルの高さを飛んでおり、眼下には祭りの会場が広がる。


「わぁ……凄い……!レン君も――」


 リコの目に映るレンを見てそれ以上の言葉が出なかった。

 リコのために跳ぶレンの姿はオスとして雄々しく映り、恋に落ちた事を再認識する。

 祭りの会場から少し離れた場所に段々と降下していく。

 しかし、勢いは衰えておらず、このまま進むと地面に激突は免れない。

 レンは魔法の効果時間内であることを確認し、【連鎖】の魔法を発動させ、風を逆噴射させることで着地に成功する。

 ゆっくりとリコを地面に降ろし、目的の河原に到着した。

 リコは高鳴る鼓動を抑え、レンの顔を覗き込む。

 目が合ったレンは照れくさそうに笑い、杖をしまう。


「レン君……。ついに、魔法を見つけたのですか?二つ程、知らない魔法を使っていたようですが……」


「うん……!まだ、知らないところが多くて他の使い方を見出せてないけど、何とか使えるようになれた……かな?」


「レン君の不安がとれたようで、私も嬉しいです」


「ありがとう……リコさん」


 レンはリコの手を取り、指を絡める。

 そして、歩みを進めていく。


「どちらへ向かうのでしょうか?」


「今日、見られるか分からないけど、面白いもの見つけたんだ。ほら、あの奥に見える木だよ」


 二人は対岸にある枯れた木を眺める。

 リコは耳を上下に揺らし、違和感を探っていた。

 すると、淡い光の玉が木に集まり、リコは手で口を押さえる。


「ね?面白い木があるでしょ?」


「レン君、これは精霊ですよ……!契約が結べる程の精霊ではないですが、この土地に根強く居る……いわば土地神様のようなものです」


「え、精霊だったの……?」


 レンの瞳は紋章だけでなく、精霊を見る事ができる目だったことを思い出す。

 花火までの時間はまだまだ先だった為、河原にある大きな石に二人は座り込む。

 枯れた木に集まる精霊たちを眺め、レンは口を開く。


「オレ、リコさんにお礼を言いたかったんだ」


「?」


「リコさんがいたから、魔法に気付けたし、弱いオレのそばにいてくれた事がとても嬉しかった。ありがとう」


 レンはリコに深々と頭を下げ、リコに感謝する。

 そんなレンに対し、両手を前に突き出して手を振り、慌てて頭を上げさせようとするリコ。

 普段のリコと比較すると非常に慌てており、不思議な感じだった。


「私の方こそ、レン君にお礼を申し上げないといけません。レン君がいなければ、私は学園では孤立して、……それよりも死んでいたかもしれませんし」


「……大丈夫。これからも、オレもサクラさんも、先生だってリコさんの味方だよ。だから安心して良いよ?」


「はい……!ありがとうございます……!」


 レンの言葉はリコにとって嬉しいものだったが、心の隅に何か引っ掛かるような感覚に陥り、考える。

 ――どうしてでしょう……?とても嬉しい言葉なのに、物足りなく感じてしまうこの気持ちは……。あ――。

 リコは立ち上がり、枯れた木に集まっていた精霊がリコに集まる。

 そのどれもが温かく、何かを伝えようとしてくれていた。

 実体を持たない精霊は下位精霊と呼ばれる。

 リコはその中で一番光が強い精霊に魔力を込める。

 ――地上より堕ちる者に気をつけて……!

 精霊がリコに対して語りかけてくる事は珍しく、驚きのあまり手を口に当てる。

 リコは精霊の言う事に理解が遅れる。

 それはオクトが警戒している【魔物】の事であるが、リコたちは【魔物】と言うものを知らない。

 ――一応、近いうちに何かが起きると言う事でしょうか?警戒した方が良さそうですね……。


「レン君。せい――」


 ドンッ!!


 上空より爆発音と閃光、そして色とりどりの流星が降り注ぐ。

 花火が始まったのだ。

 レンはリコの手を握り、立ち上がる。


「始まっちゃった!?良い場所を見つけているんだ!ちょっと走るよ!」


「あ、はいっ!」


 二人は河原の奥に進んでいくと、土手があり、階段を登っていく。

 一番上まで登るとレンは得意そうな笑みでリコを見つめる。

 誰もいない広場を進むと空に向かって流星が三つ打ち上がる。

 リコは息を飲み込むと満開の花びらが三つ空を覆い尽くすのだった。

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