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お祭りデート

 縁祭り当日。

 レンは保健室前に立ってリコを待つ。

 半袖のシャツ、その上にノースリーブで裾が膝まである上着、ストレートパンツを着こなしていた。

 この服は特別なものではなく、一般的な普段着に近いものだった。

 裾が長く、腰マントや燕尾服のような見た目に一目惚れしたレンはそれを直ぐに手に取り、セブに見せていた。

 それに合わせたコーディネートというわけだ。

 リコを待っている間、レンの尻尾は忙しなく左右に振られていた。

 高まる鼓動、粘り気があり飲み込みにくい唾、両手がだんだんと冷えていく。

 レンにとって一世一代の大イベントだ。

 緊張しないわけがない。

 手に持っていた小箱を眺める。

 ――今日……正直な気持ちをリコさんに伝えるんだ……!逃げるなんて、絶対に無いっ……!

 小箱を胸に当て、そう違うと遠くから走ってくる足音が聞こえ、小箱を大事にしまう。


「お待たせいたしました」


「う、ううん……!オレも来たばかりだから気にしないで?」


「……ふふっ」


 リコは口に手を当てて笑う。

 レンはなぜ笑われたのか分からず首を傾げる。

 リコはレンと自身に指を差し、見比べる。


「私たち、ほとんど同じ格好ですね」


「あ、ほんとだ!?どうして?」


「なぜでしょうか……?」


 二人は首を傾げると、可笑しそうに笑う。


「こんな偶然、面白いや。それじゃあ、そろそろ行こう!」


「そうですね。よろしくお願いします」


 二人は祭へと向かう事にしたのであった。


 足音が遠ざかり、保健室の扉が開かれる。

 メリルとセブが姿が見えなくなった二人を心配そうに見つめると、部屋の奥からオクトが歩いてくる。


「二人とも同じ服って……すごい偶然だな」


「でも、あの上着を選んだのはレンくんよ?」


「リコは私のお下がりなんだがな……。あれはセブに見繕ってもらったはず」


「「それだ!」」


 セブとオクトはメリルに向かって指を指す。

 どういうことか分からず目を丸くしているとセブは腕を組んで頷く。


「私がコーディネートしたんだから、二人の服が似てしまうのもしょうがない!」


「そういうもの……なのだろうか?」


「クセ、みたいなものだな」


 二人の格好が似てしまった理由も判り、オクトは廊下の窓に手をかけて外を眺める。

 目を細め、オクトの魔力がほんの少しだが揺らぐ。


「……めえさん。ふく様とヴォルフ様、その他王族に戦闘態勢を敷くように伝えてくれ。何もこんな時に来なくてもいいのに……」


 オクトの発言を聴いたメリルとセブは表情を硬くし、この場を解散したのであった。


 §


 レンとリコは呆気に取られていた。

 学園主催の祭であるのだが、ヒトの数が多く、密集していた。


「す、すごいね……!」


「こんなに生徒がいたのですか……」


 屋台がズラリと並び、『小魚掬い』『串肉焼き』『焼き米』『魔弾当て』等の種類豊富なものだった。

 『串肉焼き』が一番人気であり、その行列は凄まじかった。


「これ、食べられるまでに花火が始まっちゃうんじゃ……」


「あの……少し静かなところに行きませんか?」


 レンが振り向くとリコはヒトに充てられたのか、不安な表情になっていた。

 ――そうか……!リコさんは今まで隔離を受けていたからこの状況が辛いんだ……。

 レンはもう少し祭りを楽しみたい気分だったが、リコの身体のことを思い人気の少ない場所へと移動するのだった。


 §


 サクラは祭りを一人トボトボと歩いていく。

 サクラの容姿なら誘いの声は沢山かかるが、全て断っていた。

 ――しょうがないじゃない……。レンくんと比べて見劣りするオスばかりじゃん……。

 クラスメイトでは満足できるヒトがいなかった。

 基本的にオスはメスに対して自身を強く見せる傾向がある。

 サクラはそれが気に入らなかった。

 レンのように強さを誇示しないオスが好みであり、自身が変わった性癖をしていることは自覚している。

 ――アタシは正直なヒトが好きなだけ……。見栄を張らないレンくんが好きだった。弱くても、何も出来なくても頑張っている姿が一番カッコ良かったから……。でも、フラれちゃった……。

 サクラの視界が歪んでいく。

 目頭が熱く、鼻の先が絞られるような感覚、口をへの字にして声が漏れないようにする。


「何泣いてんのよ……アタシのバカ……!……あれ?」


 サクラの視界に人気の少ない場所へと向かうレンとリコの姿が目に入る。

 リコは浮かない顔をし、レンは人混みから早く抜け出したいような表情で河原の方角へと向かっていった。


「何で、全然楽しそうじゃないのよ……。こっそりついていっちゃお……」


 事が上手くいっていないと判断したサクラは興味本位でついていく事にしたのだった。


 §


 メリルは保健室の棚にある巻物を取り出し、魔力を込める。

 それは【縮地】の魔道具であり、特別製である。

 魔法が発動した瞬間、保健室から石造りの建物の内部に移動する。

 学園も石造りの為、見た目が変わらないように見えるが、学園の石とは性質が違い、青みを帯びていた。

 場所を確認し、メリルは走って建物内を駆ける。

 そして、大扉が目の前に現れ、それを思い切り押し開ける。


「ヴォルフ様、ふく様。オクト様より伝言に参りました」


「なんじゃ、祭に何か不手際が起きたのかの?」


「いえ……。これより一刻までに魔物が侵略してくるとの事です。オクト様の見立てではカレンを呼ばれた方が良いと」


「犬っころがそう言ったなら、向かわせるといい。玉藻は必要か?」


 メリルは一瞬考えたが、直ぐに首を横に振る。


「玉藻様はヴォルフ様の護衛についた方が宜しいかと」


「わかった。ふく?くろんぼも一緒につけてやっていいか?」


「もちろんじゃ。番なら一緒に居った方が強いからの。ぼるふよ、わしらも出るのじゃ。【奴】が現れればわしらしか相手ができんからの」


 ヴォルフは頷くと本来の姿である狼の姿に戻る。

 ふくはヴォルフによじ登り、背に跨る。

 一度眼を閉じ、息を大きく吐く。

 眼を開けた瞬間、ふくの纏う魔力が大きく増大し、全身の体毛が白く変色していく。

 一つに束ねていた尾が九本に分かれ、尻尾の先に紋章が浮かび上がる。


「白狐化……ですか……!?」


「うむ、先手を取られてはならぬからの。暫くこの姿で待っておくのじゃ」


 ふくの本気度を目の当たりにしたメリルは万が一が無いよう、装備品の確認をするのであった。

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