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リコの力じゃなかった!?

「これに……乗るんですか?」


 レンは引き気味に訊ねるとレプレは嬉しそうに頷く。

 先ほどまで戦っていた相手に乗るというのは複雑な気分だった。

 ふと視線をリコに向けると、ものすごく悲しそうな表情で俯いており、傍に立ち、尻尾をリコの腰に巻き付ける。


「リコさんどうしたの?」


「レン君ごめんなさい……。せっかく作ってくれた魔道具を壊してしまいました……」


 持ち手だけ残った魔道具を見て、レンはリコの両手をとって首を横に振る。


「大丈夫。また、作るから安心してよ。オレも、そろそろリコさんの魔力に耐えられる魔道具を作らないといけないね」


「ねぇ、何でリコ……さんの魔道具だけ、威力が高まるの?」


「私のために作ってるからです」


「そうそう……ってちがーう!あ……違わないけど……理由があるんだ!」


 サクラの疑問は当然だ。

 紋章魔法は認知度が低いだけであって、使い方の書物まである。

 未解明の魔法ではなく、ただの古から存在する魔法であり、魔道具が出てくるまでは【一般魔法】として扱われていたのだ。

 その時から紋章魔法は描かれた紋章の大きさによって魔法の規模が違うというのは当たり前の認識だった。

 従ってレンの作っている魔道具は小型のものが多く、出力が低いというのが普通なのだが、リコだけはその制約を無視しているように見えてしまう。

 レンは自分の見解を二人に伝えるため、岩肌に石をこすりつけて絵を描いていく。


「先ずは紋章魔法が初めに描いた大きさに依存しているのって知ってるよね?」


 二人は初歩的な質問に頷くとレンは話を続ける。


「で、サクラさんやオレたちが魔法を発動する時、刻まれた紋章魔法と同じ大きさの魔力でできた紋章が現れるんだけど、リコさんだけはそれを無視した大きさの紋章を呼び出す事ができる【特殊技能】を持っているんだ。めえ先生にも仮説として認めてもらったけど、立証しないといけないんだよね……」


「アタシには魔法を発動する時に紋章は見えないんだけど?」


「それは、オレの【特殊技能:精霊眼】が関係しているみたい。目が良いからそこまで見えるって思ってもらったら大丈夫かも」


 レンは自身の目に対しては『よく見える』程度にしか自覚していないため、そのような評価になり、サクラも納得する。

 そんな中、リコは申し訳なさそうに手を挙げる。


「恐らくその説は破綻していると思います」


 リコからそう告げられ、レンは驚く。

 レンの中ではリコが【特殊技能】持ちであることを確定し、仮説を立てていた。

 それはレンの魔道具を使用していたリコとサクラの挙動の違いで判断していた。

 サクラはレンの紋章魔法を強化できない。

 リコはレンの紋章魔法を強化出来る。

 たったこれだけだが、レンの中でリコがそういう力を持って生まれていると信じていた。

 それを本人の口から否定されるとは思いもしなかった。


「レン君の魔道具を使っていると、確かに大幅な力の増大があります。ですが、それはあくまで【レン君の作った魔道具】使っている時だけです。私が自分で描いた紋章や他の人が描いた紋章は全くと言って良いほど強化はされず、本来の威力しか出ませんでした」


「じゃあ、レン君に【特殊技能】って事になるじゃない。でも、レン君も言ったようにアタシが使っても紋章魔法は強化されないわ。どう説明するの?」


「それは……」


「そんなことより、早く乗ってよー!会議はこの旅の後!」


 迷宮入りしそうになっていた話題はレプレによって中止にされ、三人は荷台に乗り込むのだった。

 レプレは三人が乗り終えたことを確認すると、鞍に跨り、手綱を引く。


『飛べ!』


 竜語で掛け声を発すると、ワイバーンは声に従い、飛び上がる。

 オープンカーのように荷台の腰壁から上方は開放的な作りとなっており、三人は荒々しく飛ぶワイバーンの揺れに振り落とされないように荷台の柱にしがみついていた。

 異変に気づいたのは高度が安定した時のことである。

 レプレは風圧を受けているにもかかわらず、荷台には微風一つ入り込まない。


「こらっ!」

 

 レンは不思議そうに外に手を出そうとすると突然の大声でレンは驚いて跳ね上がる。


「それより外に出たら命の保証はないよ!」


「ご、ごめんなさいっ!」


 魔力で作った防御膜のようであり、レンたちを守るためのものだったようだ。

 リコは荷台から顔を覗かせ、真下の風景を見る。


「模型のような世界ですね……」


「さっきまであそこを歩いていたんだよね」


「レン君。私はレン君に会えなかったら、このような風景を見られなかったんです。だから、今更ですが、あの時助けていただきありがとうございます」


 以前、お礼を言われているにもかかわらず、再びお礼を言われて慌てるレン。

 しかし、彼女の表情は大袈裟なものではなく、本気でそう思っていると、レンは悟る。


「オレだって、リコさんに助けてもらわなきゃ、あの時に一緒に死んでただろうし、ワイバーンに殺されかけた時もリコさんが助けてくれたでしょ?お礼を言うのはオレの方だよ。助けてくれてありがとう」


 レンは深々と頭を下げてお礼を言うと、ニコッと笑みが溢れる。

 それを見たリコは目を点にして少しばかり尻尾を膨らませた。

 誰も気づくことはなかったが、レプレは一度も振り向かずにリコの気持ちに気がつき、楽しそうに口角を上げ、手綱を引っ張り速度を上げる。

 そして、日が暮れるごろに目的地に辿り着くのであった。

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