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狐猫の重奏唄  作者: わんころ餅
入学編
7/61

すごい魔道具たち

「それじゃあ、次の魔道具の紹介だ」


 ポチおは小さなカバンの中から明らかに体積が大きいものを取り出し、生徒たちの視線を集める。

 物理法則を無視した魔道具に驚いていると、ポチおは大きな物に手を当てる。

 それも魔道具であり、レンは二つの魔力を感じ取る。

 魔道具に向けて一気に魔力を注ぐと魔道具から二つの魔法が発動する。

 一つは【風】の魔法。

 もう一つは【水】の魔法だった。

 二つの魔法が組み合わさり、別の魔法を生む。


「【氷結】の魔法だ……!」


 生徒の一人が呟くと、周りの生徒たちが騒めき始める。

 屋内競技場を冷気が包み込み、氷の結晶を空中に作り上げる。

 幻想的な空間に一同が見惚れていると、ポチおは魔道具を停止させた。


「これが新しい発明品の魔道具だ。複合魔法を擬似的に再現する魔道具で、課題は多いが小型化と省魔力化が出来たら民間に販売する予定なので期待してくれ」


 人数は少ないものの大きな拍手がポチおに送られ、講義が進んでいく。


「オイラたちの生活の基盤に根付いているのは間違いなく魔道具のおかげであるんだが、残念な事に作り手が非常に不足している。オイラもこの先、いつ死んでしまうかわからないし、魔法技術士を目指してもらえると助かる」


 この国の生活はほとんど魔道具に頼っているといっても過言ではない。

 それは炊事洗濯などの家事は魔道具が肩代わりしている。

 自然の力に任せたり人力でも良いのだが、それでは時間がかかる。

 この世界で魔法は基本的に一個体に一つの魔法が備わる。

 【火】の魔法をもてば【水】の魔法は持てない。

 稀に複数持つ個体もいるのはいるが、非常に珍しい例である。

 そして、【火】【水】【土】【風】といった魔法は元素魔法と呼ばれ、これが希少種であるのだ。

 一応【紋章】と呼ばれる魔法陣のような物を描き、詠唱をすることで間接的に使うことができるが、威力が安定せず、不人気な方法であり、そもそも紋章の形を知らないヒトの方が多かった。

 魔道具ならば魔力を注ぐだけで魔法が発動でき、非常に安価な為必要な魔道具を揃えるだけでインフラが整うのだ。

 しかし、問題として技術者の不足が生じているとポチおが告げる。

 魔道具の材料は店で売っておらず、自身で調達する必要があるからだ。

 国内では良質な材料は確保できず、粗悪品しかできない。

 その為魔道具を作る魔法技術士は技術や知識だけでなく、国外に身一つで放り投げられても生き残る程の戦闘能力が必要となる。

 素材調達を外部発注すれば、魔道具の価格が跳ね上がり、お互いの生活が苦しくなるため着手できないでいた。

 魔道具の講義がこうして終わりを迎え、質問時間となる。

 現実を突きつけられた生徒たちは質問をする事なく、時間が経っていく。

 それはポチおもよくわかっている事のため、仕舞いにしようとした所、一人が手を挙げる。


「おや?珍しい。キミはさっき指名した猫君だね?」


 レンは立ち上がり、訊きたい事を言おうとした瞬間、ハウルにバカにされた事を思い出し、躊躇ってしまう。

 それを見たポチおはレンの元まで歩き、肩に手を置く。


「大丈夫。どんなアホちんな質問でも真剣に答えるよ」


「は、はい……!」


 その言葉にレンは少し心が軽くなり、口を開く。


「お、オレは調査隊を目指してます……!でも、魔法も無くて魔力もそこまで高くない……。それでも……!この前魔道具を使ってみて訓練が楽しかったんです!そんなオレでも強い魔道具を作って調査隊に入ることができますか?」


「お。結構踏み入った質問だね。結論から言うと強い魔道具が作れても調査隊には入られない」


 ポチおのド直球の返答にレンはショックの色を隠せなかった。

 分かっていたことだったが、現実を突きつけられると悲しくなるのは仕方がない。

 ガックシと肩を落としたレンは座ろうとしたとき、ポチおは続きを話す。


「ただ、魔法技術士の資格が取れる程の技術者になれば調査隊になれるよ。難しいだろうけど、キミに残されている道はそれだと思う」


 レンはポチおの言うことが理解できなかった。

 魔法技術士の資格を持った者が調査隊に入ったという事例がなかったからだ。

 納得のいっていない表情をしているレンの目線に合わせるように屈む。


「魔法技術士の資格を持ったヒトは大体、魔導研究所の機械いじりしてるから選ばれないんだ。キミが資格を取ってオイラみたいにフリーの技術者になれば可能性は高いよ?オイラも調査隊にいたからね……!」


「え……!?ええええぇぇぇっ!?」


 突然のカミングアウトにレンは腰を抜かしてしまった。

 ポチおはレンの頭をポンポンと軽く叩くと壇上に戻る。


「これ以上質問が無ければ講義を終えるとしよう。……うん、いないね。それじゃあ、魔道具の臨時講義はこれにて終了とする。解散!」


 講義が終了し、生徒は競技場を後にする。

 入れ替わりでサムが入ってくる。


「よおオクト!終わったのか?」


「サムさん、プライベート以外で名前で呼んだらめえさんに怒られるよ?」


「げ……。な、内緒なっ!ってレンがいたのか……!しまった……!」


 腰を抜かして立てないでいるレンを見て、サムは頭を抱える。

 オクトと呼ばれたポチおは腰を抜かしているレンの手を取り、立たせる。


「魔法技術士になれるの楽しみにしているよ」


「は、はいっ!」


 ポチおに激励を贈られ、レンは期待されているという承認欲求が満たされていくのを感じた。

 もう少し話をしたいと思っていたが、これからは大人の時間なのだろう。

 名残惜しそうに競技場を後にするのだった。

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