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狐猫の重奏唄  作者: わんころ餅
入学編
2/65

入学式にて

 クラスメイトの自己紹介がつつがなく終わり、入学イベントは次に向かうようだった。

 終始、犬の男子から睨みつけられていたが、レンは無視をしていた。

 彼の名前は【ハウル】でかつてレンの住んでいた孤児院の地主の息子だった。

 あまり、刺激をするとお世話になった孤児院に被害が及んではいけないと思ってのシカトだった。


「よし……全員終わったな!それじゃあ、屋内競技場に行って入学の祝いをしてもらうぞ!」


 レンは立ち上がりサムの後をついて行こうとした瞬間、足元に向かって急に何かが飛び出てくる。

 しかし、そこはネコ族。

 レンの反射神経は鋭く、躓くことなく飛び上がって回避する。

 振り返るとハウルの足であり、悪意を持って飛び出した足だった。


 (そんな露骨にやらなくても……)


 相変わらず睨みつけられながらもサムの背後に陣取りこれ以上の被害を受けないようにした。

 屋内競技場は少し離れた位置にあるようで、レンはサムに気になることを聞いた。


「先生は教師になる前は何をしていたんですか?」


「お?気になるか?俺……じゃなくて、わたしは調査隊に所属していたんだ。最初期のな」


「さ、最初期の調査隊って……確か、十人の隊員とふく様とヴォルフ様の……!?」


「そうだぜ。あの時は……もう四十年くらい前か。中々大変だったのを覚えているなぁ……」


 サムが調査隊の隊員である事に驚くレン。

 特別秘匿された情報ではないのだが、残された書物が少なく、どんな人物が調査隊員だったか不明だった。

 分かるのは人数とこの国の女王と世界の神の名前、わずかに残っていた調査報告書のみだった。

 なぜ異常に少なかったのかというと、三十年前に起こったとされる地上からの侵略行為の余波で書館が焼け落ちた為である。

 現在付き人と女王が書物の復旧に力を入れており、魔法の力でどうにかなるか模索中のようである。

 そして、レンの前に生き字引がいる。

 レンは目を輝かせてサムに質問をする。


「調査隊のメンバーって誰なんですか!?どんなところまで進んだんですか!?一番強い人は誰でしたか!?一番大変な事って何でしたか!?それから、それから……!」


「ノーマジ(ノーマジック:魔法無しの蔑称)のくせにウゼェぞ!引っ込んでろ!」


「ハウル。それは差別用語だ。初日から指導を受けたいのか?」


 ハウルがレンに対し、蔑称を放った事でサムの眉間に皺が寄る。

 レンを含めた生徒たちはぴくりと身体を震わせ、サムの実力の片鱗を感じ取る。

 それでもハウルは気づいていないのか、あるいは余程自信があるのか不明だが、サムに食ってかかる。


「俺のパパは町の土地をほとんど持ってる地主だぞ!教師如きが俺に指図して良いと思ってんのかよ!?」


「それはハウルの【父親】が持ってる土地だろう?決して【お前】の持ってる土地や実力ではないだろう?言いつけたければそうすれば良いが、私の上司は【宮廷魔導師長】と【女王陛下】だけだが……」


 【宮廷魔導師長】と【女王陛下】というパワーワードが出てハウルはサムの立場が非常に高いことを察し、ダンマリを決め込む。

 因みにハウルのようなタイプのヒトは毎年現れる為、教師の管轄を分かりやすくしているのだ。

 従ってサムだけではなく他の教師も上司は同じである。

 嘘はついていない。

 すっかり大人しくなったハウルを見た後、レンの方へ顔を向けると、本日三度目のウインクをお見舞いする。


「何だかんだもう着くから調査隊の話はまた今度な?それじゃあみんな、位置が決まっているから逸れないように」


 屋内競技場へと入っていくと他のクラスも同じように入場していた。

 中は非常に広く、我々の世界でいうと一般的な野球場二つ分の広さがある。

 制服は等級に関係なく同じデザインであり、区別がつかないようになっていた。

 指定された席に座り、待機していると競技場内が突然静まり返る。

 正面の舞台に青い髪をした羊族の女性が立つ。


「先ずは入学おめでとう。学園長挨拶といきたいが、急務のため、代理のめえという。一年だけという短い期間だが、諸君たちには大人のいろはを叩き込ませてもらう。そして、卒業した暁には我々のように女王ふく様のため、氷狼ヴォルフ様のために尽くしてもらいたい。わたしは保健室にて治療を専門としているから、ケガをしたならいつでも頼ってくれ。それでは以上を入学の挨拶とさせてもらう」


 めえと名乗る羊族の教師は深々と頭を下げ、壇上から降りていく。


「入学のテスト、あのヒトでした……!」


「お、めえさんか!まあ、めえさんが言うなら本当に魔法を持っていないんだろうな……」


「そんなにすごいヒトなんですか?」


「凄いも何も……魔法の研究者だからな。他にも色々いるぜ」


「ほぇ〜……凄いなぁ……」


 レンは魔法がないと言われたショックよりも『凄い魔法の研究者』というヒトに見てもらえたことに感動し、すっかり忘れてしまったようだった。

 サムの話を聞いていると、名のある実力者たちが学園で教師をしているようで、レンの好奇心がくすぐられる。

 入学式が進行していくと卒業生が壇上に上がったかと思うと、入学テストの時にすれ違った野狐族の女の子が壇上に上がって来た。


「あの子……」


「あぁ、特級クラス筆頭のリコだな。彼女は歴代で最高の魔力量を誇る凄い生徒だ。おれ……じゃなくて私も記録を見たが、もしかしたら凄いことになりそうだな」


 レンは魔法無しで中等級程度の魔力量である自身と比べ、才能に恵まれた彼女を羨ましく思う。

 卒業生から新入生に言葉が贈られ、入学式というイベントはトラブルなく終わった。

 教室に戻り、サムがくじ引き用の棒と筒を持って来ていた。


「それじゃあ、これからお前たちは屋外競技場で模擬戦をしてもらう。戦うための道具はこちらで準備するが、あくまで殺傷力の無い道具だけだ。それと、魔法に関しても過剰だと判断したら私が止めに入る。それではくじを引い――」


「先生!」


 くじ引きが始まろうとした時、教室に一人の生徒の声が響く。

 ハウルだった。

 相変わらずレンを睨みつけるが、目を合わせないレン。

 そんなレンに対し、舌を鳴らした後サムの方へと見る。


「俺とレンを戦わせろ!」


「なぜだ?」


「地主の息子として、世の中は厳しい事ばかりだと教えるためですよ!コイツは調査隊をナメすぎです」


「……だそうだ。レンはどうなんだ?」


 正直関わりたく無かった。

 それを分かっているサムは助け舟を出していたのがレンにも伝わる。

 しかし、トーマの意思は違った。


「オレ、やれるか分からないけど……やってみたいです……!」


 その答えにサムはニカッと笑い、了承する。


「よし、それじゃあお前たちは一番最初に戦ってもらうからな?他のやつもくじを引きに来るんだ!」


 こうしてレンとハウルは初日から戦うことになったのだった。

 魔法を使えないレンはどうやって戦うのか?

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