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リコさん、来なかった

 授業終了後、レンは走って部室に向かう。

 

「お疲れ様です!」


 レンは勢いよく部室の扉を開けるが誰もいなかった。


「いない……。先生も今日は休みなのかな……?」


 レンは大きく肩を落とし、ムスッとした表情で日課の【結合】の訓練に着手する。

 数本作り上げたところで部室の扉が開かれ、メリルが入ってくる。


「おや?今日は早いな」


「こんにちは!なんだか早く訓練したくて……!そういえばリコさんは大丈夫ですか?」


 レンの口からリコの話題が上がるとは思っておらず、意外そうな表情を浮かべるメリル。

 

「レン。リコのこと知っていたのか?」


「??昨日は体調が悪いと言って早くに切り上げて先生のところに行くと言ってたので……。もしかしてリコさんに何かあったのですか!?」


「……リコは大丈夫だ。一週間ほど休めば大丈夫になるはずだから安心すると良い」


「よかったぁ……」


「……」


 レンが安心して一息ついている傍ら、メリルは複雑な表情を浮かべていた。


(あの様子だと匂いに当てられてはいない様だな。それに、発情期気づいていない辺り体調不良という事にしておこう……)


「……せい!先生って!」


「おや、すまない。考え事をしていたよ」


「【精霊】魔法のことで質問があるんですが、良いですか?」


「私は専門外だから、詳しいことは話せないが……。それでも良いなら答えられる範囲で答えよう」


 レンはポケットから紙を取り出し、それを目に通す。

 どうやら質問事項を書いていたようで、レンの本気度がメリルに伝わる。


「まずは、精霊って目に見えますか?」


「元素の精霊は【精霊】魔法の持ち主しか見えないな。高位の精霊ならば姿を視認することができる。私も数回は見たことがあるな」


 レンは目を輝かせてメモ用紙にメリルの回答にメモを取っていく。


「それじゃあ、紋章魔法は一度に複数使えないけど、精霊なら一度に複数使えますか?」


「そんなことはないと思うぞ?たとえ精霊であっても紋章魔法は一度につき一つだ」


「ふむふむ……」


「じゃあ、最後!精霊はオレたちと同じように生まれつき魔法を持った存在ですか?オレにはないケド……」


「そんなに自分を卑下にするな……。そうだな……精霊は元素に因んだ存在で、魔法が意志を持った生命体なんだ。だから魔法を持った存在であると同時に魔法という存在だ。複雑だがな。何か分かったかな?」


 レンはメモをとり終えるとメリルに向き、姿勢を正す。


「オレの推理ですが、リコさんはもしかしたら複数の紋章を一度に使う魔法か一度に複数の精霊を操る技術があるかもしれません!」


「ほう?それはどうしてだ?」


「証拠って訳じゃないですが、オレの作った魔本の風魔法が全て抜け落ちてるんです!一度に一つしか使えないなら紋章は残ってるはずです。魔法の威力は精霊ができるとして複数を扱うならそれしか考えられないです!」


(理論はメチャクチャだが、この子は感性でここまでたどり着いた、ということか……。この子は伸びる……かもしれないな。燻らせてはいけない子だ)


 レンの「証拠だ!」と言わんばかりの魔本のページを捲り、白紙のページを眺めながら考える。

 メリルは少し考えた後、立ち上がる。


「レン。今から王城に向かうぞ。リコは気が進まなかったようだが、お前はリコのために魔法を学ぶ必要がある。すぐに準備するんだ」


「あ、ちょ……!待ってくださいって!」


 カバンを背負い、先々進んでいくメリルを追いかけるレンなのであった。



 辿り着いた先は大きな湖であり、目の前には衝撃的な光景が広がっていた。

 湖の上、空中に島が浮いていたのだ。


「なんだここ……!?」


「知らなかったのか?あの島の上が王城だ」


「鳥族の飛行高度をはるかに超えている気がするんですが……!」


「当然だろう?空から侵入されてはたまらないからな。さあ、掴まって」


 レンは差し出された手を握り、隣に立つ。

 メリルは首にかけていたネックレスを外に出し、魔力を込める。


「『我を高みの場所へと導け。我が名はメリル』」


 短く詠唱すると二人は光に包まれ、ふわりと浮き上がる。

 そして、レンが走るよりも速く移動するが、空気の流れや抵抗を感じられなかった。

 最初に包んだ光が大気を押し退けているようだった。

 程なくして浮き島の上に降り立つ。

 石造りの二階建ての長屋と木と土を混在させた背の高い城が聳え立っていた。


「学園より高い……!」


「あの中は殆ど物置だ。王と女王の居城ではないのだよ。さあ、城に入るぞ」


 城と呼ばれる方へ視線を向けると平屋の低い木と石造りの混在する建物だった。

 城門を開けると黒の制服のようなものを着ている衛兵が二人に刃を向ける。

 レンは思わずメリルの背後に隠れると、もう一人の衛兵がレンの後ろから槍の先端を首筋に当てる。


「王城に何用だ?本日は謁見の予定はないが?」


「すまないね。玉藻様に合わせていただきたい。私は宮廷魔術師及び王の付き人メリルだ。これが紋章だ」


 メリルは名と紋章を差し出すと衛兵の表情が一気に固くなる。

 メリルに向けられていた刃は全て除かれ姿勢を正す。


「メリル様、申し訳ございません」


「いいんだ。正装でもないし、こうなる事はわかっていたんだ。取り次いでもらえないだろうか?」


「そうしたいのは山々なのですが、そのお連れ様は……?」


 未だに首筋に刃を当てられて泣きそうになっているレンを見て苦笑する。

 メリルは手合図で矛先を外すと質問に答える。


「彼はフォクノナティア学園の生徒でレンという。魔法技術士志望で玉藻様に【召喚】魔法を教わり、魔道具に転用できるか勉学したいそうでな。それに特殊技能持ちだから少しは有望かもしれないんだ」


「そういう事でしたか。ですが、メリル様の頼みとはいえ、叶わないこともあるという事をご承知願えますか?」


「分かっているよ。たまも忙しいから仕方がないだろう。後に正式な書類を出すからよろしく頼む」


「わかりました。お出でになられるか判りませんが談話室にてお待ちしてください」


 メリルは頷くとレンの手を引き城の一階にある八畳ほどの広さの部屋に入る。

 少し待つと、尻尾が六本のキツネ。

 メリルの言う玉藻という王族が談話室に入るのだった。

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