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知らないヒト、知ってるヒト、忘れてたヒト

 翌日、レンの補習は無事に合格した。

 昨日の件があり即日、学園長令が出されていたのだ。


『魔法無き者は紋章魔法、或いはそれに相当する技術を定期考査にて証明せよ』


 という事でレンは結局自分の魔法がどういったものか、本当に存在するのか分からず仕舞いだった。

 レンはため息を吐きながら部室の前に辿り着く。

 ――リコさんと顔……合わせられるかな……。

 正直なところ、レンは昨日のリコを怒鳴った事を後悔していた。

 逃げたい気持ちを抑え込み、ドアノブに手をかけようとした瞬間、扉が開かれる。


「わ……!?」


「早く入りなさいよ!」


 レンはサクラに首根っこを掴まれて無理やり部室に入れられる。

 既にリコとメリルは来ており、レンの存在に気付いたリコは部活動に来たレンを嬉しく思うが、少しばかり不安な表情を浮かべていた。

 そんな様子を見たメリルは立ち上がり、サクラにレンを離すようにアイコンタクトをする。

 そのままメリルはレンの前に立ち、しゃがみ込んでレンと目線を合わせる。


「お前は気が進まないかもしれないが、リコがお前に言いたい事があるそうだ。聞いてもらっても良いかな?」


「は、はい……」


 レンはリコの前に立ち、顔を見上げてリコの目を見る。

 リコの目は不安を映し出しており、思わず目線を逸らす。


「あ……」


「あ、ごめんっ……!コレ……猫族のクセで、目を逸らすのは敵意がないって事で……その……」


「リコ。レンの言っていることは本当だ。……種族の癖は、それこそレンとのコミュニケーションを通じて知ってもらえると一番良いだろう」


 ――可哀想……といえばそうなのだが……。種族を隔離されている身からすれば他種族の仕草なんて分かるわけもないか……。

 メリルは野狐族の隔離策を思い出し、リコの境遇に同情する。

 リコの両肩を軽く揉み、レンの元へ送り出す。


「あ……あの……」


「ごめんっ!昨日はあんなに怒鳴ったりして……。わかってたはずなのに、リコさんが当事者だった事をオレは何も考えてなかった。昨日も謝ったけど、気持ちを整理してもう一度謝りたかったんだ……。また、一緒に魔道具のこと考えてくれるかな……?」


 ――やはり、昨日のうちに事が済んでいたのか。どおりで二人とも昨日とはまた違う表情をしている訳か……。

 メリルは二人が既に謝罪していることを再認識している中、リコは言葉を紡ぎ出せずにいた。

 そんなリコの様子にメリルは少しいたずら心を込めてリコの脇腹を突く。

 やはり、くすぐったかったのか身を大きく捩らせるといった反応が返ってくる。


「リコ、こういうことは早く言ったほうが楽になるのだよ。だから、レンは真っ先に謝ったんだ。言いたいことは言えるうちに……だぞ?」


 メリルにそう促されると、リコは覚悟を決めたようにレンを見つめる。

 緊張と不安でいっぱいな瞳は、どこか助けを求めているようにも感じ取れる。


「あ、あの……昨日は本当にごめんなさい……。私、レン君の嫌がることばかり言って……その……。私には……レン君がいないと魔法も魔道具も……対人関係も全然ダメです。そんな私でよかったら……い……一緒に……いてください……!」


 リコは頭を下げて左手を差し出した。

 レンは不器用ながらも伝えようとしたリコの気持ちを無駄にしないように、手を取ろうとした瞬間。


「ちょ、ちょっと待った!!」


「え?」


「?」


「ほう?」


 レンとリコはサクラから「待った」の声が掛かり、不思議そうに首を傾げる。

 呼び止めたサクラは悔しそうな顔をし、両手を握りしめていた。

 それを面白そうにメリルは見ていた。


「リコさん!アンタはどさくさに紛れてパートナー契約結ぼうとしているでしょ!そうはさせないんだから!」


「パートナー……契約……?ですか?それは一体……」


「しらばっくれるんじゃないわよ!頭を下げて左手を差し出すのは、こ……こ、こ、こ、恋人関係になるって事ぐらい知っているでしょ!?」


「知りませんでした……。れ、レン君……私、また間違えました……」


「いや……お、オレも忘れてたよ……」


 レンは自身がメリルにやってしまった事を思い出し、苦笑いを浮かべる。

 その一方でリコからせっかくチャンスをくれた事に気がつけなかった自分に少し後悔する。

 リコは再び迷惑をかけてしまったのかと今度は両耳と尻尾を完全に垂れさせて悄気てしまう。

 サクラはリコが何も考えずにパートナー契約の手順を踏んでしまっていたという事に危機感を覚えつつ、未遂で終わらせられた事に安堵感を得ていた。

 三者三様の感情が渦巻く部室を楽しんでいたのはメリルだった。

 ――青春……というのだろうな。それにしてもリコは兎も角、サクラまでもレンに好意を抱くとは……。やはり、魔法競技祭で距離が近づいたというのが大きかったのだろうか?

 メリルは三人の恋愛事情を分析し、楽しそうに三人を眺めるのであった。

 そして、本来の目的であるレンの魔道具の事について触れる事にした。


「さて、レン。仲直りは果たせたとして、本題に入ろう。お前の故郷で回収した魔道具を分析しよう」


 メリルの言葉にレンは急いで『それ』を取り出す。

 あの日に回収した時から変わらない輝きを放ち、その場にいる全員を虜にする。


「綺麗……!」


「キラキラ……ですね……」


「魔道具にしては珍しい鉱石系だな」


「石の魔道具って珍しいんですか?」


「珍しいも何も、加工が難しいと聞くぞ」


「やっぱり父さんは魔道具作りが上手だったんだ」


 ――上手の一言で括って良い技術ではないぞ……。下手すると、コレが試作品でなく完成品として出来上がっていれば、オクトを超えてしまう技術力のはず……。レンの父親は一体……何者だ……?

 メリルは益々レンの父親の正体が知りたくなるが、オクト以上の技術を持つヒトの存在を知らず、知識欲が駆り立てられるのであった。

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