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脾臓の品

 二人は工房に戻り、魔道具作りを再開する。


「魔力……殆ど残ってない……!?」


「そうだな。戦闘と準備で魔力を使ったからな」


「今日、出来なくないですか?」


「ふっふっふっ」


「……?」


 不敵に笑うオクトにレンは怪訝そうな顔をする。

 オクトは工房の棚から手のひらサイズの青い宝石のような石を取り出し、机の上に置く。


「これは……?」


「魔障石」


「ましょうせき?」


「ヒトや魔物の体内に存在する特別な器官だ。この中には魔法の元――魔力が大量に保有してある。この中から魔力を取り出すといい」


「使って……良いものなんですか?」


「もちろん。魔力を取り出すように魔道具に改造しているからね。使ってあげてよ」


 オクトの勧めもあり、レンはそれを手に取ろうと近付けると、何とも言えない雰囲気を感じ取り、手を引く。


「生きてる……!?」


「そう。ヒトは死んだらこの石が残る。そして、そのヒトが持っていた魔法と魔力を生み出す能力が石に宿る。こうなると破壊は困難で魔力を限界まで吸い上げるか、王族レベルの元素魔法でしか壊せない。解放するためにも使ってあげてほしい」


「出来ないです……!時間かかってもいい……です。コレはオレには使えません……っ!」


「そっか。……レンならそういうと思ったよ。ただし、コレが黒く染まったヤツを見かけたら絶対に近づくな。コイツから発せられる魔力に当てられたやつは皆死んでるからな。気をつけろ」


「わ、わかりました……!……今日はありがとうございました……!」


「うん。しっかり休んでまたおいで。サムさんに連絡しておくから明日は朝から作業開始だ」


「はいっ!」


 レンはオクトに一礼し、工房のドアノブに手を掛ける。

 首を傾げて少し考えると、再びオクトの方へと向く。


「どうやって学園に帰るんですか?」


「あ、悪い悪い!こっちの扉から出てくれるかい?明日はめえさんの保健室に集合な」


 オクトは大扉の脇にある扉を開くと学園の展望台へと繋がっていた。

 レン自身初めてくる場所だったが、教室や寮の自室から見える風景と同じで安心感を感じていた。


「どこでもドアみたいで面白いだろ?」


「どこでもドア……?」


「悪い、オイラとにゃんさんしか分からないネタだったな。忘れてくれ。さ、早く帰って休むんだな」


「はい!今日はありがとうございました!」


 扉が閉まり、展望台の出口を探すも、工房から出た出口しかなかった。

 恐る恐る開けると、そこは工房ではなく展望台から降りるための階段室だった。


「これも何かの魔法なのかな……?」


 レンは展望台を後にし、階段を駆け降りるとレンの教室棟だった。

 そのまま自室に戻り、夕ご飯を食べずに眠りについたのだった。


§


 時間は少し巻き戻り、魔工部の部室ではリコとサクラは魔道具を製作していた。

 魔道具と言いつつ、効果が不明な【幸運のおまじない】というものを込めていた。

 実質、魔道具ではなくアクセサリーに近いものだった。


「リコちゃん。あんまり自由に動く飾りはつけない方が良いかも」


「それはなぜですか?」


「猫族ってね、動くものに敏感で、ついつい目を向けてしまう習性があるの。だからレンくんも気になるんじゃないかな?って」


「そうなのですね……。わかりました」


 リコはサクラの話を聴き、羽飾りを模した金属のパーツを取り外す。

 リコは野狐族隔離の影響で他種族の習性を知らない。

 サクラに指摘されながらも挫けずに修正を重ねて作っていく。

 サクラはリコの集中力を目の当たりにし、驚く。

 通常なら徐々に集中するものだが、リコは一瞬で自分の世界に入り込んでいく。

 修正をサクサクとしていき、完成させた。


「ふう……あとは魔法を込めるだけ……ですね」


「リコちゃんは昔から魔道具作るの好きだったの?」


「いえ……。レン君に出会うまでは魔道具にすら興味がなかったので……」


 リコの技術は既に販売できるレベルには達していた。

 飲み込みが早いのか、隠れた才能なのかは不明だが、興味出たのが最近ということにサクラは驚く。

 作った魔道具の器を両手で持ち、表情を殆ど変えないリコの顔が少し和らいでいく。


「魔法の使えない私にレン君が魔法を教えてくれたのがきっかけなのです……」


「レンくんの魔道具を使って魔法を放った、って事ね。その時にはレンくんはもう魔道具を作っていたのね……」


「違いますよ?レン君が魔道具を作り始めたのは私が入部してからです。あの時、咄嗟に作ってくれたのがたまたま魔道具になったとレン君は言ってました」


 リコは持ち手しか残っていない魔道具の棒を大事そうにポケットから取り出す。

 残骸の為魔法を放つことは出来ない上、他の材料にもすることが出来ない代物だが、リコにとって宝物同然だった。


「ホントにレンくんのこと、スキなのね」


「で……でしょうか?」


「普通は壊れて使えなくなった魔道具は持ち歩かないわよ。まあ、レンくんの作ってくれた魔道具が詠唱が必要でも最低限の威力は保証されているから使いやすいのよね……。複合魔法まで作ってたし」


 サクラが話すレンの話を嬉しそうに聴くリコ。

 どうやらレンが褒められることが自分のことのように嬉しかったらしい。

 サクラはそんなリコを見て「仕方がない」といった表情でため息を吐くと一日が終了する鐘が鳴り響く。


「結局、来なかったか……。あんの意気地なし……!」


 サクラの中で密かにレンの評価が落ちてしまったのであった。

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