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落ち込むリコ

 野狐族。

 レンはこの意味を知っていた。

 この国が発足された時に名を連ねていた種族。

 生まれつき魔法の適性が強く、数は少ないものの長生きの多い種族。

 戦闘能力が高く、戦場で死亡することが少ないため国の庇護をほとんど受けずとも今日まで生き延びて来た。

 この国は『誰に対しても平等に扱う』というのがルールの一つだが、野狐族だけは違った。

 彼らは国の端に集落を追いやられ、高い壁によって分断され、他種族に干渉することを規制されていた。

 このような事になったのはこの国が発足した辺りに起きた事件が原因だった。

 国に大きな災厄が訪れた時、一族が揃って謀反を起こした事だった。

 当時に比べると、規制自体は緩くなっているが、国家反逆を引き起こして、野狐族が残っているのは女王ふくのお陰である。

 二度目の災厄が訪れた際、大きく数を減らしてしまった時に規制が緩和されたが、野狐族と他種族との溝は大きかった。

 リコは規制が緩和された後の子ではあったが、酷い扱いを受けて来たのだとレンは感じる。

 辛いヒトがいたらそっと寄り添う。

 猫族の習性であった。


「リコさんはダメな野狐族じゃないよ?だって、オレの魔道具をあんな強い魔法にしてくれたんだ!オレが使ったんじゃ、あんな威力には全然ならないし、リコさんが本当の力を引き出してくれたから、みんなが驚いたんだ。ありがとう」


 レンの腕で抱きしめられるリコはそっとその手を退かせて少し距離を取り、正座をして深々と頭を下げる。

 指先までピシリと伸ばされた所作を見て、リコは良い教育を受けているものだとレンは理解する。


「ごめんなさい……。私はこれ以上レンくんの迷惑をかけられません……。部活ももっと相応しい方がいるはずです……。本当にごめんなさい」


 顔を上げたリコは涙こそ流していないものの、両の耳を完全に垂らし、目を赤くしていた。

 レンは胸の深い所に刃を突かれたような痛みに襲われ、胸をギュッと押さえる。


(リコさんは苦しんでる……。あの時のオレよりももっと酷い……)


 レンは先日紋章魔法で危うくクラスメイトを傷つけてしまうかもしれない威力で魔法を放ったことを思い出していた。

 どのような言葉で、態度でリコを元気づければよいのか考えるが、こういう事を経験した事がないレンには考えがまとまらなかった。

 不安と沈黙の中、部室の入り口が開かれ、レンは振り向くとメリルの姿があった。

 レンの不安な様子とリコの姿を見て頷くとメリルはリコのそばに座る。


「リコ。今回の件だが、私の紋章魔法に対する理解が不足していた事でお前の心に負担を与えてしまい申し訳ない。私はお前達が言っていたことを信じてやれなかった事が原因だ。決してリコのせいではない」


「先生だって……野狐の私を……魔法も制御できない危ない種族だって思ってるのではないですか……?元々ノーマジで野狐族の落ちこぼれが魔法技能以外の成績が良いから調子に乗っていると……」


「無いな」


 メリルが短く答えると、リコは思わず目を点にする。

 再び険しい表情に戻ってしまうが、メリルはリコを真っ直ぐ見つめる。


「お前が自身や他人のことをどう思っているかは分からないが、少なくともお前のために行動しているヒトはいる。そうだろう?レン」


「えっ!?」


 不意にレンの名前を呼ばれ、気の抜けた返事をしてしまう。

 リコは不審な物を見るような目でメリルとレンを交互に見る。


「レンはお前のために魔道具を作っていると私は聞いている。自身が魔法を使うためでなく、お前に自由に魔法が使えるように、と。その本人がお前を慰めている。リコ、お前のことを蔑んでいるように見えるか?」


「いえ……。私は……私は野狐だから……。レン君の作品が……レン君が私なんかで損しないように……」


「なら、お前がやる事はただ一つだ。お前のためにレンが魔道具を作るならば、お前がレンのためにその魔道具を使いこなせ。レンに恩を返すなら最もな選択ではないか?」


 メリルの言葉にリコは不信感を解き、眉間にシワを寄せて考える。

 どうやらリコは合理的に詰められると負けてしまうようだった。


「リコ。お前を蔑む者に心を迷わせるな。たった一人でもお前のことを理解しようとしてくれるヒトを裏切ることとなる。それは避けたいだろう?」


「うむむ……。わかりました……。レン君」


 レンはリコに呼ばれ、振り向くと申し訳なさそうな表情をするリコが見つめていた。

 ふとレンの胸がトクンと高鳴った気がしたが、今のレンにはそれが何を示すのか分からなかったが、リコの顔を見つめ返す。


「先程はごめんなさい。レン君の気持ちを全く考えておらず、大変失礼なことを言ってしまいました。以後気をつけるのでお許しください」


「ゆ、許すって……。オレはリコさんのこと怒ってないよ?先生に先に言われちゃったけど、リコさんのために魔道具を作っているのは本当だから、信じてもらえると嬉しいな」


「はい、私もレン君の期待に応えられるよう、魔法のことを理解しようと思います。不束者ですが、よろしくお願いします」


 リコは右手を差し出すとレンも同じように右手を出し、握手をする。

 それを見届けたメリルは表情を柔らかくし、うんうんと頷いた。

 そして、メリルは椅子に座り二人も同じように座る。


「今回の魔法事故だが、ふく様に少しだけ見ていただいた」


 レンは女王が今回の事故を解析したと聞き驚く。

 リコは少しだけ表情を曇らせたが、メリルの話を聞く体勢になるのだった。

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