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悔しさを握りしめて

 目を覚ました時には保健室の天井がお出迎えしていた。


「魔法競技祭は!?」


「うわ、びっくりした」


 突然飛び起きたレンに驚いたメリルは落とした包帯を拾い上げていた。

 どうやら治療者がいるようで、姿を確認するために顔を出すと、そこにはサクラがいた。

 しかし、そこにはいつも元気な表情をしている彼女ではなく、たくさん涙を流した跡が目の周りと顔下半分に目立ち、体のいたる部分に裂傷が目立つ。


「サクラさん、大丈夫!?」


「あ、レン君……。ごめんね……!アタシ、負けちゃった……」


「それより、体の傷が……」


「大丈夫。先生に【治癒】魔法で自己治癒で何とかなるまでは治してもらったから。……やっぱりレン君もこの姿を見てもコーフンしないか……」


「え……」


 レンは裸に胸だけ包帯を巻かれた際どい格好のサクラを見て思わず顔を背ける。

 本当に傷の心配をして、格好にまで意識が向いていないだけだったのだが、一度意識すると直視が出来ずにいた。

 慌てるレンを見て少し嬉しそうな表情をするサクラはメリルに額を小突かれる。


「ここは保健室だ。発情されても困るのだか?」


「そうでした……。ごめんなさい。レンくんもいらない事言ってごめんね」


「う、ううん。サクラさんは悪くないよ……!たぶん……」


 治療が終わったサクラは制服を着る。

 メリルは道具を片付けながら、二人に結果を伝えることにした。


「二人とも魔法競技祭は残念ながら敗退だ。しかし、特級クラスや聖騎士相手にあそこまで食いつくとは思ってもなかった。私としても鼻が高いよ」


「でも、全然歯が立たなかった……。同い年でもこんなに実力差がある事も……」


「それはそうだろう?相手は特級クラス。直接当てる必要のある元素魔法は手段としては悪手だ。まあ、レンの作った魔道具が暴走を起こすことがなかったから、レンの見立て通りリコに紋章魔法の強化が出来ると見ていいだろう」


 レンは自分のたてた仮説がサクラによって立証され、喜びたい反面、本当は自分の魔道具に増幅機能がついていればいいと考えていた。

 それは使用者のサクラを手助けできる一手になっていたかもしれないからだ。

 特級クラスには全くと言っていいほど役に立っていない事を思い知り、サクラに申し訳なくなっていた。

 落ち込んで俯いているレンの方に手を置き、メリルはレンの作った風の魔道具を手に取る。


「いろいろ課題はあるだろう。だが、レンは進歩している。お前の作った魔道具はサクラの魔力でも壊れずに済んでいる。この調子で良いものを作れば目標に近づくのではないか?」


「……勝ちたかったです。少なくともオレにもっと技術があれば……サグラざんを……グス……。ケガさせなかったのに……」


「れ、レンくんが悪いわけじゃないよ!?アタシが油断したからこうなったわけで……」


 大粒の涙を流し、悔しさを吐き出すレンにサクラは慌ててフォローするが、涙は止まらない。

 メリルはサクラに首を横に振って退出を促す。


「また……明日、一緒に頑張ろ?今度はアタシだって鍛錬積むから、ね?先生、ありがとうございました。また明日お願いします」


「うむ。今日はゆっくりと休むといい」


 閉まっていく扉の隙間から心配そうにレンを見つめるが、帰らないのも不審だと思い引き戸を閉めた。

 足音が遠くへと行くのを確認してメリルはベッドのカーテンを開ける。


「今日は無理して来ていたんだ。お前の姿を見て、気を失ったんだ」


 涙を流し、ぐちゃぐちゃになった顔を上げ、ベッド上で眠っている人物を見ると目を見開く。


「リコさん……!?」


「明後日くらいまでは体力が戻ってないだろうから無理をするなと言ったんだが、聞かなくて本当に困ったものだ。……眠っていて本人が知らない所で話してしまうが、本当はお前と魔法競技祭に出たかったそうだ」


 レンは心臓が握りつぶされるような苦しさを胸に抱え、眠っているリコの手を握る。


「お前は今日、散々打ちのめされて調査隊はおろか、魔法技術士の夢も諦めかけたのではないか?」


「……」


「リコはお前の魔道具を待っている。恐らく自分の【精霊】魔法が正しく発現したとしても、お前の魔道具を使い続けるだろう。それだけお前のことを信頼しているんだよ。野狐族だからと自ら孤立していたリコが……」


「……先生」


 メリルはレンの顔を見て、表情を柔らかくする。

 涙を堪え、下唇を噛み、両手を握り締め、小さく震えていた。


「もっと……もっと勉強して、みんなの期待に……リコさんの期待に応えられるヒトに……なりたい……っ!」


「わかっている。お前が悔しいと思う気持ちを絶対に忘れるな。お前を成長させてくれるキッカケになるからな」


 メリルはレンをそっと抱きしめると、レンは堰を切ったように泣き始めた。

 失敗や挫折がレンを強くする。

 そう願い、今後の活動方針を考えていくメリルなのであった。


 §


「ここは昔集落があった所だな……」


「そうみたい。やっぱり、魔物の影響は【浄化】させない限り、残っちゃうものだね」


 狼族の青年と兎族の女性は黒く朽ち果てた大地に足を踏み入れ、探索していく。

 ここは通常の土地よりも黒く濁っており、作物も生物も近付いていない。

 繁殖力の高い菌類ですら自生しない土地であり、死んでいると言っても過言ではない。

 ただ、微細な生き物も生息できないゆえに当時の状態を維持しているため、多少の風化はあれ、つい最近壊れてしまったようにも見える。

 青年は腰から掌三つ分の長さのある黒い棒を取り出し、魔力を込める。

 すると片刃の剣のような刀身を現し、メリルの持つ鎌の魔道具のような性質を持っていた。

 立ち塞がる瓦礫に対し、横一閃。

 つっかえとなっていた柱だけ切り落とすと口を開く。


「『潰れろ』」


 瓦礫を押しつぶし、二人が並んで歩く広さを確保する。

 元々家だったのだろう。

 黒く侵蝕されていたものの、建物に酷似した構造であり、家具だったあろうものが破壊されて散乱していた。


「ガブさーん!なんか奥に箱?みたいなのある!」


 ガブと呼ばれた青年は女性の元へ行き、それを確認する。

 土の壁に埋もれていたそれは箱のような見た目をした何かだった。

 ガブは周りの土を掘り起こして取り出そうと土に爪を立てた瞬間、電撃のようなものが走り、反射的に手を引く。


「結界……のようだな」


「ここから取り出すのは難しい?」


「ここまで来てもらった方がいいかもな。レプレ、地図にメモを取ったら学園に向かう。あそこならメリル様も頻繁に出入りしているだろう。まずは相談だ」


「りょーかい!」


 二人は地図に場所と物の情報を書き記し、家に目標となる光る石を置き、学園へと向かったのであった。

 これが、魔工部の新たな目標となり、レンにも関わる物だというのは今は誰も知らない。

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