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早くに目が覚めて

  レンの目覚めは早かった。

 それは魔道具の完成が目の前のところにまで来ているからだった。

 魔法の練習をしようにも施設が開いているわけでもなく、学園外をぶらぶらと歩く。

 いつもの訓練所もまだ営業時間ではない。

 川の水が流れる音が聞こえ、レンはそちらへと歩いていく。

 草木をかき分け、河原に出ると薄暗い景色の中に点々と光るものが飛んでいた。


「なんだろう?」


 レンは光の主に近づくが、光っているだけで実体がない。

 不思議な生物だった。

 実体がないため生物といえるかは怪しいが、ほんのり暖かく感じた。

 すると光が異様に集まっている場所を見つけ、そこに行くと大きな木とそれを囲むような岩があり、光たちの集会所のようになっていた。


「すごい……。こんなのが見られるなんて……。祭りのとき見せてあげられたらなぁ。学園から少し離れてるから見栄えの場所じゃないかもだし……。あれ?展望台みたいなものがある……」


 レンは駆け足で向かっていくとやはり展望台であり、木の柵で囲まれた少し整備された広場だった。

 木の柵に手をかけ、見下ろしてみると、花火の打ち上げ場所がレンの目で確認できた。


「もしかして……ここはいいスポットなのかも……!?整備はされているけど、あまり使われてはいないみたいだ……」


 レンは穴場スポットを見つけ、ガッツポーズを取ると【太陽】が光を取り戻し始める。

 そう。

 オクトとの待ち合わせ時間が来たのだ。

 はやる気持ちを抑えながら駆け足で学園に戻るのだった。


 §


 レンは朝食を済ませ、保健室へと向かう。

 すると、保健室の前にはリコとサクラが立っていた。

 サクラはレンをキッと睨みつけるとレンに迫り寄る。

 そして思いっきり尻を叩かれてリコの前に無理やり立たせる。

 文句の一言でも言おうと振り返ると、怒りと蔑みの表情でレンを睨みつけていた。


「レン君」


 リコに声をかけられて体を震わせて恐る恐る振り返る。


「な、なにかな……?」


「あの、昨日部活に来られなかったので、心配で……」


「あ、あぁ……。オレは全然大丈夫!ちょっとオクトさんのところに行ってたんだ」


「……!そうだったんですね……!よかった……」


「……」


「……」


 二人の間に沈黙が起こる。

 するとレンの背後から何か強い感情がひしひしと伝わってくる。

 レンは冷や汗をかきながら話題を絞り出そうとする。


「り、リコさん!」


「は、はい!?」


「明後日の祭り……誰かと行く予定はある……?」


 リコは嬉しそうな表情を浮かべて首を横に振る。


「いえ、今は誰からもお誘いはありません」


「も、もしよかったら……オレと一緒に……なんて……アハハ……!」


「はい……。是非ご一緒させてください」


「そうだよね!ぜひご一緒……に……?え?」


 レンはリコの返事に目を真ん丸にして固まる。

 リコは嬉しそうな表情を浮かべていた。

 そして、サクラはいつの間にかいなくなっており、レンはリコの顔を見つめる。


「では、楽しみにしてますね。では」


「う、うん!また……」


 リコの姿が見えなくなってもレンは廊下を見つめていた。

 祭りで一緒に行動する約束を取り付けたのが今でも信じられないといった様子だった。


「やるじゃないか」


「うわっ!?……オクトさんだったかぁ。いつからそこに!?」


「最初から聞いていたぞ?な、めえさん?」


「そうだな。お前はオスとしてしっかりリードしているようで私も安心だ」


 すべてのやり取りを聞かれていたということにレンは恥ずかしくなり、手で顔を覆う。


「んじゃ、めえさん。レンを連れて行くから、サムさんにもよろしく伝えててくれ」


「わかっている。レン。しっかりと作り上げて、成功させるのだぞ?」


「は、はい……!」


 オクトは保健室の奥の扉にカギを差し込み回す。

 扉開けると工房につながっていた。

 なぜ保健室と工房がつながっているのか不思議に思っていると、オクトはカギをちらつかせて説明する。


「これは【縮地】の魔道具だ。本来はお前が使ったような戦闘用の魔法だけど、これは移動用に特化したやつなんだ。また今度説明するよ。早く通ってくれ」


 【縮地】の応用を目の当たりにし、驚く間もなく工房へと向かうレン。

 扉をくぐる前にメリルに一礼する。


「行ってきます!」


「うむ。頑張ってくるのだよ」


 レンは手を振って、扉をくぐっていった。

 オクトもメリルに向き、手をひらひらと振る。

 

「じゃ、かえるわ」


「早く帰れ」


「ひどいわぁ……」


 辛辣な対応に涙をぬぐう演技をすると、尻を蹴り飛ばされて扉が勢いよく閉められた。

 レンとは明らかに違う対応を目の当たりにして、レンはメリルには反抗してはならないのだと悟ってしまうのだった。


 作業台につくと、最後の工程で止まっている魔道具になるものが置いてあった。

 レンは空中に紋章を描き、火の紋章と【圧縮】の紋章をそれぞれ描いていく。

 その二つを重ね、レンは詠唱を始めようとするとオクトの制止が入る。


「お前、今【連鎖】で対応しようとしただろう?」


「はい……」


「昨日のことを思い出して、魔力を頭に集めてみな?」


「わ、わかりました……!」


 レンはオクトの言う通りにする。

 全身の魔力を昂らせて意識を集中するのだった。

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