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特殊な目をしていた!?

「特殊……技能……?」


「そうだ」


 レンは初めて聞く単語に首を傾げる。


「これは種族性別関係なく、本当に持って生まれた才能のようなもの。それだけでは役には立たないが、使い方を理解すると魔法なんかよりもずっと凄いものになる。例えばだな……『一度見たものを完全に再現する』や『過去を見通す事ができる瞳』など様々なものがある。それはもちろん訓練した結果であり、それほどにまで成長した特殊技能は努力の賜物であるというのは分かるな?」


「はい……そんな凄いものがオレに……?!」


「ただし!あくまで今言った特殊技能は血の滲むような努力の結晶と魔法を持って生まれてきた者たちである事だ。レン、お前の場合は非常にイレギュラーな存在だ。特殊技能があって魔法がないパターンは初めてだ。こればかりはどうなるかは私にも分からないが、出来る限り協力をするつもりだ」


 レンは自身の眼が特別であることを理解し、嬉しそうな表情をする。

 男の子はやはり特別という言葉に弱い。

 するとリコはレンの肩をツンツンと突き、疑い深い表情で見つめる。


「ど、どうしたの?」


「その紋章が出てくる時間はどのくらいですか?」


「うーん……たぶん、一瞬なんだと思う」


「思うとは何故ですか?」


「ええっとね……猫族って動くものに対して遅く見える体質なんだ。その代わり少し視力が弱いんだけど」


「リコ……それは授業で習ったはずだと思うのだが?」


 レンが猫族の特性を話していると、特級クラスでは既に講義済みだとメリルからツッコミが入ってしまう。

 それを聞いたリコは目を丸くして驚くと、すぐに頭を下げる。


「申し訳ございません。他種族のことは興味が無かったもので、聴いておりませんでした」


「それはそれで問題なのだが……。まあ良い。話が逸れてしまったね。レンのそのやり方は確か『魔本』とポチおが名付けていたな。魔道具を作ったり、活動に必要な細々としたものを精製したりするのはもちろん役に立つやり方だから、よく気がついた」


「あの」


 突如リコが手を挙げ、もう片方の手で本を指差す。


「私にそれを使わせてください」


「良いけど……?」


「リコ……まさかとは思うが、特別講義が退屈になったとは言わないだろうな?」


「いえ、小さな紋章であれば私の魔力でも周辺被害が少ないかと思いまして」


「??」


「ああ〜……」


 メリルはリコの言った事が理解できず、反対にレンはその意味を理解し、本を手渡す。

 レンはメリルの方へ振り向き、畏まった姿勢になる。


「先生!この魔本を使って実験をしたいんですが、どこか広いところはありますか?」


「ふむ、そういう事ならば魔法競技部に連絡して少しの間使わせてもらおう。では行くとしよう」


 三人は部室を出てすぐ目の前の屋外競技場のグラウンドに向かう。

 魔法競技部の部員たちはメリルの姿を見るなり、練習を中断し、一列になって頭を下げる。


「「「「「こんにちは!」」」」」


 あまりの声量にレンとリコは怯んでしまう。

 メリルは右手を軽くあげて挨拶を返す。

 そして、魔法競技部の奥にいた顧問の教師が走ってメリルのところまで行く。


「お疲れ様です。先生、どうされました?」


「練習を中断させてしまってすまないな。新しく魔法工作部というのを発足してな、少しばかり実験のためにグラウンドを使わせてほしいのだが」


「そういうことでしたか……。そうですね……実は卒業生たち最後の大会がありまして、内容によっては引き受けられないです」


「それもそうだ。私の部活の生徒が作った魔道具がどういった挙動で動くのか首席にやってもらうというものだ。少しは興味があるだろう?」


「あぁ……、例のあの子ですか?そうですね……少し休憩がてらにやっていただくと言うなら大丈夫ですよ」


 渋々だが魔法競技部の顧問は承諾し、レンとリコは実験に進むことができた。

 レンはリコに預けている魔本のページを捲り、説明していく。


「これが【結合】で、これが【加速】で……」


「比較しやすいので、風魔法の紋章を使わせてください」


「あ、うん」


 レンはページをパラパラと捲っていき、リコの注文通りの風の紋章を部分を開く。

 そのページを開いたままリコに渡すと、少し思い詰めた表情をし、口を開く。


「あの……。私の見立てが間違いなければなのですが、もし――」


「おいレン!」


 聞き覚えのある声が聞こえ、レンは反射的にビクリと飛び上がる。

 振り返ると想像通り声の主はハウルであり、既に敵対モードになっていた。

 敵対モードはいつものことであるのだが、いつにも増してそう感じ取れる。


「何先輩たちの邪魔してんだよ!卒業したら正規軍に入隊が決まっているヒトたち何だぞ!」


「先生たちで話し合って決めてもらったんだ。ハウルが口出さないでよ!」


「あぁ!?ノーマジが何をほざいてんだ!すぐに先輩たちにグラウンドを返せよ!」


 ハウルはレンに掴みかかろうとした瞬間、二人の間にリコが立ちふさがる。

 表情を一切崩さずハウルを見上げる。


「んだよ?邪魔すんな!忌まわしき野狐!」


「私のことをバカにするのはいいですが、レンくんのことを蔑んだことを詫びてください」


「何でだよ?ノーマジにノーマジと言って何が悪い?ここは魔法を学びに来るところだ。ノーマジの来るところじゃない!」


「……なら、私が証明してみせます。レンくんの魔道具が間違っていないことを私が証明してみせます!」


 強い意志の込められた瞳にハウルはたじろいだが、すぐにリコに睨み返す。


「やってみろよ!」


「はい二人ともそこまで。そんなに血気盛んになるなら決闘でもしてみるかい?我々教師陣がここにいるからすぐにでも承認できるけど。めえ先生はどうだい?」


「私は生徒の意思に任せよう。そのための決闘システムなのだから」


「ですね」


 メリルと魔法競技部の顧問は了承する形となると、レンはリコの隣に立ち、メリルの方へ顔を向ける。

 レンの意図を読み取ったメリルは頷き、魔法競技部の顧問に目配せする。


「ではハウルとレン、リコの決闘を認め――」


「すみません。レンくんは今回お休みにしてもらっていいですか?私がやらなければ、レンくんの魔道具が優秀だという証明にならないので」


 リコによる突然の一騎打ちとなり、メリルはリコに確認を取る。


「リコ、それでいいのか?魔法戦闘自体は初めてだろう?」


「はい。ですが、私が決めたので。レンくんにご迷惑はおかけできません」


「オレは気にしてないんだけど……」


「特級クラスの首席だろうが魔道具なんてものを作ってコソコソしている連中に負けるわけがないっ!」


 全員の確認が取れ、屋外競技場はリコとハウルの決闘として使用されることになったのだった。

 そして、その噂は瞬く間に広がっていき、部活動の垣根を越え、ほぼ全生徒が観戦するのである。

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