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なんでこんなことに……!?

「えぇーっ!?」


 朝、まだ他の生徒が来ていない教室でレンの声が響き渡った。

 レンはあんぐりと口を開けて驚き、サムが困ったようにレンを見る。


「そんなに驚かれても、本当に知らないのか?」


「知らないですよ!」


「う~ん困ったなぁ。学園競技祭は血の契約じゃないと登録できないようにしているから、間違いなんて起きないんだけどなぁ」


 レンはサムの言うことが全くと言っていいほどわからず頭を抱える。


【学園競技祭】


 これは年に一回行われる学園のイベントであり、魔法を使った競技を立候補した者たちで争うものである。

 種目は複数あり、精密射撃や射撃徒競走などの魔法を飛ばす競技、肉体を強化してアスレチックを攻略する競技などがある。

 それぞれの競技には血の契約という契約魔法を行う必要があり、レンは契約した覚えがなかった。

 それに気づいたのは今朝起床したときにレンの左腕に紋章が刻印されていたということだった。


「どうしよ……。オレなんか出ても酷いだけですよ!基本的に特級クラスしか出ないじゃないですか!」


「そんな事言われてもなあ……その契約、履行するまで解けないし、期日までに相方見つけて参加しないとペナルティで一ヶ月魔力を失うことになる反動付きだからなぁ……。諦めて相方を見つけたほうがいいと思うぞ」


「そんなぁ……」


 レンが肩を落として項垂れていると、クラスメイトたちが入ってくる。

 視線を浴びているような気がしてレンは振り向くとクラスメイトの視線がレンに集まっていた。


「よぉよぉよぉ!身の程知らずな猫族のレンじゃないか!特級クラスしか参加しないハズの魔法競技祭に参加するんだってな!ノーマジの――げっ、先生がいるじゃねぇか」


「『げっ』とはなんだ『げっ』て。お前、まさかとは思うが勝手にレンを魔法競技祭に契約結んだんじゃないだろうな?」


「そんな事するわけないじゃないですか〜。レンが参加したいっていうから代わりに書いてやったんですよ〜」


 口笛を吹く真似をしながらニヤニヤとレンを見下す。

 レンはハウルに掴み掛かろうとするが、思いとどまる。

 掴みかかったら止めようと準備していたサムはレンの行動に目を見開いて驚く。


(怒りを抑え込んだ……!?いつもなら食ってかかるのに……?)


 怒りを我慢しているレンの背中をポンポンと叩き、レンの視線をサムに移動させる。


「よく堪えた。大変かもしれないが、相方を見つけて参加できるように祈っておくぞ」


「先生……ありがとうございます……!」


 レンは期限である日没までに魔法競技祭の相方を見つける宿題ができたのだった。


 §


 放課後。

 夜になるまで三刻を切った。

 レンは部室に走っていき、扉を思いっきり開ける。

 勢いよく開かれた事で中にいたメリルは驚いた表情でレンを見る。


「先生!リコは帰って来ましたか?」


「いや?リコはまだ休みの期間だろう。あと三日は帰ってこないぞ?」


「そんなぁ……。リコさんしか頼れなかったのに……」


「ん?まさか、魔法競技祭に参加するのか?」


「事故……というか、ハメられて……」


 レンは涙目になりながらメリルに状況を説明する。

 状況を察し、レンの肩に手を置く。


「まあ、紋章魔法は実技だけじゃないからな。理論を勉強する良い機会かもしれないな」


「先生まで見放すんですか……!リコさんの魔道具を作るために魔力が必要なのに……!」


「こればかりは仕方がないだろう……」


 ――コンコンコンッ


 突然部室の扉がノックされ、レンとメリルは顔を合わせる。

 メリルは扉を開けると一人の少女が立っていた。


「む、お前は……中等級クラスのサクラだな。どうしてここへ来たのかな?どこか体調が悪いのか?」


「いえ、違うんです。魔工部の部長に会いたくて」


「レン、お前に客人だぞ。クラスメイトのサクラだ」


 レンは首を傾げながら立ち上がるとメリルは手招きして部室へと入れる。


「こんにちはレン君」


「あ……ども……オレに用事って、何かな?」


 レンにとってサクラはクラスメイトというだけであり、実際に会話をした事がなかった。

 周りとの関わりが少ないレンにとって話したことはないが身近なヒトという存在に警戒する。


「魔法競技祭になんで出ようとするの?レン君にはメリット無いじゃない」


「それは……ハウ――。違うな……参加したこと自体は事故だけど、魔法技術士になって調査隊を目指すんだ。自分の魔道具がどこまで出来るか試したいんだ」


 レンはハウルのせいでこのような事になっているにも関わらず、一概にハウルを悪者にしなかった。

 実際、挑戦してみたい気持ちがあったが、相方が見つからず困っていただけだった。


「レン君がクラスでハブられているのくらい知ってるわよ。……それで、相方は見つかったの?」


「それがまだなんだよね……。まあ、参加できなくて恥かくだけだし、そんな事は気にしてないや」


 レンは困った笑みを浮かべながらも、先を見据えているその視線にサクラは両手を握りしめる。

 そして、レンにツカツカと詰め寄り、レンの右手を取った。


「アタシが一緒に出てあげる」


「えっ……!?」


「む?」


 メリルは意外な展開に目を見開き、二人を見つめる。

 レンは何が起きているのか分からずキョトンとしているとサクラに鼻をギュッと抓られた。


「あだだだだだっ!?」


「アタシが困ってるアンタを助けるって言ってるの!嬉しく思いなさいっ!」


 レンは痛みで脈打つ鼻をさすり、涙目でサクラの方へと目線を上げる。

 

「な、何でそんな事まで……?」


「アタシだって魔法競技祭参加したいもの。特級クラスしか参加しないって損じゃない?」


「よく言った」


 静観していたメリルから不意に声をかけられ二人は驚く。


「サクラの言う通り特級クラスしか参加しないと言うのが間違っているんだ。確かにあの子たちは強い。だが、お前たちのように一芸に特化した者だっている。だからどんどん参加してほしいんだ。サクラ、本当に参加するならレンの腕に描いてある【契約】魔法に魔力を乗せるんだ。それで参加の意思ありと判断される」


 サクラは頷くとレンの腕にある魔法に魔力を注ぎ込む。

 すると赤々しかった魔法は綺麗な水色に発光し、サクラの右腕に同じものがつく。


「改めて、アタシはサクラ。中等級クラスの【幻惑】魔法の使い手。よろしくね」


「お、オレはレン。中等級クラスのノーマジ。役に立つ魔道具を頑張って作るよ……!」


 レンは差し出された右手を掴み、握手する。

 こうしてレンは魔法競技祭に参加できるようになり、魔力一ヶ月没収を免れたのだった。

 しかし、開催は明後日。

 まずは出場する競技について考える事になったのだった。

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