幸運のおまじない
「ふう……」
リコは両手を挙げて背伸びをする。
魔道具には【幸運のおまじない】が込められている。
この魔法は正式な魔法とは呼べないものだが、恋人に贈るものとして、女子に人気なものだった。
おまじないが掛けられたアクセサリを身につけたヒトは何故か九死に一生を得るといった現象が起きている。
ただ、魔法のエキスパートと言われているメリルや最強と謳われる女王ですら魔法と認めなかった。
それは魔法として扱うには欠陥があったからだ。
魔法の形で【反撃型】というものがある。
これは魔力をあらかじめ蓄積したものに魔法を組み込み、【特定の条件】を満たした時に発動するものだ。
しかし、【幸運のおまじない】はどれだけ願いや魔力を込めたとても発動しない上、【反撃型】としての機能も果たさなかった。
その理由で魔法ではないと判定する他なかった。
結局目に見えて分かるものだけではないため、魔法ではないという認識が広まり、【おまじない】程度のという事で収束した。
リコはそれでも【幸運のおまじない】を選んだのには不思議なものに惹かれたからだ。
それはリコのチャームポイントであるポニーテール。
それを留めている髪留めが二つ目だという事。
リコの性格では本来、【おまじない】といった迷信は信じない。
リコの一つ目の髪留めはレンに助けられた日に壊れた。
これはリコの母親がリコのためを想い、手渡したものである。
レンに助けられ、自室に戻り、一息つくと壊れた。
何故壊れてしまったのか不思議に思っていたが、サクラによって【幸運のおまじない】の噂を聞き、壊れてしまった髪留めを思い出した。
噂と実体験からリコは一つの仮定に辿り着く。
精霊魔法。
リコはまだ扱う事ができないが、何度か不思議な感覚を覚えていた。
それも髪留めから時々、薄っすらと感じており、それが精霊魔法だとするならば魔力を込めたり、カウンターを決めようとしても発動する事がない。
精霊魔法の素養が無く、精霊の言葉で命令をしていないからだ。
そして、リコの仮定は精霊魔法が使えないヒトでも時々精霊の力を借りているという事。
【幸運のおまじない】は魔道具の器に想いビトの幸運を願うもの。
強く、長く念じる事で精霊の方から興味を持たれ、魔道具に憑依する事でこの魔道具が完成するのだと、リコは考える。
そして、たった今それを成し遂げようとしている。
――私に精霊の魔法を扱える素養があるなら……。できるはずです……!
リコの祈りは昨日から。
サクラはリコが精霊魔法を扱うための【召喚】を持っていることは知っているが、精霊魔法が扱えるとは思っていない。
それは、精霊との契約を結んでいないことに起因する。
【召喚】の魔法は解明されていない内容が多く、使い手も女王の娘:玉藻のみ扱う事ができていた。
サクラが閲覧できた内容では『精霊と契約し、精霊から魔法を借り受けるもの』、『精霊の言葉を理解し、話すことができること』、『世界には数多の精霊が存在するが、意思疎通がとれる上位の精霊のみ契約することができる』とされている。
リコの今の条件に当てはめると、精霊との会話が出来る事も怪しいとサクラは感じる。
それはリコが一度も精霊と会話した場面に遭遇したことが無いから。
本当に完成するか不明な【幸運のおまじない】の魔道具に祈るリコを見守ることしかできなかった。
いよいよ夜を迎えようとしたごろ、リコの魔道具が淡く光る。
「リコちゃん……!それって……!?」
「……お願いします……。レン君を……助けてあげられる力を貸してください……。ありがとうございます……」
サクラの声は届かなかったが、リコは精霊と会話ができているようで安心する。
魔道具が完成する時、光や音が起こりがちだが、ほんのりと明るくなった後、それ以上のことは起こらなかった。
リコは大きく息を吐き、机に突っ伏す。
「リコちゃん、大丈夫……?」
「はい……。精霊に力を借りるというのは……大変なのですね……。魔力がほとんどなくなりました……」
立ち上がれなくなるほどの魔力消費は九割ほど失ったということである。
学園一、学園始まって以来最高の魔力量を誇るリコ。
彼女の魔力が九割消費されているとなると、精霊魔法の難易度が非常に高いことが窺える。
そして、一度にそれだけの魔力を失えば身体に不調が出てもおかしくないが、リコは疲労感以外の症状は出ていなかった。
サクラは魔道具を眺めて口を開く。
「完成したの……?」
「はい……。精霊たちにお願いして一度だけ……レン君を助けてくれるように……」
リコが作った魔道具は髪留めだった。
オスであるレンに髪留めを贈るというのはサクラには不思議に感じた。
「リコちゃん。どうして髪留めを贈るの?」
「レン君の髪……後ろ髪は特に狼族の特徴があります。レン君の後ろ髪が魔道具作りの時に邪魔にならないように……と思いまして」
「……リコちゃんは本当にレンくんのこと見てるんだね」
リコはゆっくりと身体を起こし、首を傾げてサクラを見る。
「あたしはそんな事にも気づけなかった……。いつもすごい魔道具を作る、いつも一生懸命、いつも誰かのために動く……そんな事くらいしか見てなかった」
「……私も、そこまでレン君の事を詳しいわけではありません。ですが、一緒に……隣に立って支えてあげたいという……私の本当の気持ちです……」
照れているのか恥ずかしそうに髪を指でくるくるとしている。
普段表情を表に出さないリコを見て、サクラは完全に敗北したと悟る。
「なら、祭の時にはしっかりと想いを伝えないとね……!」
「はい……!」
――悔しいけど……。レンくんのことは……リコちゃんに譲る……。
サクラはリコにレンを譲る決意をし、ちょっぴり強めに背中を叩いて、後押しするのだった。




