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フラッと女王様!?

 砂埃が立ち込める中、レンは意識を取り戻す。

 リコの魔法は観客席を守るための防御魔法は完全に破壊されており、魔法の余波は観客席すら破壊していた。

 レン自身もグラウンドに立っていたはずだったが、観客席まで飛ばされていたようだった。

 改めてリコの魔力の規格外さを身を持って体感する。

 レンは半壊した観客席を歩いて他の生徒を探すが、不思議な事に一人も遭遇する事がなかった。

 不思議に思って歩き回っていると、突風がグラウンドの中心から吹き付けられ、砂埃を無理やり振り払われた。

 ハウルはルゥに護られ、リコはメリルに護られており、無事である事がわかる。

 それと同時にリコがここに居るヒト以外を吹き飛ばし、安否不明な状況になってしまった事に焦る。

 レンはメリルの指示を仰ごうと観客席から飛び降りた瞬間、パチンと乾いた音が鳴り響き、観客席にいた生徒たちの姿が現れる。

 全員尻餅をついて動けない中、制服ではないヒトが立っており、レンはその姿に釘付けとなる。

 野狐族のような見た目をしているものの尻尾が九本もある女性。

 学園の教師たちは制服を着ていることから、彼女は学園の教師ではない事がわかるが、メリルとルゥが彼女を見た瞬間跪き、ただならない空気が漂う。


「めえよ。この騒ぎはなんじゃ?」


「ふく様申し訳ございません。生徒の魔法の暴走によってこのような事態になりました」


 ふく様と呼ばれた女性は周囲を眺めると再びメリルに問いかける。

 メリルは片膝をつき、首を垂れる。

 

「ふむ……。この残滓からすると、紋章魔法のようじゃが、誰の魔法じゃ?」


 彼女は一瞬で魔法の発動方法を探り当て、レンは驚いた顔をする。

 ふくの問いにリコが一歩前に出る。

 リコはいつもの変わらない表情ではなく、怒りに満ち溢れた表情でレンは固唾を飲む。


「私です」


「ふむ?野狐族の娘か。名は何という?」


「リコです」


「りこ……か。確か学園初めて以来の最高の魔力を持つ子じゃったな?めえよ、紋章魔法の基礎基本は教えておるのかの?」


「申し訳ございません。私の好奇心で、彼女に学習を受けさせないまま使わせてしまいました。どのような処罰でも受け入れます」


 メリルがふくに対し深々と頭を下げるとルゥがメリルとふくの間に立つ。


「決闘話を嗾けたのは自分です。メリル様だけに処罰を与えるのは不公平ですので自分にも処罰を分けてください」


 レンは大人二人が一人の女性に頭を下げるという事に驚き、走って駆けつける。


「あ、あの!先生たち、悪くないんです!オレが、本の魔道具を作ったからみんな予想外のことが起きて……その……ごめんなさい!」


 ふくは一瞬驚いた表情をするが、直ぐに元の表情に戻る。


「ではお前が紋章魔法の描いた本人と申すか?」


「はい……」


 ふくの金色の瞳と溢れ出る魔力から遥か格上の人物であることを悟り、萎縮してしまう。

 しかし、事の発端は自身である事を認め、俯く。

 するとリコの手がレンの肩に触れ、申し訳なさそうな表情でレンを見つめる。

 

「レン君が怒られる必要はないです。私が皆さんを傷つけたのは事実なので」


「ん?誰も傷付いてはおらんがの?わしが客席におる生徒たちを一度屋内競技場に【飛ばした】のじゃ。魔法はそれからじゃの。誰も傷付いてはおらんから誰も罪には問わぬ。めえよ、ポチおに競技場を直すようにと命ずるのじゃ」


 ふくはそれだけ伝えると一瞬で姿を消したのであった。

 リコは浮かない顔をしていたが、一先ずお咎めなしという事で表情が少しだけ柔らかくなる。


「あのヒト、何だったんだろう……?すごく強いのは分かったんだけど……」


「あの方が女王『ふく様』だ。最強の魔法使いだぞ」


「ええっ!?あのヒトが!?すごく、怖かった……」


 女王である事に驚くと共に女王という立場の人物がフラッと学園に立ち寄るという事にも驚く。

 観客席にいた者たちは一瞬のことで何が起きたか分からず、ポカンと口を開けるしかなかった。

 ルゥは手をパンパンと叩き、注目を集める。


「今回の決闘はリコの反則負けだ。相手を死に至らしめる威力で放つ事は厳禁というルールに反したからだ。異論は無いな?」


 リコは頷くと部室等の方へスタスタと歩いて行く。

 レンは走ってリコの姿を追いかけていると観客の中に先日リコと一緒に郊外に出ていた特急クラスの女子を見かける。

 彼女たちはリコの姿を見た瞬間、目を逸らして気まずそうな表情でヒソヒソと話す。


(どういうことよ!?魔法使えないってウソ!?)


(知らないわよ!あんな風魔法見たことないわよ!)


(もう、関わるの止そうよ……!あんなの食らったら死ぬよ……!)


 三人はリコからジリジリと離れて行く姿を見て、レンは少し誇らしげな表情を浮かべ、通り抜けていった。

 リコは部室に到着すると部屋の隅で魔本を抱えて座り込む。

 そんな姿を見たレンはリコの隣に座り、尻尾をリコの腰に巻き付ける。

 これは猫族の習性であり、仲間だということを教えるものである。

 それを無意識に行っていた。


「リコさん……どうしたの?」


「ごめんなさい……」


 レンは謝罪の意味を理解できず、首を傾げる。

 リコはどこか思い詰めた様子であり、理由がわからないレンには不安しかない。


「リコさんが謝るようなこと、した?」


「私のせいでレンくんの魔道具が強い物だと証明できませんでした。逆にあんな恐ろしい物だと沢山のヒトの心に植え付けて、レンくんの顔に泥を塗るようなマネをして……。私はやはりダメな……野狐族です。忌み嫌われても仕方が無いです……」


「……」


 レンは一瞬言葉に迷ってしまう。

 言葉を紡ぎ出せなかったレンはリコの横からそっと抱きしめるのだった。

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