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身体のこと

 レンは中等級クラスの扉を開けるとメリルが授業の準備をしていた。


「あれ?」


 レンは一度教室の外に出て部屋名を確認するが、やはり中等級クラスであり、思わず首を傾げる。


「レン。間違いではないぞ」


「ホントですか?あ、おはようございます!」


「うん、おはよう」


「今日はサム先生じゃないんですか?」


「サムは昼まで下級クラスの実習の指導をするんだ。それまではは私の授業だ。ネコ族だからといって寝ることは許さないから覚悟するように」


 メリルが圧が篭った口調で釘を刺すと、レンは苦笑いを浮かべる。

 メリルの授業がどのようなものか楽しみ半分、不安が半分の不思議な感覚であった。

 クラスメイトが教室に集まってくるとレンは自席に座り、授業を受ける体勢になる。


「さて、何度かお世話になったものもいるだろう。私は保健室で仕事をしているめえだ。今日はお前達がこの学園を卒業する頃には成人となるわけだが、さまざまな身体の変化が起こる年齢でもある。成獣として身体の変化はどのようなものがあるか分かるかな?では……レン。答えてみよ」


 突然指名されたレンは狼狽えながら立ち上がる。


「えっと……種族特性が強くなる……?」


「そうだ。サムの授業はきちんと受けているようだな。座って良い」


 レンはホッとして着席すると、再び授業が進んでいく。

 サムもそうだが、教師と関わりの深い生徒は当てられやすい傾向があり、遂にレンにもその時が来たのかと感じていたのだった。


「成獣になった際、種族特性が強くなるというのは我々がよりケモノに近くなるということ。犬族なら嗅覚や集団性、猫族なら動体視力や洞察力といったようなものだ。それとこの一年間で段々と身体が頑丈になってくる。多少の攻撃では傷がつきにくいが、限度はあることを知っておくことだ」


 レン達が訓練で相手をしている木偶人形の強度は成獣男性の平均的な肉体強度である。

 また、アレは魔道具の一種であり、魔法は展開していないものの魔力による不可視の鎧が薄く纏っているため学園の生徒では基本的に破壊することが難しい。

 したがってレンが破壊した魔法の威力は非常に強いものであり、それを優に超えるリコの魔法の威力は戦術級の威力といわれてもおかしくないのだ。

 レンは改めて紋章魔法の恐ろしさを感じ取るのだった。


「では次に、女性の身に起きる事を話していこうと思う。かなり踏み入った内容だが、男子諸君も心して聴くことだ。それでは……サクラ。答えてもらおう」


「は、はい!」


 サクラと呼ばれた狸族の女子は緊張した表情で立ち上がり、恥ずかしそうに答える。


「は……、発情期……が来ます……!」


「その通り。座っていいぞ」


 教室にいる男子たちがどよめく中、あっという間に座るサクラ。

 中等級クラスの中では非常に容姿が良く、成績も優秀。

 レンは彼女が日々男子からの熱烈な告白から逃げているという噂を聞いたことがあった。

 気がしていた。


「サクラにも言ってもらったように、大体今のお前たち年齢から発情期が来る。これが中々厄介なものでな、男子諸君は不用意に近付いてはならない。命の補償はできないからな」


 センシティブな内容だと期待していた男子達は冷酷な現実を叩きつけられ、青ざめた表情をする。


「女子諸君。君たちは体に何かいつもと違うようなことが起きれば直ぐに私のところへ来ること。できる限りの処置をする。そして、これは首を突っ込むような内容では無いと思っていたが、昨今の襲撃から女王様とヴォルフ様より伝え回せとの事で話そうと思う」


 襲撃。

 この言葉にレンの表情は強張る。

 レンが孤児になってしまった原因であるからだ。

 【魔物】と呼ばれる怪物に国を襲撃され、甚大な被害を齎した。

 レンもリコもこの襲撃によって両親を失い、国の権力に近い王族をも多数失ったとされる。

 レンは襲撃とどういった関係があるのか疑問に感じる。


「十三年前……。お前達は産まれて間もないごろ、私は調査隊に所属していた。回復術師としての役職でいたのだが、あれは酷いものだった。【暗黒】と呼ばれる魔法は土地を腐らせ、触れたものを全て亡き者に変える呪いのようなもの。ふく様の魔法が無ければ国は崩壊していただろう。最強と呼ばれていたふく様とヴォルフ様ですら地上の民による襲撃に耐えるので精一杯だった。多くの命が失われ、疲弊した国民、王族、王と女王。私たちの身に一つの変化が訪れる。それが、発情期だった」


「死にかけで子作りとか頭悪いだろ!」


 ハウルの声が響き渡り、クラスの女子は一斉にハウルを睨みつける。

 睨まれたハウルはバツの悪そうな表情で腕を組んで刃物のような視線から目を逸らした。


「そうだな。普通なら考えられないが、あの時は普通ではなかった。しかしな、生き物というのは絶滅の危機に陥ると種を残そうと生存本能が芽生える。発情期を迎えた私たちは意中のオスに近づき、確認する。お互いが自身に相応しい者であるかを。そして、発情期中に結ばれた男女は番となる。これは一般的に知られている事だが、いいかな?」


 ハウルを除いた生徒達は固唾を飲み、頷く。


「そこでだ。なぜ発情期中に結ばれると番となる理由は知らないだろう?そもそも交尾自体は二人の魔力が混ざり合い、一つの魔力となり、女性の体に蓄えられるというものなのだ。しかし、発情期の時だけは二人の間に契約魔法の紋章が刻まれるという現象があったのだ。この紋章が刻まれている者同士を【番】と呼ぶようになった」


 発情期だ、交尾だとセンシティブな言葉が容赦なく繰り出されるが、当時の状況を語っているメリルから発せられる言葉には重みがあり、不思議と幻想的に聞こえた。


「番になると魔力も魔法も強くなる傾向がある。ただし、誰でも良いわけでは無いから気をつけることだ。ふく様は種が強くなる事を良しとし、積極的に番を作ってもらうように、との事だ。まあ、無理に作る必要は無いからそこまで気にしなくても良い。ただし――」


 メリルの作った間に一同が釘付けとなる。


「男子諸君、浮かれすぎて女子のことをあまり舐めない事を忘れぬように。授業時間もあるから端折っているから、もし気になることがあればいつでも保健室に聞きに来るといい。では講義を終わる」


「「「ありがとうございました!」」」


 授業が終わり、レンはメリルの所に走る。


「先生!ありがとうございました!……その、まだ分からないけど、頑張ります!」


「ふむ。まあ、お前ならそれほど苦労はしないだろうが、頑張ることだ。それでは放課後、待っているぞ」


「……?わかりました!」


 メリルの言った事はレンにはよく分からなかったが、放課後の訓練が楽しみでいるレンは元気よく返事を返したのだった。

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