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後付けの紋章

 サムはレンとサクラの元に駆け寄り、身体の状態を確認する。

 レンは殴られてはおらず、負傷もしていない。

 そして、サクラは衝撃波に巻き込まれたものの怪我はなく、魔力消費が大きかったのか後遺症に悩まされていた。


「お前たち、アレをほぼ無傷で乗り切ったのは凄かったぞ!いつのまにサクラは実体分身を身につけたんだ!?」


 サクラは震える手で杖を持ち上げる。

 それはレンの作った【水】の魔道具であり、魔道具専門外のサムにはよく分からなかった。


「この中に入っているのが【水】と【幻惑】の魔法なんです。ただでさえ一つの魔道具に二つの魔法を入れ込むのは異常なのだけど、レンくんは擬似的に複合魔法に変えてたんです……。【水分身】の魔法に……」


「おいおい……魔道具って後付けできなかっただろう?最初から複合魔法を組んでたのか?レン」


「いえ……ハウルと戦うと決まった時に、即席で作ったんです。一度だけでもいいからサクラさんの【幻惑】を補助的に使えるようにしておこうと無理やり突っ込んだらこんなことに……」


 ――こりゃあ、いよいよオクト一強の立場が崩れるんじゃねぇか?複合魔法を組み込めるようになると……。

 サムはオクトにできなかった複合魔法の封入を一度切りとはいえ、成功したレンの実力を評価する。

 サムはレンを見てこの学園のシステムでは測れないものがあるのではないかと考え始める。


「先生!」


「おっ、すまんすまん。授業中だったな。レンとサクラには申し訳ない。お前たちがまだ一本も取られていないにも関わらず、俺が試合を中断させてしまった。すまんっ!」


 サムは深々と頭を下げるとサクラが慌てて辞めさせようとする。


「せ、先生!頭を下げないでください!アタシ、もう魔力が無いから今日は魔法使えないんで……!」


「ほ、本当か……!?」


 サクラは自信満々に頷く。

 サムはサクラが気を遣っているのではないかと疑い、魔力探知でサクラの様子を見る。

 申告通り、サクラの魔力の残量が少ないという反応を感じ取る。

 魔力の回復手段は幾つかあるものの、一番よく効くのが睡眠である。

 魔力を回復させる薬はあるが、命の前借りのようなものであり、反動の苦しさで使われることがほとんどない。

 教師としては決して推奨できないものだった。

 そして、ハウルの件もあることでサクラの意見を尊重することにした。

 ハウルの方へ顔を向けると、座り込んで呆然としていた。


「ハウル。今日から一週間は停学だ。理由は言わなくてもわかるよな?今回の件は学園長の耳にも届くから、お前の親父さんにも伝わるはずだ。少し、頭を冷やせ。……くろんぼ、彼を自宅まで届けてやってくれ」


 サムは何もないところに声をかけると、黒装束を纏った小柄な男の姿が一瞬で現れる。

 男はハウルの肩に手を触れた瞬間、爆煙と共に姿を消した。

 レンは不思議そうにサムに訊ねる。


「先生、今のヒトは?」


「調査隊の斥候をやっている黒豹族の『くろんぼ』だ」


「本名じゃ、ないですよね?」


「そりゃ、そうだ。アイツは闇討ちが得意だが、近接戦闘だけなら騎士団長と同じレベルに強いぞ」


 レンは『くろんぼ』と呼ばれた黒豹族の男が騎士団長と同等の強さを誇ると聴き、目を輝かせる。

 ――やっぱり調査隊のメンバーはみんな揃って強いんだ……!でも、オレ……そんなヒトになれるのかなぁ……。ハウルを巻けたけども、太刀打ちできなかったし……。

 今回の結果を受けてレンは強くなれていないように感じ、尻尾を巻いて考え込む。

 そんな様子を見たサムはレンの頭をガシガシと撫で回す。


「単純な戦闘能力ではハウルに負けてしまったかもしれないが、お前は十分に成長を見せてくれている。合格だ。」


 その言葉に嬉しそうにレンは顔をあげてサムを見る。

 褒められて嬉しそうな表情をサムに向けて、年相応の反応にサムも思わずニヤけてしまう。


「当然じゃないか。この年で生得魔法以外の複合魔法を扱えるようになるなんて、まず聞いたことがない。それに扱うことの難しい紋章魔法で再現しているんだ。自信を持って訓練に励め」


「は、はいっ!」


 レンとサクラは次の訓練者と交代し、グラウンドの端に並んで座る。

 すると、ハウルのパートナーだった女子生徒が二人のところへ向かってくる。

 二人が立ち上がると、女子は深々と頭を下げた。


「わたしのパートナーが酷いことを言ってごめんなさい」


「いやいやっ!全然大丈夫だよ!いつもの事だし、気にしてないよ?……それにキミが謝る事じゃないと思う」


「いえ、パートナーの失態は私の失態でもあります。まあ、私の見る目が無いと言われればそうなんですが……。それでも、あの発言に関しては私も腹が立ちましたので……」


「ねえ、本当にパートナー解約してよかったの?確か、反動があったはずだよね?」


 サクラの問いに女子は首を横に振る。


「いえ……。実は解約の魔法知らないんだよね……!あはは……!あれはそれっぽく言ってみて、ガッカリさせてみたの」


「……!」


「……さ、さすがハウルのパートナー……!」


 ハウルのパートナーは強かな女性であり、レンはハウルがこの女子によって尻に敷かれる未来を想像して苦笑いを浮かべる。

 それと同時に、レンはハウルに対してリベンジの機会がまだある事に安堵し、拳を強く握りしめたのだった。

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