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意識改革

 オクトは廊下の先にある部屋に向かって歩いていた。

 ――あの子は本当に難しい制約を背負ってここまで生きてきたのか……。

 オクトがなぜそう感じたのかというと、レンが「リコのために」と呟き、魔力を込めた際に起きた僅かな『揺らぎ』を感じ取っていた。

 それは、レンが生まれ持ったであろう魔法の存在を微かに感じ取っていると同義である。

 リコが鍵であるという事に確信を持った瞬間だ。

 その後に失敗しないようにする為慎重になった瞬間、『揺らぎ』は消え去る。

 それは自分のために魔法を使う事を意味していた。

 ――レンの魔法の制約は【リコに使う事】と【リコが使う事】で本来の力を発揮する。ということは魔法の種別さえ分かれば悩みは解決だ。オイラにできることは【リコに使う】というマインドを植え付けるという事……だな。

 そんな制約を背負っているレンにどのような訓練を積ませるのか。

 答えは簡単だった。

 戦闘訓練で身につけさせるのが一番の近道である。

 オクトは部屋の扉を開けると広い板間の空間があった。


「ここは……?」


「うちの稽古場。今からお前はオイラと戦ってもらう。魔法は自由に使って構わない」


「お、オクトさんと!?オレ……勝てっこないですよ……!」


「なら、リコちゃんはうちで養子として迎え入れる。あの子も魔法技術士志望だってめえさんから聞いてるからな。他の種族に迫害されるくらいなら、オイラの管理下に置いた方がマシだろう」


 レンはその発言を聞き入れられなかった。

 管理下に置くということはリコと離れ離れになるという事。

 いつもみたいに冗談を言っているように思えたが、オクトの表情は真剣そのものだった。


「本気……なんですか……?」


「あぁ。お前がオイラから勝ち取らなければリコちゃんは王族であるオクトとセブの管理下に置かれ、これまで通り他種族との交流を避けてもらう。まあ、これは女王様も同意見だから何も問題はないな」


 リコなら「わかりました」と直ぐに返答しそうな真っ当なものだった。

 レンは耳を畳み、オクトを睨みつける。


「リコさんは……。リコさんはもっと自由に生きていいんだ……!いくら野狐族でも、【洗脳】の影響があったとしても、リコさんはリコさんだ!管理するなんて言わないでくださいっ!」


「なら、お前が管理するとでも……?」


「管理とかそんなのじゃないっ!一緒に居たいだけだっ!」


「……それじゃあ、力で証明してみな?オイラに勝てるレベルだという事を証明して見せろ。出来なきゃ不敬罪で極刑とする」


 オクトがそう告げると瞳の色が金色に変わり、頬に紅い模様が浮かび上がる。

 そして金折形の金属塊を取り出し、先端をレンに向ける。

 見たことのない形だがレンは直感的に魔道具だという事を認識する。


「見た事ないだろう?これはハンドガンというものだ。地上の世界ではこう言った武具が存在する。それを模して魔道具に変えたものだ」


「……やってやるさ!リコさんのために……いや……リコさんとずっと一緒に……いるためにっ!」


 レンは魔力を解放させるとヴォルフと対峙した時のような魔力の嵐を巻き起こした。

 ――やっぱり……!自分のために使えない魔法がここまでとは……!

 オクトは予想が確信に変わり、腰袋から親指サイズで透明度の高い石を六つ取り出し、ハンドガンと呼ばれた魔道具に装填していく。


「さあ、その魔力……見掛け倒しじゃないといいな」


 雷鳴。

 炸裂音にも似た音がオクトのハンドガンから発せられた瞬間、レンの太ももに衝撃が走った。


「――っ!?」


 レンは魔力纏いで防いでいたはずだったが、薄衣のようにあっけなく貫通し、レンにダメージを与える。

 傷らしい傷は無いものの、痛みという分かりやすいダメージは怯むには十分だった。

 ――見えなかった……!今まで戦った中でヴォルフ様と同じくらい速かった……。でも、あの魔道具の射線上に立たなければいい……!

 レンは再び魔力を活性化させ、杖を取り出す。

 中身は風の魔法。

 レンの魔力を簡単に貫通できるということは、レンよりも遥かに魔力量が多いと分析できるが、今回のレンは違った。


「『唸りを上げる烈風よ!五月雨の如く大気の矢を敵に穿てっ!』」


 小さな空気の弾丸をオクトに撃ち込む。

 当然レンの魔力では分厚いオクトの魔力の壁を突破できず、空中で霧散していく。


「『我が魔法を繰り返し、大きな力を生み出せ!』」


 レンの眼には消えた紋章が復活し、先ほどよりも大きな魔法になって空気の弾丸を撃ち込む。

 何度弾かれても【連鎖】の魔法は風の魔法をより大きく、強く成長させてオクトに撃ち込む。

 すると、オクトの足がその場で止まる。

 発動させて十連鎖目の魔法は特級クラスに匹敵する威力となっていた。

 ――へぇ。こりゃデタラメな威力を証明する【凄い魔法】だ。

 オクトが歩みを止めたのは魔法を分析するためだった。

 オクトの分厚い魔力の壁を削る事が出来ない威力であり、レンは焦りの表情を浮かべる。

 何かしらリアクションが欲しかったが、残念ながら涼しい顔をされてしまった。

 十一連鎖目を撃つ瞬間、轟音が四回鳴り響き、レンの両太ももと両肩を撃ち抜かれた。

 痛みのあまり薄れゆく意識の中、リコの顔を思い浮かべる。

 ――リコさん……。誰にも……君を獲られたくない……!オレは……リコさんのために魔道具を作って、これからも君のそばにいる為に戦うんだ……!

 レンは拳を握り締め、今持てる全ての力を振り絞り、十一連鎖目の魔法をオクトに向けて放つ。

 するとレンやオクとの予想を超え、十二連鎖、十三連鎖――なんと二十連鎖目までの紋章がオクトを取り囲んでいたのだった。

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