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もう一度、作ってみた

 魔法競技祭前日。

 だからといって授業をそっちのけにすることはできず、夕方まで拘束されていた。

 終礼と同時にレンは教室を飛び出し、部室へと向かう。

 部屋に入るなり、レンは作業用の服を身につけ、ミスリルと加工した木材を置く。

 レンは紋章を紙に描き、その上にミスリルと木材を置く。

 レンは深呼吸し、空中に紋章を描く。

 紙に描いたのは風の紋章。

 そして今描いたものは【結合】の紋章である。

 レンは深呼吸して詠唱を開始する。

 当てずっぽうで作った手順を思い出しながら。


「『神々の恩寵を受けた素材たちよ。全てを結びつける力を以って、互いに手を取り合え。烈風の力を込められしその武具は我らの力と成せ!』」


 紙に描いたの風の紋章はミスリルと共に木材へと吸い込まれていき、ミスリルメッキをした剣が生まれた。

 実際に斬る能力は研ぐ事ができないことで失われており、刀身には風の紋章の模様がデザインされていた。

 レンの魔道具は二度目の成功を果たした。


「で、出来た……!出来たよリコ……さんはいないんだった……」

 

 リコがいないことを寂しく思うレンは椅子に座る。

 短い時間とはいえレンの隣にはリコがいた事を思い出すと耳は垂れ、尻尾を体に巻き付け、無意識のうちに本能的な仕草をしてしまう。

 そんな状況の中、不意に部室の扉が開かれサクラが入ってくる。

 彼女はリコと違い【太陽】のようにエネルギッシュで笑顔を振り撒く女の子。

 月のような落ち着きを持つリコと大きく違っていた。


「勢いよく出ていくからビックリした。……どうしたの?」


 レンは未だに気づいていないが、耳と尻尾を持つ者の宿命というべきか、本能的仕草で落ち込んでいる姿を見ればサクラだってわかる。

 

「ううん……。少しブルーになってただけ。あ、サクラさんコレ、使ってみてくれる?風魔法を持った剣ができたんだ。詠唱がいるから使いにくいかもしれないけど……」


 レンに渡された魔道具を受け取り、ジッと眺める。

 ミスリルの青と緑が混ざりきらない不思議な金属光沢を眺め、刻印された紋章が目に入る。

 サクラは紋章の事は知らないが魔法的な物が刻印されていると直感的に感じ取る。

 少しだけイタズラっぽくニヤリと笑いながら魔道具を両手に抱えてレンを見る。

 

「……アタシ、使って良いの?」


「うん。注文通りか分からないけど……。でも、出来てるはず……!」


 レンの自信は一度作ったことによるものであり、その自信を読み取ったサクラは嬉しそうな表情で再び魔道具の方へ視線を戻す。

 材質が軽いミスリルと軽い木材で出来ているため、女性であっても簡単に振り回せる重量であった。

 尤も、この世界の獣人の女性は基本的に男女に腕力の差はなく、鍛え上げられた女性は戦鎚や神器を振り回すこともある。

 それでも、レンが軽量の魔道具を作った理由は簡単。

 この魔道具で直接殴ったりするものではないという事。

 競技祭のレギュレーションで殺傷能力の高い武具や魔道具は禁止されている。

 打撲程度のダメージで良いなら攻撃速度が速いほうが有利だからだ。

 そして、【幻惑】による術者の立ち位置の変更が不意打ちするには軽くて短い獲物が適しているとレンは思っていた。

 実際彼女は嬉しそうに魔道具の短剣を振り回してご機嫌である。

 

「やっ!」、「はっ!」、「とうっ!」


 綺麗な太刀筋はどこかで剣術を学んだのではないかというものであり、尻尾と短い髪を振りまわして素振りをしていた。

 やはり思春期男子。

 レンは視線を下げる。

 しかし残念ながら彼女はハーフパンツタイプの制服着用者である。

 鉄壁のガードに阻まれ、少しばかり残念な気分をしていると、レンの両肩にドンっという衝撃が走り、驚いて飛び上がる。

 振り返るとメリルが面白おかしそうな笑みで笑っており、レンの顔から火が出るように火照る。


「せ、先生!こんにちは……!」


「こんにちは。お前は男子としては普通だな」


「え……?……!!」


 メリルには完璧に見透かされており、アワアワと慌てふためくレン。

 真剣に素振りしていたサクラがメリルの存在に気がつき、かけ寄り挨拶する。


「先生、こんにちは!……レン君どうして慌ててるの……?」


 サクラはレンの慌てように眉を上げて見つめる。

 表情から読まれるのを危険視したレンはそっぽを向くと、上がった眉は段々と下がり、眉間に皺が集まる。

 それを面白く思っていたメリルはレンに助け舟を出すためにサクラの肩を持つ。


「まあ、男子とはそのようなものだ。サクラ、それは何だ?」


 サクラは手に持っていた魔道具を見て興奮したようにメリルに見せる。


「凄いでしょ!これ、レンくんが作ったんだよ!直接斬ったりするものじゃないんだろうけど、入ってる魔法次第で化けちゃうかも!」


「レンが……?レン、本当にお前が作ったものなのか?」


 話題が完全に外れ、安心して胸を撫で下ろしながら大きく頷く。

 メリルはサクラから魔道具を受け取り、じっくりと観察する。

 姿勢良く畏まった体勢で待っていると大きくため息を吐きながら鋭い眼光でレンを見る。


「お前……なんてものを作るんだ」


 レンはその言葉の意味を悪い方に捉え、尻尾を大きく膨らまし、耳を垂らして肩をすくめる。


「本当に紋章を魔道具に封じ込めたのか……。これはポチおの奴にも見せてやらないとな……」


「やっぱりダメですか?」


 レンは不安そうな表情で恐る恐る訊ねると、メリルは首を横に振り、サクラに魔道具を返してレンの頭を撫でる。

 

「ダメなわけあるものか。もう一つ同じようなものを作って違う属性の元素は封入できるか?」


「は、はい!やった事ないけど、きっとできると思います!」


「よし、お前はもう一つ魔道具を作る事。サクラはこの魔導書を読んで紋章魔法のことをしっかりと学ぶ事。私は今からポチおをここに連れてくる。以上!」


「「はいっ!」」


 二人の元気な返事を聞き、メリルは部室を後にした。

 彼女の足取りは自信に満ち溢れており、不適な笑みを浮かべていたのだった。

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