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父親が「そう」なら子もまた「そう」

「なんじゃ……こりゃ……!?」


 レンの出した魔法は全てで九つ。

 同じ風属性の弾丸を打ち出すものだが、全て威力が違い、二十連鎖目の魔法に於いてはリコの魔法に匹敵する紋章の大きさだった。

 ――あり得ない……!【連鎖】はループさせつつ、威力を上げる魔法のはず……。それを無視して『一度に連鎖を終えさせる』のか……!?だとしたら、この子は……。

 オクトの考察が終わる前に攻撃が開始される。

 相変わらず分厚い魔力の壁を傷つける事が出来ないが、それも十八連鎖目までの話。

 十九連鎖目。

 魔力の壁が半分消え去る。

 それは展開した魔力を半分消費したということである。

 そして二十連鎖目の魔法が打ち出される。

 それは弾丸という可愛い物ではなく、砲弾だった。

 着弾と同時に板間がバキバキとへし折られ、砂埃が吹き上がる。

 レンは肩で息をしながらオクトのいる場所を睨みつける。


「『風よ、我の視界を妨げるものを振り払え』」


 砂埃の中からオクトの声が響き渡り、一瞬にして視界が良好になる。

 涼しい顔でオクトは一歩また一歩とレンの元に足を進める。

 十九連鎖目の魔法は魔力の壁を半分削った。

 二十連鎖目の魔法はそれ以上の威力かつ速度を誇るため、回避も不可能なはずだった。

 オクトの周囲を見渡すと板だけでなく、瓦礫が転がっていた。

 この部屋には無いものだった。


「まさか……土の魔法で……!?」


「その通り。いやいや……サムさんもめえさんもキチンと先生してるんだな……」


 風の魔法は土の魔法との相性が悪く、土の壁を展開する事で威力を大きく殺される。

 そして、オクトが放った魔法は土の魔法の上級版【岩石】の魔法で作った岩の壁を展開してレンの魔法をやり過ごしたという事が分かる。

 ――相手は魔道具の天才……。上級魔法を魔道具に入れることなんて当たり前だった……!打つ手は……もう……。


「さて、オイラの勝ちが決定した……かな?」


「……」


 レンは思考を巡らせて戦いを続けようとするが、魔力が殆ど残っていない事と手持ちの魔道具が壊れて使えない状況に絶望する。

 オクトはそんなレンを見て天井に向けて手を挙げ、詠唱を始める。

 ――キミはもう魔法を持っている。それが分かっただけで大収穫だが……。体裁は守らないとな……。ウソとはいえ。


「『大地の化身よ……』」


 レンはオクトがトドメの詠唱を始めたのを確認すると、床を殴りつける。

 ――どうして……どうしていつもこうなんだ……!詰めが……。

 レンが悔しさで涙を床に落とした瞬間、目の前に狼の獣人がレンに石を手渡す。


『詰めが甘いのはオレと同じだな……。一度だけお前に力を貸す。詠唱中は無防備だ。あとは……分かるな?』


「と……」


 レンが顔を上げた瞬間、狼の獣人は消え去った。

 レンの瞳に再び闘志の火が宿り、立ち上がる。

 ――まだ、出来るのか……!?それ以上……無理はしないでいいと思うんだが……。

 レンは石を胸に当てて目を閉じる。

 レンの熱意に困惑するオクトだが、レンの目的が分からない以上、詠唱を続けることにした。


「『我が敵を閉じ込めるろ――』」


「『我と敵の距離を縮めよ』」


 レンの姿が一瞬で消えたかと思った瞬間、首元に杖の先端が添えられていることにオクトは気がつく。

 詠唱を止め、魔力を収束させて気を落ち着かせる。


「負けだ……!まさか【縮地】をここで使ってくるなんてな……。詠唱中の魔力纏いが無くなる事……よく気がついたな……?」


「……たぶん、父さんが教えてくれたんだと思います……。茶色の狼の獣人が……」


「それは【霊魂】の魔法だな。確かヴォルフ様だけ使える魔法だったはず……。ということは狼族に伝わる特殊な魔法なんだろうな。レン、おそらくだがお前に見えていたヒトは父親で間違いないだろう。その証拠が壊れた魔道具だ」


 レンはハッとして、魔道具を見ると粉々に砕け散っていた。

 父親との唯一のつながりといえるものが壊れてしまい、急いでかき集めるが、みるみる劣化し、塵となって消えていく。

 

「な……なんで……!?消えたら嫌だよっ……!せっかく父さんが遺してくれたものなのに……。どうして……!?」


「おそらくだが、役目を終えたこと【連鎖】の負荷に耐えられなかったんだろう。……きっと父親は前を向いて進めって言っているんじゃないか?会ったことはないが、同じ職人として子供にそう言ってしまいそうだと思ってね」


 オクトのその言葉にレンはうつむくものの、未来を見据え、リコの姿を思い出し、魔道具作りに火をつけたのだった。


「そういえば……」


「どうした?」


「リコさんを養子にするって……」


「あれは嘘だ」


「え」


 突然のネタ晴らしにレンは茫然となる。


「お前の魔法の制約が【リコのために使う】と【リコが使う】という条件っぽかったから、試していたんだよ。……本気でやらないとお前に嘘だとばれてしまうからな」


「な、なんで……!?オレの魔法、わかるんですか!?教えてくださいっ!」


「わかったわかった!ちょっと落ち着けって!」


 ズイズイと距離を詰めて鼻と鼻が触れ合いそうなほどの距離に迫るレンを押し離し、咳払いをする。


「お前の魔法は【連鎖】が少し変質したものだ」


 レンは首を何度も縦に振り、目を輝かせて話を食い入るように聴く。


「【連鎖】は一度使った魔法を再利用しながら威力を大きくして同じ種類の魔法を放つのはもうわかるだろう?」


「はい!」


「お前の魔法は発動前から……要は紋章の段階から連鎖を始めることができる。それは一度に複数の連鎖を準備することができるんだ。今回お前が放ったものは十一から二十連鎖目までを同時に出した。これ、どういうことかわかるか?」


 レンはオクトから告げられた魔法の説明を聞き、真っ先に思い出す。


「魔道具の課題だった高威力の手順をオレの魔法ならできるってことですねっ!!」


「そっちかい」


 オクトの答えとは違ったが、レンの言うことも尤もだったため、良しとした。

 自身に魔法が備わっていたことに喜ぶレンをやれやれといった表情で眺めるのだった。

 ――まあ、【リコのために】が条件だから、自由には使えないけどな……。

 二人は再び工房に戻るのだった。

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