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魔法と対話する

 オレは目を閉じて意識を過去に集中させる。

 昨日のことを思い出すようにと言われたけど、初めに浮かび上がったのはリコさんと初めて戦った時の事だった。

 あの時は焦ったなぁ……。

 いきなりヴォルフ様に攻撃されて、リコさんが氷漬けにされて、どうしようかって思ってたなぁ。

 初めて一緒に戦った時、リコさんの期待に応えられルように頑張った……はず。

 でも、ヴォルフ様は格が違った。

 神様と呼ばれるヒトはあんなに強くて自信に満ち溢れて、正直羨ましかった。

 オレには無いものをたくさん持っている。

 生まれから恵まれているヒトとの差を思い知った。

 段々と悔しさでリコさんのことを思い浮かべていないと気づいたオレは再び過去のリコさんを思い出す。

 次に思い出したのはリコさんを助けに行った時のこと。

 特級クラスのヒトたちのイジメで魔獣のいる荒野に置いて行かれたリコさんを助けに行ったんだっけ……?

 初めての実戦でメリル先生の魔道具が無ければリコさんを助ける前に死んでいたなぁ……。

 そういえば、あの魔道具……すごい威力だったよなぁ……。

 もしかしたら、父さんの作った魔道具だった可能性もあるんだろうなぁ……。

 あの時、初めて魔道具も作ったっけ?

 自分の魔力では対抗できないから、リコさんに使ってもらう前提で作ったんだよね……。

 やっぱりリコさんの魔力は強かった!

 特級クラスのヒトの実力は想像以上で、あの魔法には正直チビった……。

 自分の事でいっぱいのリコさんがオレの事を気にかけてくれたり、ケンカもした。

 リコさんからたくさん自信をもらった。

 だから、キミの力になりたい……!

 大好きなリコの隣に立って、一緒に……!


 ――数多の魔法。根源。幾重。力を昇華。


「なんだろう……?言葉が……?」


「レン。それがお前の魔法だ!言葉を紡いで詠唱してみろ!」


 オクトさんはこれが魔法だと言う。

 オレの心臓がドクンと強く打たれた気がした。

 言われる通り、言葉を紡ぎ出してみる。


「『数多の魔法の根源よ……。幾重にも重ね、その力を昇華せよ!』」


 詠唱を終え、魔法を発動させるとオレの目の前に大きな紋章が現れる。

 オレにしか見えない紋章。

 紋章の構造は習った事がないから分からないけど、父さんの【連鎖】の紋章をベースに細かい部分が継ぎ足されたり、無くなっていたりして魔法の変質というものを目の当たりにした。

 オレは素早くそれを書き写し、どのように使うのか考えてみる。

 だけど、うんともすんとも言わないオレの魔法は段々と効力を失ってきているのか薄くなっていく。

 どうにかして魔法を使おうと周りを見ると、オレの魔道具の杖が目に入る。

 昨日壊してしまって予備を持ってきたものだけど、それを手に取ると紋章の輝きが増して脈を打ち始める。


「これを使うって事か……!『唸りを上げる烈風よ、大気の刃で切り刻めっ!』」


 魔道具の詠唱をした瞬間、オレの魔法の紋章が風の紋章に溶け込み、五つの風の紋章が現れる。

 同じ魔法だけど、大きさや形が違っていて【連鎖】の魔法と同じだった。

 オレの魔法は【連鎖】の派生系だってことは間違いない。

 一度に【連鎖】を展開できたことはオクトさんとの戦いの時だけ。

 あの時は必死になって理由はわからなかったけど、今は自分の力で発動している。

 母さんの言う通り、リコさんが本当に鍵だったんだ……。

 この力があれば、リコさんの力になれる……はず!

 すると五つの紋章が大きく脈打つ。


「レン!オレに向かってそれを放て!お前の魔法なら十八連鎖まで耐えられるから!」


「わ、わかりました!行きます!」


 手のひらをオクトさんに向けて魔法を放つ。

 すると、壺のようなものを取り出し、蓋を開ける。


「『彼の魔法を我が封術にてその力を封印せよ!』」


 風の魔法がオクトさんの壺の中に吸い込まれていき、完全に収まる。

 そして、ねじ式の蓋をしっかりと閉めて封入が完了する。

 封印が完了したはずなのに、オクトさんはオクトさんは必死に蓋が開かないように押さえつけている。


「オクトさん?どうしたんですか!?」


「やっべぇ……!レン!危ないから外に逃げてろ!」


 オクトさんの焦った表情と気迫の篭った声を聴いて外に向かって走る。

 扉を開けるとき、うっすらとオクトさんの衣装が変わっていたような気がしたけれど、外に飛び出す。

 すると工房の道具が壊れる音と衝撃、

 そして窓を吹き飛ばすほどの風圧が外へ飛び出していく。

「本当に逃げないと危なかった……。あれ……?でもあの魔法ってオレの魔法じゃ……!?」

 

 オレは急いで工房の中に戻っていくと、魔道具が風の魔法で吹き飛ばされて壊れ、荒れ果てていた。

 オクトさんは無傷で座り込んでいた。


「オクトさん……ごめんなさい……!」


「お?なんで謝るんだ?」


「だ、だって……オレの魔法で工房が……」


「ハッハッハッ!」


 突然笑い始めたオクトさんにオレはどう反応して良いか分からずにその場で立つことしかできない。

 いっぱい笑った後、オクトさんは真面目な顔になる。


「これはオイラのミスだ」


「……?」


「お前の魔法を魔道具に封じ込めようとしたけど、お前の魔法はそれを拒否したんだ。お前の意思とは違って無理やりこじ開ける【連鎖】を組んでな」


「そんなことって……ありえるんですか?」


 オクトさんは口に手を当てて少し考え事をする。

 前例の無い魔法に当てはまるのか分からず、オレは不安になる。

 少しすると、手をポンと叩き、ニヤリと笑う。


「ふく様やヴォルフ様とたまちゃんだね。あのヒトたちは特殊すぎる魔法だから魔道具には入れられなかった。お前の魔法もそれに該当するかもな。喜んで良いぞ」


「あ、あの……弁償……を」


「要らないよ。さ、気を取り直してお前の仕事に取り掛かるとしようか」


 オクトさんは壊れてしまった工房を見て、なぜか嬉しそうな表情で片付けを進めていく。

 オレにはよく分からないけれど、リコさんのための魔道具を作るために気を引き締めた。

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