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戦いの考え方

「で、デカっ!?」


「こ、こんなの倒せるの!?」


「……わぁ。コレほど大きい魔獣が近郊に住んでいたのですね……」


 ゆっくりと鈍重な動きをする魔獣はレンたちを視認すると鼓膜が破れそうになるほどの重低音の咆哮が襲いかかる。

 耳を塞ぎ、しゃがみ込む三人に向かって見た目とは裏腹な速度で突進を仕掛けてきた。

 すると、レンの前にレプレが現れ、黒い棒を取り出す。

 この四人中で彼女が一番聴覚が鋭いはずだったが、平気な様子で動いており、レンは驚く。

 黒い棒が突然伸びレプレと同じ長さの丈になると水色の刃が具現化する。


「うぉおりゃあっ!」


 一瞬で姿が消えたかと思うと魔獣を蹴り飛ばし、そのまま地面に転がせた。

 大音量で痛む耳を押さえながら立ち上がるとレンは違和感に気がつく。

 レンより背が低かったはずのレプレはレンと同じ身長にまで伸びており、白いロングヘアを靡かせていた。

 彼女が振り向くと、レンは目を見開き、動けなくなる。

 それは畏怖を感じたためである。

 彼女の紅く煌めく瞳が動きに合わせて尾を引き、頬に紅い模様が浮かび上がっていた。


「お姉さんの顔に何かついてる?」


「い、いや……その姿が気になって……」


「あぁ〜……。【王族変異】の事ね?そう、ウチも実は王族なの。まあ、月兎っていう神族に属してるんだけどね」


「神族……?」


 レンが聞きなれない言葉を考えていると、魔獣は地面を揺らしながら立ち上がる。

 ひっくり返っても立ち上がる事ができるようでレンは再び警戒する。

 ――どうしたら倒せる?レプレさんでも転がすのが精一杯だったのに……。そうだ、リコさんならなんとかなるかな……?

 レンはリコの元に駆け寄り、肩を組んで立ち上がらせる。

 

「ごめんなさい……。油断しました……」


「オレもあんな事してくるなんて思ってなかったよ。そうだ、リコさん。風の魔法であの魔獣の首は切り落とせる?」


「……おそらくできるかと。ですが、準備に時間が掛かることと、威力の調整が難しいと思います……。皆さんを傷つけるかもしれません……」


 リコは不安な表情で訴えると、レンは自身の胸を叩き、リコに杖型の魔道具を渡す。


「大丈夫。リコさんならきっと上手くいくよ!もし危なくなったらオレがあの時みたいにリコさんを守るから安心して!」


 レンのその言葉に不安な表情が和らぐと魔道具を構え、精神を集中させるために目を閉じる。


「レン君。よろしくお願いします」


「わかった!オレとサクラさんが魔獣の気を引くから、しっかりと詠唱をお願いね!」


 リコが頷いたことを確認すると、レンはサクラを立ち上がらせる。


「耳痛いよーっ!アイツ、いきなり吠えるなんて……!」


「サクラさん、リコさんが大きな魔法を放つからオレたちであの魔獣の気を引き付けて時間をか――」


「それでいいの?」


 レプレはレンの作戦に異議を唱えた。

 実際、中等級クラスのレンとサクラの魔法は大きな身体をしている魔獣の皮膚を裂くことすら難しいと思える。

 レンはレプレが魔獣を転がす事が精一杯だと判断し、リコの魔法なら倒す事ができると踏んでいた。

 ――ん……?もしかして……!?

 レンはレプレの行動を思い出して訊ねてみる。


「レプレさんって、もしかしてあの魔獣に手加減してました……?」


「そうだよ?ウチの力、全部解放したらリコちゃんですら一捻りだもん。それに、リコちゃん死んだらキミたちは死ぬしかないでしょ?今の状態だと」


「「……」」


 二人はレプレの指摘に何も言えなかった。

 国外に出るという事は戦う力を持たなければならない。

 レンは分かっていたつもりだった。

 魔道具を作ることを覚え、戦闘から一歩引いたところから支援する事で調査隊を目指す事ができると信じていた。

 魔法技術士は研究機関の魔道具を改修するヒトが多いということを思い出す。

 ――それって、戦闘ができないから調査隊に入ることすらできなかったって事……?じゃあ、オレはこのままだと調査隊に入る事ができないってこと……?

 自身が間違えた認識でいることに気が付き、身体から力が抜ける。

 結局調査隊に入るためには戦えなければならない。

 それは何度もサムやハウルにも言われていたことだった。

 ――紋章魔法が使えるようになって天狗になってたんだ。その魔法も聖騎士様とやった時にも通用しなかった。何一つ成長していないじゃないか……!

 レンは泣きそうな表情になり、レプレは困った顔をする。

 涙をこぼさないように堪えていると、レンの手が握られた。

 顔を上げるとリコが目の前にいた。


「大丈夫です。レン君は一歩ずつ進んでます。これからどうするべきか、一緒に考えましょう?まずはあの魔獣を倒します。魔力纏いの応用はできますか?」


 リコの言葉にレンは涙を拭い、リコの顔をしっかり見つめる。

 そして、魔力纏いの応用を思い出すと引っ掛かる点を見つけた。


「【魔力凝縮】って奥義じゃないの?」


「ただの応用ですよ?」


 レンはカレンに騙されたことに気が付き、沸々と怒りが湧く。

 しかし、本人が目の前にいないため今度出会った時に文句を言うことにしたレン。

 リコに背を向け、レンは魔力を昂らせる。


「リコさん、ありがとう。少し、やってみたい事があるから魔法で援護してもらえるかな?」


「もちろんです。サクラさん、貴女はどうするのですか?」


「アタシは陽動に回る!言われなくたってやるもん!」


 レンは相変わらずの不仲の様子を見て苦笑いを浮かべる。

 カバンから一つの魔道具を取り出し、それを持って構える。


「さあ、新作魔道具とオレたちのデビュー戦だ!頑張ろうっ!」


 レンは飛び出し、サクラは魔法で分身体を作り、リコはレンの援護をするための詠唱を行う。

 それを見たレプレは満足そうな表情で高台から見守るのであった。

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