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レンの故郷

 【太陽】の輝きが失われ始め、レプレはワイバーンを降下させる。

 集落跡地となっている場所にはどす黒く朽ち果てた建物しかなく、隠れ家に最適な場所は見当たらなかった。

 レンは辺りを見渡して、突然走り出す。


「あ、ちょっと!勝手に行ったら危ないって!」


 三人はレンを追いかけると、レンは突然立ち止まり、尻尾を垂れ下げる。

 レプレはレンの肩を掴み、叱ろうとするが、顔を見た瞬間に言葉が出なくなった。

 レンは涙を流して目の前に広がる光景を茫然と眺めていた。


「やっぱり、ここが故郷?」


「はい……。ここがオレの……生まれた場所です……」


 やはり、レンの故郷は滅んでいた。

 土地や家屋はどす黒く変わり果て、到底ヒトが住んでいたとは言えないような荒れ果てた場所だった。

 十年放置したところでこのような惨劇になることはないため、何故このような状態になってしまったのか不思議でしょうがなかった。


「この黒い土……元々はこんなのじゃなかったはず……。焼き払われたとしても、煤や灰なんかじゃここまで黒くならないし……」


「悪しき力を感じます。何か……何と言えば良いでしょうか。ものすごく憎んでいる……そんな感情が込められた魔力です」


「【闇】の力だよ」


 レプレがそう告げた魔法。

 一般的な魔法ではないことからリコは首を傾げる。


「【闇】とは……【影】の魔法とは違うのでしょうか?」


「【影】は事象系の魔法だね。それと違って【闇】は元素系の複合魔法なんだよね。負の感情を凝縮したもので、大地に二度と草木を生やさせない、生き物が生きるために必要なものを奪う魔法だよ」


「そんな魔法、誰が使ったんですか?」


 レンは静かに怒りを露わにしていた。

 ――高度な魔法は魔獣は扱えないはず……。

 魔獣の肉体には必ず魔石が眠っており、中に入っている魔法を常に使っている状態であるため、扱えないというのは語弊であるが、レンの感覚では分かりやすく魔法が飛んできたりする事ではないため放ってこないと認識していた。


「……【魔物】。またの名を『地上からの侵略者』だよ」


「魔物……。それって、オレたちみたいに長生きなんですか?」


「魔物は短命だよ。地上の世界では真のニンゲンになれず、生き物としての形を取れなくなった者を指しているからね」


「じゃあ、家族を……みんなを殺した奴はもう死んでる……?」


「可能性は高いね。死に際に【闇】の力を暴走させて自分の周囲を腐らせていくの。この村がこんなになっているのは最後っ屁を打たれてしまったからだと思うよ」


 レンは魔物の戦い方を知り、一筋縄では行かないと悟る。

 自身の家族を殺した者はすでに死んでいる可能性が高く、仇を取ろうにも取れないことに気がつくと、心臓よりもさらに奥の部分がズッシリと熱を帯びて重たくなる。


「敵討ちはオススメできない。ウチは国民を見殺しにはできないから。王族だし」


「どう言うことですか?オレの復讐にレプレさんは関係ないと思うんですが」


「たとえば魔物を作った元凶を倒すとなったら、ふく様やヴォルフ様より強いニンゲンを倒さないといけないし、それも一人二人じゃなくていっぱい居る。……関係者を殺そうとなれば、キミは絶対に殺せないヒトが出てくるからオススメできないよ」


 レンはレプレの言っていることが理解できず、不満が積もってくる。

 そんなレンの様子を見たリコはレンの右手を取り、両手で包む。


「レン君、今は勝てないかもしれません。ですが、勝てるようにこれから頑張りましょう。私も……レン君と同じように父と母を殺されましたから、気持ちがよくわかるのです……」


「リコさん……」


「アタシのことも忘れないでよ!アタシは別に親は生きてるけど、レン君の力になりたいのは誰よりも強いもん!」


「サクラさん……」


 レプレはレンを止めようとした二人を見て安心したようにホッと息を吐く。

 そして、本来の目的を思い出し、封印された箱を探す。

 それは真っ黒な大地にポツンと佇んでおり、探すまでもなく見つかる。


「レンくん。キミの魔道具を使うね。『全ての厄災を包み込む力は、開錠の力を持ってして解き放て』」


 レンの魔道具は乾いた金属音を鳴り響かせながら跳ね飛び、どす黒い地面に叩きつけられて砕け散る。

 全員が茫然とそれを眺めていると、箱の封印が解除されていないことに気がつく。

 レプレは開錠できなかった事に驚き、頭を下げる。

 

「ご……ごめん……!」


「【開錠】の魔道具、失敗作だった……?いや、ダメだったらそもそも紋章を刻印できないから成功はしているんだ……。でもどうして……?」


 リコは砕けた魔道具を拾い眺めるが、原因が分からず、制服のポケットに収めて、封印の箱を眺める。

 その箱の蓋に手を触れ、魔力を流し込むとリコの頭の中にザワザワとした感覚が襲った。

 ――アナタは誰……?私たちの息子ではないわね……。息子に代わりなさい……!

 リコは恐ろしくなり、思わず箱を落としてしまう。

 手から離れた瞬間に幻聴のようなものは無くなり、首を傾げる。

 レンの故郷という事もあり、リコは思わずレンを見る。

 ――息子……考えすぎでしょうか……?


「レン君、この箱に魔力を流してもらっても良いですか?」


「……?いいけど、何かわかったの?」


 リコは首を横に振って分からないことを伝えると、レンは仕方無しに箱を持ち上げ、魔力を流してみる。

 すると、箱は光り輝き、レンはそのまま気を失ってしまったのであった。

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