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パートナー

 明日、精霊探しが始まるとしても授業を受けなければならない。

 レンは教室に入ると、いつものようにサムが授業の準備をしていた。


「先生おはようございます!」


「おう、おはよう。レン、明日から精霊探しだってな?」


「はい!……メリル先生から聞きました?」


「ああ。そうだな……調査隊の先輩として助言できるのは、リコとパートナーになるってのはどうだ?」


「り、リコさんと!?」


 レンはリコとパートナーになるというサムの提案に気恥ずかしさから慌てて否定しようとするが、サムは至って真面目な表情をしており、逆に否定する方が恥ずかしい事に気がつく。


「そうだ。パートナーになるというのは別に恋人関係になるわけではない。まあ、お互いの魔法、身体能力を隅々まで知ってしまうから結果的には恋人関係になっている者が多い。パートナー契約を結ぶと不思議な現象が起きるんだ」


「不思議な現象……ですか?」


「ああ。代表的なもので言えば、魔法の変質だ」


 レンは魔法の変質というの事象を知らず、首を傾げる。

 特別、秘匿されている事項ではないが、自身が魔法を持っていないこともあり、完全にノーマークだった。


「昔、魔法無しと言われていた奴ですら、パートナー契約を結んで相手の魔法が変質した事で実は魔法持ちだったと判明した事例も多々ある。お前に取っては夢の様な話だが、あまり期待はするな。それに、俺も変質したんだよな」


「先生の魔法って何ですかっ!?」


 レンはサムの変質した魔法に食いつくようにサムに顔を寄せる。

 サムは両手で「ドウドウ」と言いながら、レンを落ち着かせて離れさせる。


「俺の元々の魔法は【剛力】。道具や武器には付与できず、身体にのみ付与することができる魔法。何も変哲もない強化魔法だよ。そこにめり……じゃなくて、めえ先生の【吸精】という魔法で変質させられて【吸剛打】になったんだ。これは簡単に言えば、殴れば回復する魔法だな」


「す……すごい……!いつか、オレも魔法が分かるのかなぁ……」


「だから、パートナー契約を結んでみたら良いじゃないか?二人とも仲が悪い訳じゃないだろう?……あ、もしかしてサクラの方が好みだったか?」


「……えっ!?そ、そんな……。サクラさんのことは嫌いじゃないけど……」


 レンはモジモジとする。

 サクラのことは嫌いではない。

 恐らくサクラならば、喜んでパートナー契約を結んでくれる。

 おまけに一緒に戦い、彼女の魔法も知っている。

 しかしレンは昨日、部室でリコに告白のような事をしていた。

 リコはレンの本当の気持ちに気がついているかは不明だが、レンはしっかりと伝えた。

 レンは迷っていると、背中を思いきっり叩かれ、肺の空気が全て追い出される。

 熊族の腕力は加減していても強い。

 咳込みながらそう考えていると、レンの胸にサムの拳が触れる。


「もし、愛を伝えた者がいるなら、番になっても手離すな。俺は詳しい事情は知らんが、お前の魔法の手がかりはリコなんだろう?俺だったらリコをパートナーにするぞ?少なくともお前の力だけじゃなく、リコの魔法を底上げしてくれるかもしれないという希望が残されているんならな!」


「か、考えておきます……!」


 ガラガラという音を立てて教室の扉が開かれる。

 入ってきたのはメリルだった。

 目にクマを作り明らかに寝不足だと分かるやつれた表情をしていた。


「レン、すまない」


「せ、先生……?大丈夫ですか?」


「私は大丈夫。それより、精霊探しだが一週間延期だ。現在、北のエリアには調査隊が誰もいない状態でな……。来週なら北のエリアに調査隊が調査をしているから許可を出せる。すまないが、それまでは授業と部活に充ててくれ。……サム、私は女王様に休みをもらった。今日はうちに帰るよ。それじゃあね」


「おう、しっかり休んでくれ」


 メリルが退出すると、サムは困った顔をしてレンを見る。

 不思議そうに首を傾げるレンの頭をクシャクシャと雑に撫でる。


「一週間、みっちりと鍛えられるな!しっかりと授業を受けるように!」


「はぁい……」


 レンはすぐには精霊探しができない事に落胆したが、それだけ入念に準備や訓練ができるという事で気持ちを切り替えて授業に臨むのだった。


 中等級クラスは屋外競技場に集まっていた。

 既にグラウンドは修理されており、オクトの仕事の速さに驚く。

 少し岩のレイアウトなどは変わっていたがほとんど元通りだ。


「さて、今日の戦闘訓練だが、異性とペアを組んで戦ってもらう!」


 男女半分半分ではないため自然と男性陣が余る事になる。


「えぇ……ペア組めなかったらどうすんだよ……」


「人数考えてくれよ」


「男同士の方が気が楽なのに……」


 男性陣の中から不満の声が上がるのを確認したサムは腕を組んで口を開く。


「軍に入ったら男女なんて関係ないぞ?それに、女子には申し訳ないが、男子が戦い終えるまで何度か戦ってもらう。これならペアを組めない、なんて事は無いだろ?」


 男子たちは必ず女子とペアを組むことができると聞き、ホッと胸を撫で下ろした。

 その中で一人の女子が手を挙げる。

 サムは女子に頷くと、緊張した表情で口を開く。


「あの……その……。わたし、パートナーがいるんですが、それでも大丈夫ですか?」


「おっ!そりゃ大変だ。クラスメイトにいるならパートナーと組んだ方がいいし、いないなら契約の反動を考えたら女子同士で組むのも許すぞ!」


「わ、わかりました!」


 女子は安心したのか、目を輝かせて男子の輪にいる一人の手を取る。

 ハウルだった。


「よかったよ、ハウルくん以外のヒトと組まされるかと思っちゃった」


「当たり前だろ?もし、他のやつと組ませようとしたら親父に頼んで教師の職を降ろしてやるところだったんだけどな!アハハっ!」


 冗談に聞こえない発言に周りの空気が冷え込むが、ハウルは気にしない。

 ――いつのまにパートナー契約を……。今度戦う時は気をつけないと……!

 レンはハウルがパートナー契約を結んでいる事に対し、多少驚くものの、次に戦うときのことを想定していた。

 変質した魔法は未知であるため、前のようにはいかないからだ。

 ハウルの対策を考えていると、レンの背中を虫のようなものが首から尻尾にかけて通り過ぎ、思わず飛び上がる。

 犯人はサクラであり、イタズラっぽい笑みを浮かべていた。


「レンくん。アタシとペア組んでちょうだい?」


「サクラさん!オレで良いの?」


「だってアタシの魔法をわかってるヒトはレンくんだけだもの。一から分かってもらうよりも早いし、レンくんの魔道具が使いやすいからね」


 サクラは拳を突き出すと、レンはサクラの意図を汲み取り、拳を突き合わせた。

 魔法競技祭と同じペアが組まれ、クラスメイトたちは勝ち目が無いとガッカリする一方で、レンとサクラがパートナーではないかと噂が立つのであった。

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